日銀の黒田東彦総裁は11日の金融政策決定会合後の記者会見で、日本経済は「前向きの循環メカニズムが働き始めている」と強調した。日銀は会合で景気の基調判断を「緩やかに回復しつつある」と上方修正し、政府に先んじて2年半ぶりに景気回復を宣言。総裁は「2年で2%」の物価上昇シナリオが想定通り進んでいることに自信をみせた。
「さまざまな経済指標から素直に引き出せる結論だ」。総裁は会見で「回復」の理由を問われ、こう力を込めた。特に強調したのが、企業心理の改善が設備投資につながる「前向きの循環」だ。
4月の大胆緩和以降、これまでは金融市場の株高・円安など「期待」先行の面が強かった。しかし6月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)では今年度の大企業製造業の設備投資計画が前年度比増加に上方修正。緩和効果が波及する道筋が見えてきた形で、総裁は「想定した方向で経済が動いている」と語った。
乱高下が続いた長期金利も積極的な国債買い入れで6月以降は0.8%台でおおむね推移。総裁は「金利は極めて安定している」と指摘した。
会合では4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を中間評価。消費者物価指数(CPI)の上昇率見通しは2015年度が消費税率上げの影響を除いて1.9%と従来の見通しを維持。13年度は0.6%、14年度は1.3%と、それぞれ0.1ポイント下方修正した。総裁は「4月に比べ内需はやや強め、外需はやや弱め」とし、2年で2%の物価上昇シナリオは「おおむね見通しに沿って推移すると見込まれる」として堅持した。日銀内では「当面は追加緩和は不要」との声が強まっている。CPIの上昇率も円安効果で7月末公表の6月分が1年2カ月ぶりにプラスに転換する見込み。当面は現在の「量的・質的金融緩和」を継続する方向だ。
市場参加者の間では日銀よりも慎重な見方が根強い。日本経済研究センターが11日まとめた民間エコノミストの予測平均は15年度のCPI上昇率は0.95%で、日銀の半分にとどまった。
日銀内にもなお物価上昇シナリオへの異論が残る。総裁は民間エコノミスト出身の木内登英、佐藤健裕両審議委員が同日の会合でも「2年で2%」の実現に慎重な見方を示したと示唆した。
先行きに不透明感を漂わせるのが中国などの新興国経済と、縮小のタイミングを探り始めた米国の量的金融緩和第3弾(QE3)の行方だ。世界の金融市場に動揺をもたらしており、総裁も「注意深く見ていく必要がある」と警戒感を示した。
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