安倍自民総裁:首相再登板へ、参院選にらみ「脱デフレ」最優先に (1)
12月17日(ブルームバーグ):自民党が16日の衆院選で圧勝したことで、安倍晋三総裁(58)が年内にも開かれる特別国会で首相に選出されることが確実となった。安倍氏は憲法改正などを主張する保守政治家として知られるが、来年夏の参院選もにらみ、当面は日本銀行による大胆な金融緩和や大型経済対策などを実現させてデフレからの脱却に取り組むことが最優先課題になる。
安倍氏は15日夜、東京・秋葉原で行った最後の街頭演説で、「私たちの政策に対して野田佳彦首相や日本銀行はさまざまな文句をつけているが、だったら野田政権や日銀はデフレから脱却できたのか」と現政権と日銀の対応を批判した。「次元の違う強力な経済政策を進めて必ずデフレから脱却していく」と宣言した。
選挙期間中、市場では安倍氏率いる自民党が衆院選で優勢との見方が広がったことで円売りが進んだ。野田氏が解散を宣言した11月14日に79円台だった円ドル相場は、1カ月間で83円台後半まで円が売られる展開となっている。ただ、7-9月期の国内総生産(GDP)改定値は、前期比年率で3.5%減とマイナス成長に落ち込んでいる。
静岡県立大学の本田悦朗教授は、新政権では憲法改正などよりも、経済への対応が最優先課題となると指摘。 9月の自民党総裁選で安倍氏を支持し、首相再登板への道筋を作った麻生太郎元首相も15日の街頭演説で、「政権を奪還して一丁目一番地でやらなければならないのは景気対策だ」と訴えた。
保守安倍氏は、祖父が岸信介元首相、父親が安倍晋太郎元外相という政治家一家に育ち、父の秘書などを経て1993年の衆院選で初当選した。06年の首相就任前に出版した著書「美しい国へ」(文春新書)では自らの政治的立場を「開かれた保守主義」と位置付ける。
在任中は防衛庁の省への昇格、憲法改正手続きを整備する国民投票法、教育基本法改正など保守勢力の悲願だった政策を相次いで実現したものの、首相就任後、体調をくずしてわずか1年で辞任した。
復権をかけた9月の総裁選では出馬会見の冒頭で、「国民の皆さま、党員の皆さまに心からお詫びを申し上げる」と5年前の辞任を陳謝。政策としては金融緩和のほか、憲法改正の実現などを訴え、党員票で優勢だった石破茂現幹事長を決選投票で破り、総裁に返り咲いた。
そんな安倍氏の首相再登板に日本の保守層は期待する。15日の演説会には開始予定時刻の1時間以上前から日の丸を掲げた多数の市民が待機していた。
憲法改正東京都豊島区の山本大介さん(28)は「安倍総裁の経済政策と歴史観に賛同するから衆院選では自民党に入れる。憲法も含めて日本の戦後体制を変えてほしい」と安倍氏への思いを語った。
ただ、この日の街頭演説で安倍氏は経済のほか、日教組批判や尖閣諸島周辺での中国の領空・領海侵犯などへの危機感を訴えて防衛力増強の必要性も主張したものの、憲法改正については触れなかった。安倍氏は9月の総裁選に同じ場所で行った演説で「憲法改正に挑戦しようではありませんか」と訴えていた。
憲法第96条により、憲法改正には衆参両院で3分の2以上の国会議員の賛成による発議と国民の過半数の賛成が必要になるが、現状では自民党と協力関係にある公明党を合わせても参院では過半数にも届かない。安倍氏は集団的自衛権の行使を一部可能にするための憲法解釈の変更も主張しているが、公明党は慎重でこれには与党内での調整が必要になる。
パートナー公明党の山口那津男代表は6日のブルームバーグ・ニュースのインタビューで、安倍氏の憲法に対する姿勢について「過去の首相時代のことを考えると従来の政府の取ってきた方針、あるいは連立を組むパートナーとの関係、それらを踏まえて柔軟に妥当な判断をしてきたとわれわれは思っている」と述べた。
山口氏は衆院選結果を受けた17日午前の会見でも、憲法改正をめぐる問題について「慎重に議論していくことが重要だ。非常に幅広く重い課題なので今、性急に結論を急ぐことでは必ずしもないと思っている」との見解を示している。
安倍氏も7日のテレビ朝日の番組で憲法改正について「まず96条の改正条項を変えたいと思っているが、このためにもしばらく時間がかかる」と中長期的な課題とする考えを示していた。
安倍、麻生両氏が15日夜、最後の街頭演説会場に選んだ秋葉原駅前。両氏が会場に到着すると拍手と歓声に包まれた。安倍氏が日銀批判を展開すると、聴衆は「白川方明日銀総裁をクビにしろ」「日銀法改正だ」とこれに呼応する声援を送った。
「参院では『ねじれ』がある。参院選が終わってから伝統的な保守の政策に取り組んでほしい」-。水戸市から来た医師、青木義人さん(38)は、安倍政権誕生への期待感を語った。
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更新日時: 2012/12/17 12:41 JST