VRMMOはこんな使い方もできるんだ
「おらおら~、論破してやったぞバカども~。少しは謝る気になったか? 失礼なことばかり言いやがっ、ぶふぇえっ」
「失礼なのはお前だ」
ヤマトの右拳が「矛盾」の顔面を見事に捉えた。
「矛盾」は吹き飛んでいく。
「逃がさないよ」
「へあぁっ」
着地しようとした瞬間、今度はヤシロが蹴り上げた。
いつの間にか後ろに回り込んでいたのである。
「ああああああ! いっつあああああああああああ! あ?」
「治癒。ふっ、簡単に殺しはせんよ」
「はぐああっ」
ヤマトは一度「矛盾」を回復させ、すぐに地面に叩き付けるように殴った。
地上ではヤシロが待ち構える。が、何もしなかった。
人体がつぶれる時の、嫌な音が鳴り響く。
「ちょっ、兄ちゃん強く殴り過ぎ。ワンパンで死んでるじゃん」
「まあいいじゃないか。魔法で復活させられるんだから」
「まあそうだけどね。復活」
「うっ、ここは……あぶしっ」
目を覚ました「矛盾」へ無慈悲にもヤシロの右拳が決まった。
そして再び治癒、攻撃、治癒、攻撃、が繰り返され始める。
時たまやりすぎで殺してしまい、復活を使わざるを得なくなるが、膨大な魔力はほとんど減らず、また驚異的な速さで自動的に回復していくために尽きることは無い。
しかし、ある時ふと、ヤマトの動きが止まった。
「うーん、ちょっと設定いじってくるわ。そいつ死ぬの早すぎる」
「それもそうだね。じゃあお願い」
「ああ、行ってくる。一人で楽しんでおけ」
「おk」
互いに手を振っている最中、ヤマトの動きが止まり、やがてアバターごと消える。
残されたヤシロは左手で「矛盾」の頭をぞんざいにつかむ。
「いたああああああっっ。ひぎいいああああああああああっ」
「えいっ、えいっ。ふふっ。デコピンもけっこう痛いでしょ」
右手の中指、子供の腕ほどもあるそれから放たれたデコピンが「矛盾」の額を殴り、悲鳴を響かせる。
「きみさあ。矛盾したこと言い過ぎなんだよ。ダブル・スタンダードって言うかさあ。今数えてみても、良識を問うきみに良識が欠けていたり、うぜえと叫ぶきみが一番うるさかったり、失礼だと責めるきみが醜い暴言を好き放題述べたり、偽善を語るきみが偽悪をダサいと言ったり」
「やめんかコルアアアアア! ふぐうっ。ウアアアアアア」
「治癒。なんて言うかさ。さも問題があるかのように煽って、他人を攻撃的にさせて、混乱させて。それってやられた側は楽しめないじゃん。今のきみみたいにさ」
「や、やめろ。やめろやボケナスがアアア! 何説教垂れとんじゃあガキイイイイ! ぶふっ」
「きみのやり方だと必ず嫌な思いをする人が出る。今のきみみたいに逃げることもできない。それってさ、損をした人に押し付け過ぎだと思わないかい?」
「しゃべんなボケえ。キモいんじゃ! 消えろ! さっさと消えろおおおおお!」
「治癒。分かんないか。嫌な思いをすれば人にやさしくなれるって考え方もあるけど、やっぱり場合によるってことだよね。まあその分、罪悪感なくきみをいたぶれるのだけどさ」
「はあ、はあ。いっ、痛いいいいっ。ひぎいいいいっ」
今度は強力な爪で横腹をつらぬいた。
そして抜くと、すぐさま「治癒」で治療する。
「ひいっ」
が、ヤシロは再び右腕を振りかぶった。
「あがああああっ」
そして再び、突き刺してしまう。
再び抜くと、また次の治癒、また次の突き、と繰り返される。
テンポはかなり速く「治癒」「治癒」「治癒」「治癒」「治癒」「治癒」とその単語が約3秒おきに繰り返された。
この間「矛盾」は絶叫しっぱなしである。
「おおーーう。やってんなあ」
と、ここでヤマトも帰ってきた。
アバターは魔人でなくなっている。今度はえらいイケメンだ。目鼻立ちがはっきりとしている。
さらに、隣に女の子を連れている。今は寝ているが。
「ふっふっふ。この子、「矛盾」の初恋の人」
「あっ。もうやっちゃうんだ」
「ふふっ。まあね」
ということは、18歳未満には見せられない映像が流れることになる。
ちょうど女の子も起きた。
「ふああ。……何ここは。夢? うっ、すっごいイケメン」
「そりゃあどうも。だけどきみもかわいいよ」
「えっ、そうなの? かわいいってももう23だけど」
「十分かわいいさ」
「そう? ふふっ」
いや、おそらく今の彼女は見た目12、3歳である。
たぶん「矛盾」の初恋の時期に合わせるように、ヤマトがアバターの見た目を幼くしたのだろう。
数分後、「ここは夢だ」「楽しくいってみよう」と短く事情を話すと、女の子は乗り気で賛成してくれた。
「うわあああああ。花園さん、うわあああああ」
「黙れ」
「うっ、んぐっ。んんんんんっ」
初回はヤシロも「矛盾」と一緒に見学である。
「うわっ、名前呼ばれたし。というか、本当にこの太い人に見えるようにやるの?」
「まあいいじゃん、夢だしさ。その方が興奮するでしょ?」
「うーん。まあ、いいのかな。でも悪魔は怖いな」
「それも、興奮を誘うってことで」
「それもそうかな。よし、やろう」
「ふっふっふ、いいよ」
男女は求め合い、激しく交わり、気分が良くなって、すぐに落ち着いた。
「はあ、はあ」
「はあ、はあ。ふう」
「兄ちゃん。次は俺の番。二次キャラのかわいいアバター用意してね」
「ああ。待ってろよ」
「よし、よし、よし。くっくっく」
ヤシロが喜んでいる間に、再びヤマトはログアウトした。
その間、「矛盾」はやや放心状態で「クソ。あのクソビッチめ。裏切った。よくも俺を裏切ったなクソビッチめ」などとぶつぶつ言っている。
「おーし。喜べヤシロ。すごいのが手に入ったぞ」
しばらくして、再びヤマトが帰って来た。
今度はとあるアニメの男性キャラになっている。
横に連れているのはそのアニメのヒロインだ。
「ちょ、ちょっとあなた。というかルーシー? どこよここは。夢?」
今来たばかりの、赤髪の凛とした女の子は、かわいらしく慌てている。
「うひゃあああ。アイちゃんだ。へへっ」
「驚くのはまだ早い」
ヤシロが喜んでいると、兄は心底愉快気に口端をつり上げた。
不思議に思い、コテンと首を傾げ、アイちゃんを凝視してみる。
「ちょ、何なのこれ。説明しなさいよねルーシー。って、なんで私は夢の中でまで演技を」
「こ、この声とテンポ。それに、今の話ということは、まさか」
「そう。そうなのだよ、弟ちゃん」
「う、うおおおおおおおっ! 中の人来たあああああ!」
「え? 悪魔? 何なのこれ。変な夢ね」
アイちゃんは「うーん」と眉をひそめる。
その声、仕草にヤシロは大興奮した。
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