日本の財政危機をめぐる虚実/本当に危機的なのか?
THE PAGE 7月10日(水)12時23分配信
一方、公的債務は国際的な比較(横方向の比較)よりも、時系列的な変化(縦方向の比較)が重要であるとの考え方もある。国際的に見て債務比率が高くても、増加幅が緩やかであればそれほど心配する必要はないと解釈することも可能だ。
図2は明治時代から現在までの120年間にわたる超長期的な政府債務のGDP比推移を示したチャートである。これを見ると、GDP比が200%という現在の政府債務水準は歴史的に見ても極めて高い水準であることが分かる。唯一の例外が、太平洋戦争の終了時で、日本政府が事実上破綻した1945年前後である。
太平洋戦争では、国家予算(一般会計)の70倍という途方もない金額が投じられた。戦費のほとんどは日銀による国債の直接引き受けで賄われたため、日本は終戦と同時にハイパーインフレになった(ちなみに米国は日本の2倍の戦費をかけたが、国家予算の30倍で収まっている)。単純比較は危険だが、現在の日本は、経済が完全に破綻した終戦当時に迫る債務比率なのである。
ちなみに政府債務が増大するという傾向は米国も同じで、やはり第二次対戦当時の水準に近付いている。だがその割合は100%程度であり、日本の半分以下である。しかも米国は財政再建をすでに開始しているので、今後は政府債務比率の低下が見込まれている。日本と比較すると状況はかなりよい。
公的債務の議論では、日本の国債保有者の多くが日本人なので基本的に問題ないという見解も聞かれる。この点については、公的債務問題が財政破綻のリスクを警戒してのものなのか、金融危機のリスクを警戒してのものなのかで大きく変わってくる。
現実問題として、日本の公的債務がさらに増大したからといって、ただちに日本が財政破綻を引き起こす可能性は極めて低い。市場関係者の中で、直接的な財政破綻のリスクを気にしている人はほとんどいないだろう。国際的に日本の財政が危険であると「認識」され、債権市場で日本国債が売却されるリスクを市場関係者は気にしているのである。
国債の現物は日本人が保有しているとしても、先物市場には外国人投資家が多数参加している。また新発の短期債に限って言えば、外国人の保有比率は20%に達しようとしている。ヘッジファンドなどが先物市場で売りを仕掛け、現物保有者の一部がこれに追随すれば、国債の価格をあっという間に下落させることができる。
これだけで日本経済を破綻させることはできないが、国債価格の下落は金融機関にとって大打撃となり、金融市場は混乱するだろう。市場関係者の多くが口にする公的債務リスクとはこのことを指しているのだ。
最終更新:7月10日(水)12時23分