栃煌山に突き落としで敗れる稀勢の里(手前)=愛知県体育館で
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◇名古屋場所<3日目>
(9日・愛知県体育館)
綱とりの大関稀勢の里(27)=鳴戸=が栃煌山に突き落とされ、早くも土がついた。両横綱は明暗。白鵬(28)=宮城野=は豪風をはたき込んで3連勝としたが、日馬富士(29)=伊勢ケ浜=は高安の上手ひねりで初黒星を喫した。高安は2個目の金星。全勝は白鵬と2大関、平幕の千代大龍と魁聖の5人となった。八百長問題での解雇をめぐる法廷闘争に勝訴して2年半ぶりに復帰した蒼国来(29)=荒汐=は十両の大岩戸を寄り切って初白星。
あまりにも重い序盤の1敗。2連勝と順調なスタートを切ったはずの大関稀勢の里が、3日目で平幕相手に痛恨の黒星を喫してしまった。
悪いイメージを引きずったまま土俵に上がってしまったのか。栃煌山には場所前の出稽古で7勝11敗と苦戦。もろ差しを狙う相手の攻めを極端に嫌がった。背中を丸め、やや前のめりになったところを左からいなし気味に突かれ、無残にも土俵下まで転がされた。
風呂から上がって支度部屋に戻った稀勢の里はしばらく沈黙。背中についた砂は洗い流せても心の傷は深いのか、やっと発したひと言は「攻めきれなかったですね…」
場所前から本調子とは言えなかった。3日に愛知県長久手市の鳴戸部屋に出稽古に来た日馬富士は拍子抜けし「どうしたんだ」と顔をのぞき込む場面も。この様子を見ていた本紙評論家で元横綱の北の富士勝昭さんは、「腰が重たい気がする」と首をひねった。
初日から「先場所ほどの勢いがない」と話していた北の湖理事長(元横綱)も「これが尾を引かなければいいが…。大事な序盤での1敗は苦しい」と心配する。
もちろん2003年初場所以来、10年半も不在となった和製横綱の誕生を待望する声は依然として根強い。土俵下で見届けた朝日山審判長(元大関大受)は「3日目で負けて横綱になった人もいる。悲観する必要はない。負けた後が大事。今場所の白鵬は決して万全でない。気落ちしないように頑張ってほしい」と激励した。
綱とりの当確ラインは14勝か13勝以上の優勝といわれている。つまり、ここから巻き返しの余地は残っている。
「まっ、切り替えて。またあしたからですね」。自らを叱咤(しった)するように稀勢の里は語気を強めて帰りの車に乗り込んだ。逆境からいかに自分を修正し、立ち上がっていくか。その精神力が問われる場所になった。チャンスは残っている。 (竹尾和久)
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