「尾骨を痛めていすに座るのがつらいので、立っていてもいいですか?」
6日(現地時間)に米国サンフランシスコ国際空港で起こったアシアナ航空旅客機着陸事故で献身的に救助に当たった客室乗務員のイ・ユンヘ課長(40)=女性=は7日午後、サンフランシスコ市内のホテルで韓国の報道陣とのインタビューに応じ、切迫した事故当時の状況を語った。イ課長は尾骨骨折のため座ることができず、終始立ったまま「現場の収拾がつくまでけがに気が付かなかった。あの時は(自分の)命に危険があるかどうかなど考えるひまもなかった」と答えた。
事故時に搭乗していた客室乗務員のうち最もベテランのイ課長はそのトップであるキャビンマネージャーを務めていた。事故発生の瞬間については「緊急時対応訓練のときのように頭がはっきりしていて体が自然に動いた。怖いと思っているひまはなかった」と言った。滑走路で胴体を引きずっていた事故機が停止すると、イ課長はすぐに動揺する乗客を落ち着かせようと「ひとまず着席してください」と3回アナウンスした。そして機長から緊急脱出命令が下されたのを受け、すぐに左側前方のドアを開け、乗客を避難させ始めた。
事故機は翼の部分に火が付いて切迫した状況だった。さらに悪いことに、緊急脱出用シューターが機内で広がってしまった。このシューターは乗客が脱出できるように空気で膨らんで機外で広がるようになっている。ところが、乗客がいる機内で膨らんでしまい、乗務員一人が呼吸困難になるほどひどく挟まれてしまったほか、別の乗務員も足が挟まれて動けなくなった。
「機長1人がコックピットから『おの』を取り出してシューターを破ったので、ようやく乗務員が動けるようになり、(乗客に)脱出を促せるようになった。乗客の一部は荷物を持ち出そうとしたので『荷物を捨てて早く脱出しなければいけない』と叫び、迅速に避難させた。足をけがした中国人乗客をドアまで連れていった」
イ課長は乗客が全員脱出したことを確認した後、事故機から出た。その後も滑走路にいる負傷客を救急車に乗せるなど救助に専念、最後に病院に向かったことが分かっている。それについてイ課長は「大勢の乗客を脱出させようという目標にだけ集中した。何人を脱出させたのか、どのくらい時間がかかったのかなどは覚えていない。航空機の尾翼部分がなくなったことも知らなかった。ニュースを見て知った」と答えた。
米日刊紙ウォール・ストリート・ジャーナルは7日、イ課長の献身的な行動を「英雄」に例えて絶賛した。事故機に乗っていたユージン・アンソニー・ナさんは同紙のインタビューで「小柄な女性乗務員(イ課長)が泣きながら乗客を背負ってあちこち走り回っていた。彼女は泣いていたが、それでも落ち着いていた」と語った。
イ課長は1995年3月にアシアナ航空に入社、優秀客室乗務員に14回選ばれた。2000年から03年にかけては大統領専用機の乗務員を務めた。