二〇一三年版防衛白書は日本領海への侵入を繰り返す中国への警戒感を示す内容となった。毅然(きぜん)とした対応は当然だが、「不測の事態」を招かないためにも、信頼醸成措置に力を注ぐことも必要だ。
東、南シナ海で海洋権益確保の動きを強める中国の動向がアジア・太平洋地域の不安定要因であるのは関係国の共通認識だ。防衛政策に関する年次報告書の防衛白書が、中国の動向に懸念を示すのは妥当である。
特に、昨年九月の沖縄県・尖閣諸島の国有化後、中国公船の領海侵入が急増した。白書は「既存の国際法秩序とは相いれない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みを含む高圧的とも指摘される対応」と批判している。
また今年一月に起きた、中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦などへの射撃管制レーダー照射についても「不測の事態を招きかねない危険な行動」と遺憾表明した。
射撃管制レーダーの照射は武力による威嚇に該当する。白書が指摘するように、中国側に「国際的な規範の共有・順守」を、求め続けることが重要だ。
白書では、尖閣などを念頭に占領された島嶼(とうしょ)部を奪還するため、優れた機動性を備えた「海兵隊的機能」を持つべきだとの意見や、陸海空三自衛隊が今年六月、島嶼防衛を想定した米軍との統合訓練を米カリフォルニア州で行ったことも紹介している。
領土、領海、領空を守る強い決意を示す安倍晋三首相の意向を反映したのだろう。
想定される脅威に対して必要な防衛力を整備し、訓練を積み重ねることは当然だ。しかし、専守防衛の逸脱との誤解を与えると、地域の軍拡競争を促す「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。そうした懸念にも留意すべきだ。
一方、防衛力強化や対決姿勢を強めるだけでは、緊張緩和が実現しないのも事実である。
中国の国防政策の透明性向上を図り、不測の事態を回避するには現在途絶えている防衛担当者間の交流を復活させ、信頼醸成への努力を重ねることが必要だ。
特に、レーダー照射のような事態を衝突につなげないためには、ホットラインの設置や艦艇、航空機間の連絡メカニズム構築を実現に移すことが急務だろう。
これらは日中間でいったん合意しながら、尖閣国有化を契機に棚上げ状態だ。日本側は早期の運用開始を働き掛けているという。粘り強く説得を続けるべきである。
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