集中できずにじっとしていられなかったり、特定の分野の学習が苦手だったりする発達障害。
子どもと多く過ごすのは母親になりがちですが、発達障害の子どもの父親たちが「働く父親どうし連携して、子どもの就職など将来を見据えた支援を進めていこう」と動き始めました。
発達障害の子どもを持つ父親たちのNPO法人「おやじりんく」が、会合を開きました。
食品メーカーの社員や、IT関連会社の経営者など、職業や年齢はさまざまな父親が出席しました。
代表の金子訓隆さんは子どもの将来を積極的に考え、支援していこうと、父親どうしで意見交換をしています。
長男の真輝くん(7歳)は、2歳のときに「発達障害」と診断されました。
自分の気持ちをうまく伝えられず、人から言われたことが理解できないと、パニックを起こすことがあります。
父親の金子さんは「丸いものとか数字に興味を持っていて、ショップカート、あれを下をずっと、くるくるへばりついて見ていた。診断されたときは、やっぱり発達障害だったんだと思った」と言います。
自分たちが年を取って、面倒を見られなくなったとき、息子は1人でどう生きていくのか。
日々の子育てで、手いっぱいな妻の智美さんを見て、金子さんは、子どもの将来の道筋を作るのは父親だと考えるようになりました。
金子さんは、その思いを真輝くんの成長を記録するブログで発信してきました。
金子さんはブログを通じて、同じ発達障害がある子どもの父親と交流するようになりました。
そして父親たちが協力し合って子どもたちを支える社会を作ろうと、「おやじりんく」を立ち上げました。
金子さんは「同じ障害がある子どもたちの親が、一致団結してネットワークを組んで、皆が皆の子どもを助け合うということができなければならない。自分の子どもだけを幸せにしようとしても、発達障害の子どもは幸せにできないんです」と強調します。
金子さんたちは、将来子どもが自立するために、就職できるようになることが重要だと考えています。
そのために、大人になってからの仕事に役立つ力をつけられる施設を作ることにしました。
アパートの一室を借り上げて、放課後、発達障害の子どもを預かります。
そして、父親たちが講師役になってパソコンで絵を描くなど、遊びながら、パソコンの操作方法やソフトの作り方などを教えていく予定です。
金子さんは「今のうちから仕事に直結できるような、さまざまな学びや勉強や訓練ができるような場所というのを考えています」と話しています。
「おやじりんく」への参加がきっかけとなり、子どもに対する考え方が大きく変わったという人もいます。
ことし5月から参加している男性の13歳の長男には、知的障害を伴う自閉症があります。
男性と妻は就職など、子どもの具体的な将来について、これまで考えることを避けてきました。
しかし、前向きな父親たちの姿を見て、息子が好きな機械の操作を生かした仕事に就けるよう、支えていこうと考えるようになってきました。
この男性は「得意な分野や好きなことを、少しでも伸ばしていって、少しでも仕事や社会に役立てるという意識を本人に持たせられるように、過ごしていければいいなと思います」と話しています。
「おやじりんく」代表の金子さんは、父親たちの輪を広げようと、全国を回って発達障害の子どもを持つ父親との交流も始めています。
この日は山梨県を訪れました。
集まった父親は、これまでほかの家族との交流は、ほとんどありませんでした。
参加者の1人は「自分の子が障害があることに対しては、ちょっと最初は戸惑いもあったんです」と思いを語りました。
金子さんは、障害との向き合い方や父親の役割について、自分の体験談を話しました。
「自分より重い障害がある子の中で生活させたら、うちの子はほかの子を面倒を見るというリーダーシップを発揮してきた。
その子にあう特性というのをきちんと見極めて、最後決断するのは、一家の大黒柱である父親ですから。
就職も就学も、そういうことを決める父親の大切さを考えていけたらと思います」と力説しました。
参加した父親は「おやじというのは、仕事で集まったりしないので、こういう場でいろいろ話ができることはいいことだと思っています」、「将来的に子どもたちをどのように育てていくかを考えているので、まず山梨にもこうしたおやじたちが、集まれる場所を作っていきたい」と話しています。
父親の力で、子どもたちの未来を作りたいという金子さんたちの取り組みは、全国に広がり始めています。
金子さんは「父親たちは、もっと大きな網をかけて、社会に対して協力者を増やすことができる。
各地域で皆が触発されて、どんどんその地域で『おやじりんく』ができてくるというのが、願いというか、楽しみです」と話しています。
国は、発達障害の可能性があり特別な支援を必要とする子どもは、小中学校の通常の学級に6.5%いると推定しています。
しかし、障害の程度や現れ方はまちまちで、学校や両親などに発達障害への理解が浸透せず、子どもへの支援が遅れてしまうなど多くの課題があると言われています。
また、子どもが発達障害と診断されたあと、外部との接触を避けて内にこもってしまう家族も多いということで、金子さんはこうした家族への支援も、積極的に進めていきたいということです。