社説:防衛白書 「安倍カラー」が満載だ
毎日新聞 2013年07月10日 02時32分
沖縄県・尖閣諸島周辺の中国の海洋活動や、北朝鮮による核実験、事実上の弾道ミサイル発射により、日本を取り巻く安全保障環境は、この1年で格段に厳しさを増した。「戦後最悪」との指摘もあるほどだ。
2013年版の防衛白書は、こうした現実を反映し、中国、北朝鮮などの動向に強い懸念を示した。そのうえで、南西諸島や弾道ミサイル防衛の重要性を強調し、日米安保体制や日本独自の防衛力強化を訴えた。
中国については、領海侵入、領空侵犯、海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦への射撃用火器管制レーダー照射などを挙げ、中国軍が海上戦力だけでなく、航空戦力による海洋活動を活発化させていると指摘。「不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾」と批判した。
北朝鮮については、弾道ミサイル開発が「新たな段階に入った」と分析し、核開発問題とあいまって「現実的で差し迫った問題」と強い懸念を示した。
中国、北朝鮮いずれに対してもこれまでにない厳しい表現が目立つ。
また白書は、集団的自衛権見直しの検討状況や、自衛隊に海兵隊的機能や敵基地攻撃能力を持たせる議論について、安倍晋三首相の意欲的な国会答弁を交えてコラムで紹介した。「安倍カラー」満載の感がある。
背景には、参院選後に控える集団的自衛権の行使容認を巡る議論や、年末の新たな「防衛計画の大綱」策定、来年度予算編成での防衛関係費の確保につなげようとする首相官邸と防衛省の狙いがうかがえる。
厳しい安全保障環境に対応するため、いま日本がやるべきことは何だろう。防衛力強化は必要だ。だが、それだけでは十分とはいえない。
例えば多国間・2国間での安全保障対話や防衛交流を、お互いの信頼醸成や不測の事態を回避するために、もっと進める必要がある。
日中間では防衛当局間のホットライン設置など海上連絡メカニズムの構築が合意されたが、運用が開始できないでいる。日韓間では、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が、韓国世論の反発で締結が見送られたままだ。白書はこうした防衛交流・協力にも触れているが、あっさり説明しているに過ぎない。
米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの沖縄配備についても、人口密集地域上空の飛行を避けるなど日米が合意した運用ルールに違反した飛行が報告されているにもかかわらず、「引き続き合意が実施されるよう米側への働きかけを行っている」と冷淡な記述にとどまったのは残念だ。
防衛力強化に前のめりなだけでは、国民の理解は得られない。