中国の悪夢は2010年7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、当時のクリントン国務長官が「アジア回帰」を改めて打ち出したときだ。長官は「南シナ海の航行の自由」は米国の国益だと強調し、領有権問題の多国間での取り組みに意欲をみせた。
中国は個別交渉なら力でねじ伏せられるが、多国間交渉になると、とたんに孤立する。日本の安倍政権には、東南アジアをはじめ、インド、ロシアなど遠い国と手を組まれ、近くの“敵”に2正面作戦を強いる「遠交近攻外交」で包囲網を築かれている。
今回、ブルネイでの中国とASEANの外相会議で、中国の王毅外相は対立を緩和する現行の「行動宣言」を法的に拘束する「行動規範」に引き上げる高官協議を受け入れた。王外相は多国間協議を「9月開始、場所は北京」とした。
これにより、日米が加わるARFで、南シナ海の係争に対する介入を封じることができる。外相は02年に署名した法的拘束力のない「行動宣言」に触れ、「個別の紛争は当事国と協議する」と消極的な立場を示唆した。
中国にとって韓国の中国急接近は、心強かったはずだ。韓国はしょせん、大陸に連なる「従属変数」だと考えれば、中国をヨイショするのもムベなるかなである。日本は民主主義、法の支配など価値観の違う中国を相手にする以上、急がず騒がず「機が熟するのを待つ」(東洋学園大学の櫻田淳教授)外交が妥当だろう。(東京特派員)