【名古屋場所】蒼国来、８９８日ぶり１勝！八百長問題、解雇、裁判乗り越えつかんだ

復帰後の初白星を挙げた蒼国来は、土俵に深々と頭を下げ花道を引き揚げた

　◆大相撲名古屋場所３日目　○蒼国来（寄り切り）大岩戸●（９日・愛知県体育館）　大相撲の八百長問題での解雇処分が裁判で無効になり２年半ぶりに復帰した西前頭１５枚目・蒼国来（２９）＝荒汐＝が、２０１１年１月２３日の初場所千秋楽の高見盛戦以来、８９８日ぶりの白星を挙げた。東十両２枚目・大岩戸（３２）＝八角＝を寄り切り、初日からの連敗を２で止めた。幕内力士として前代未聞の土俵復帰を果たした名古屋。困難を乗り越えてつかんだ初白星は、相撲人生で大きな１歩となった。

　待ち望んでいた瞬間だった。蒼国来に笑顔も涙もない。８９８日ぶりに勝ち名乗りを受け静かに喜びをかみ締めた。「１番勝ててうれしい。初日とはまた違う気分」。法廷闘争を経てつかんだ２年半ぶりの白星。花道を引き揚げてくる背中に、ファンの温かい拍手が送られた。

　２連敗で迎えた３日目。相手は十両の大岩戸だった。ブランクはあったが番付上は幕内力士として負けられない。「まわしを取れば何とかなる」。狙い通りに左四つで組み止め左下手投げで崩し寄り切った。「今日あたりには勝ちたかった」。連敗を止めた支度部屋で頬を緩めた。

大岩戸（右）を寄り切りで下す

　１１年４月の解雇から今年３月の勝訴まで土俵での稽古はほとんどできなかった。復帰決定後、鈍った相撲勘を補ったのは研究心だ。猶予期間の夏場所中は、午後１時からＮＨＫの大相撲中継にかぶりついた。「２年前と顔ぶれも変わっていた」とＤＶＤに録画。４パターンで再生して相手の弱点を研究した。〈１〉早送りで取組の流れをつかむ〈２〉画面の上半分を隠しスロー再生。下半身を見て、１歩目がどのぐらい出るかなどを分析〈３〉下半分を隠す。立ち合い後に、右と左、どちらの手を伸ばすか研究〈４〉通常再生。「これで対戦のイメージをできた」。努力は３日目にして結実した。

　蒼国来は０３年６月２８日に来日。翌２９日に愛知・一宮市の部屋に入った。師匠・荒汐親方（元小結・大豊）と食事で向かったのは近所の焼き肉店。そこに元横綱の曙（当時、親方）がいた。「こんな大きな人がいるなら俺はすぐに故郷に帰るだろう」。曙親方は、優しい顔で１万円の小遣いをくれた。「頑張らないと」。言葉は分からないが、気持ちは伝わった。復帰場所の名古屋は、そんな原点でもあった。

笑顔で帰路に就く蒼国来

　初白星を挙げたが厳しい戦いは続く。「気持ちは楽になったけど、また明日から気を引き締めて頑張る」。脂の乗った２７歳からの２年間を失った。だが、常に笑みは絶やさなかった。過去を恨むより、前だけを見て相撲道を歩む。

　◆蒼国来　栄吉（そうこくらい・えいきち）本名・恩和図布新（おんわとうふしん）。１９８４年１月９日、中国・内モンゴル自治区生まれ。２９歳。荒汐部屋。中国ではレスリングで活躍し、０３年４月に訪中した荒汐親方にスカウトされて６月に来日。同年秋、初土俵。同年九州、序ノ口優勝。０７年夏、三段目優勝。１０年初、新十両。同年秋、中国出身では初の新入幕。最高位は東前頭１３枚目（１０年九州）。得意は右四つ、寄り、投げ。１８６センチ、１３７キロ。家族は妻。

　◆一度協会を離れた力士が戻った例　１９３２年１月に協会改革を唱えて大量の力士が脱退した「春秋園事件」で協会側は脱退した力士４８人と行司５人を除名処分にした。ところが脱退者側で内紛が起こり、同年１２月に朝潮（後の横綱・男女ノ川）らが協会に帰参。翌３３年１月の春場所に別席（別格）で復帰した。復帰場所で朝潮は１１戦全勝で優勝した。

　◆蒼国来の８９８日ぶりの白星まで
  ▽２０１１年１月２３日　初場所千秋楽（当時東前頭１６枚目）で高見盛を寄り切りで下す。
  ▽２月２日　八百長問題発覚。当初の疑惑十数人には入らず。
  ▽４月９日　日本相撲協会の特別調査委員会が関与を認定。
  ▽１１日　同委員会が引退勧告処分を決定。
  ▽１４日　引退届を出さず解雇処分。
  ▽６月１７日　解雇無効を求め東京地裁に提訴。
  ▽１３年３月２５日　同地裁で勝訴判決。
  ▽４月３日　協会が理事会を開き、控訴断念と蒼国来の名古屋場所からの復帰を決定。番付は解雇時の西前頭１５枚目となる。
  ▽７月７日　名古屋場所で土俵復帰も黒星。
  ▽９日　３日目で大岩戸を寄り切り復帰後初白星。