乗客がパニックに陥るなか、炎上する航空機から、急角度の脱出シューターを滑り降りるのは簡単ではない。だが、スーツケースやパソコン、その他の貴重品を持って避難する乗客は後を絶たない。
サンフランシスコ国際空港で起きたアシアナ航空214便の着陸失敗の画像には、かばんやiPadを手にボーイング777型機から逃げる乗客の姿がある。免税品の酒類が入った箱を2つ持った人までいた。ヒールのまま走る姿もある。これも、生きるか死ぬかの状況ではやめた方がいい行為だ。
アメリカン航空のベテラン客室乗務員で客室乗務員組合(APFA)の通信コーディネーターを務めるレスリー・マヨ氏は「避難するための時間は90秒かそれ未満。乗客が自分の後ろの人たちではなく荷物の心配をしていたら、それは問題だ」と述べた。
客室乗務員は、放心状態だったりパニックに陥ったりしている乗客を、大声で指示を出すことで動かす訓練を受けている。アメリカン航空の乗務員は、"Open seat belts! Leave everything! Come this way!"(シートベルトを外して!何も持たずに!こちらへ!)と叫ぶ訓練を受ける。
所持品を置いて逃げる理由はいくつかある。頭上の棚や座席の下からかばんを取り出す乗客が通路の妨げとなり、避難が遅れる原因になりかねない。迅速な動きを想定して作られたシューターを滑り降りるのは大変なことで、持っていたかばんをなくす人も多い。持ち物が別の乗客のところに飛んでいくこともあると乗務員は語る。着地したときの衝撃を抑えるために腕や手が必要になる。
全米客室乗務員協会の幹部でユナイテッド航空の客室乗務員のサラ・ネルソン氏は、「あのシューターを滑り降りるスピードは(遊園地の)シックスフラッグスの乗り物以上だ」と述べた。
客室乗務員は、乗客がシューターに飛び移る前に扉のところでかばんを手放させるよう訓練を受けている。だが、そのために出口付近が散らかり、避難のペースが遅くなる可能性もある。最近、米系エアラインで火災の可能性があり避難をした際には、乗務員が乗客からかばんを預かり、ギャレーにまきのように積み上げたとネルソン氏は語った。
とがったヒールは膨らんだゴム製シューターに穴を開ける恐れがあり、機内に残っている人にとって深刻な問題になりかねない。「靴は脱いで」と叫ぶよう乗務員を訓練している航空会社もある。だが、これをあきらめた会社も多い。靴を履いていることのメリットの方が大きく、ヒールがシューターに及ぼす脅威はほとんどないと結論づけたためだとネルソン氏は述べた。
安全専門家によれば、事故の起きた機内はパニックと混乱がまん延していることから、フライトのたびに簡単な避難手順を練習して乗客が準備できるようにすべきだという。0.5秒の差が生死を分けることもある。
例えば飛行機のシートベルトは、使い慣れている人が多い車のボタン式と違い、レバー式であることから、教わらなくても外し方はわかるとは限らない。(単純そうな機内シートベルトの使い方の実演を客室乗務員が義務づけられているのはこのためだ)。英民間航空局(CAA)が2008年に行った調査では、世界で起きた238件の事故に巻き込まれた乗客の6%が、シートベルトで手こずったために避難が遅れた。
米国家運輸安全委員会(NTSB)の報告書によると、USエアウェイズが09年にハドソン川に不時着したとき、避難前にライフジャケットをつかんだのは150人の乗客のうち10人にすぎず、浮輪代わりにシート・クッションを持ったのは半数程度にとどまった。死者は出ていない。
緊急避難の訓練講習では旅行者に、煙が発生した際には低い姿勢を取り、必要に応じて床をはうことを教えている。最も近い出口までの列数を数えておくことが、後で重要になることも考えられる。行くべき通路と、そこまでの距離がわかっているからだ。ブリティッシュ・エアウェイズの避難講習でインストラクターは乗客たちに、危機に際して何をすべきか考える人が最初に機外に出られる、と教える。
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