刑の一部執行猶予制度:薬物依存者に専門治療の道
毎日新聞 2013年06月13日 21時26分(最終更新 06月14日 00時09分)
「刑の一部執行猶予制度」を新設する改正刑法などが13日成立した。公布から3年以内に施行される。再犯率の高い薬物依存者などの刑期を一部猶予していち早く社会に出し、専門的な治療を受けることによって改善更生につなげる狙いがある。だが、受け皿となる医療機関などは不足しており、制度スタートまでに十分な態勢を整備できるかどうかが成否の鍵を握る。【伊藤一郎、江刺正嘉】
◇出所者の受け皿確保に課題
「社会の受け入れが未整備な状態で法改正して問題が起きても困る」。11日の衆院法務委員会。野党議員の質問に対し、谷垣禎一法相は「しっかりフォローできる態勢作りに努める」と強調した。
法務省の試算では、一部執行猶予制度で出所する薬物依存者は年間約3000人。このうち出所後の住居のない人は約700人に上るとみられる。しかし、現状では、居住先のない出所者に部屋を提供できる施設は十分とは言い難い。
出所者を一時的に保護する更生保護施設は全国に104あるが、収容人員に余裕がない施設が多いばかりか、「覚醒剤依存者は対処が難しい」として受け入れに消極的な施設も目立つ。
居住先を増やそうと、同省は2011年度から、NPO法人などが管理する民間アパートの空き部屋を有効活用する「自立準備ホーム」の整備を開始。12年末時点で225事業者が登録し、計約1000人を受け入れてきたが、新制度導入を見据えると、まだ足りない状態だ。
長年にわたって薬物依存者を受け入れ、共同生活による回復支援に取り組んできた「ダルク」などの民間リハビリ施設で、自立準備ホームに登録したのは41事業者にとどまる。「国の制度に関与すべきではない」と否定的な事業者もあり、足並みはそろっていない。
一方、薬物依存症に専門的に対応できる病院が少ないことも大きな課題だ。国立精神・神経医療研究センターが07年、全国の精神科病院1639カ所を対象に実施した調査では、薬物依存症の専門治療プログラムがある施設は全体の約5%にすぎない。09年の別の調査でも、覚醒剤関連の患者の約1割が4施設に集中しているいびつな実態が浮かんだ。