会社を辞める人、残る人。

少し前に、僕の同期が、会社を辞めた。

彼は、新しい会社を既に立ち上げ、今はサービスのリリース準備に追われている。会社名は”KABUKU“。サービスは「rinkak」という3Dプリンターを使ったものづくりマーケットだ。

彼がやろうとしていることは、ものづくりを誰もがもっと楽しくできる社会を創ること。最近話題になっているように、3Dプリンターの技術がどんどん向上している。今後さらに安価になり、誰でも使えるようになったら、コーヒーカップとか、指輪とか、自分の等身大フィギュアとか、そういうものを誰もが気軽に自分で作れるようになる。そういう「ものづくり社会」をつくる一人になろうとしている。

彼は会社を辞めて、僕は会社に残っている。

それに関して、モヤモヤと考えるところがあって、この記事を書いています。

会社を辞めた人間がエラいとか、すごいとか、かっこいいとか言うつもりはありません。「博報堂辞めました」なんてブログが昔すごく話題になったけど、その中には「何がやりたいか」は書かれていなかったから、僕はあまり好感が持てなかった。

その辺りから「○○会社を退社しました」という記事をよく見かけるようになった。その「〇〇を辞めました」系のタイトルを見るとすこし胸がざわつく。「辞めることがすごいことだ」と言っているような気がして、辞めてない身からするとなんだかすこしイライラする。(少し落ち着いて考えれば、ただの被害妄想でもあるのだけど)

(「辞めました系」を親切にまとめてくれてるひとがいました笑     http://matome.naver.jp/odai/2133821495870290901)

逆のこと言うけれど、そういう企業を辞めるのはとても勇気のいることだとも思います。たいていみんな大きな企業で、安定的な給料をもらっていたはず。昔、どこで誰かが言ってました。


「男がハマると抜け出せなくなるものが三つある。知ってる?」

「さぁね」

「酒と、タバコと、サラリーだよ。」

大企業にいることのメリットを書けばキリがありません。


  • 安定のサラリーがもらえる
  • システムがしっかりしてるから、仕事も安定している
  • 社会保険とか福利厚生とかしっかりしてる
  • 企業名を言えば、初対面が初対面じゃなくなる(これが大きい)
  • 個人や小さな企業では中々できない規模の仕事ができる
  • システムがしっかりしてるから、自分がいなくてもどうにかなる(休める)
  • トイレの掃除とかもやってくれる。備品も届く。
  • ……

「大企業も安心できない時代になった」と言われるけど、やっぱり大企業は強くて巨大だ。先人たちが積み重ねてきた資産、資源を使わせてもらい、それを土台に少しずつ新しいことにチャレンジできる。それらを捨てて、外の社会に飛び出すことは、とてもつなく勇気と意志と覚悟がいることだと思う。

話は変わって、僕ら広告会社の仕事というのは、人のキャンバスに絵を描くことに近い。

「代理店」というだけあって、自分たちでゼロから何かを創ることは、まずない。他の大企業の資産、資源、人、ブランドという背景が既に書かれた巨大なキャンバスに、アイデアやデザインという筆を使って、クライアントと一緒に絵を描くような仕事だ。

ここで数年間、仕事をしていると、二種類に別れることになる。

「大きな絵が描けることはなんて楽しい仕事なんだ」と満足する人と、「いや、自分のキャンバスを創って、自分の絵を書きたい」という欲張りな人。

最初は後者が多いのだけど、だんだん前者となる人も多い。

この中間を頑張って狙う人もいる。でも本当の意味で「自分のキャンバスに絵を描きたい」と思ったら、「代理店」は辞めざるを得なくなってしまう。ぼくの同期もそのひとりだ。

僕が勤めている会社を辞めた人たちが、面白い企業やサービスを創っている。

それはなんだかとても嬉しい。

・東京R不動産: (http://www.realtokyoestate.co.jp/)

自分たちの目で見て、面白いと思った不動産だけを紹介するサイト。

・エニグモ : ( http://www.enigmo.co.jp/ )

世界中のバイヤーから、モノが変える「バイマ」を立ち上げ、少し前に上場した。

・KitchHike: ( https://kitchhike.com/ )

世界の旅行者が、その土地の家庭でご飯を食べられるサービス。

・rinkak:(  https://www.rinkak.com/ )

3Dプリンタを使って、誰もがものづくりをできるようにするサービス。

(他にもいろいろあるのけどこのあたりで…)

どれもうまく行く保証はどこにもない。あるのは可能性や意志や夢みたいなものだけ。むしろうまくいかなそうなものばかりです。

結局のところ何が書きたいのかと言えば、そういう無茶なバカをする人が、僕は単純に好きなのだということです。

繰り返しになるけど、大企業で働き社会を動かすこともすごいことだ。

どちらが上か下か、という議論ではなく、それは役割の違いだと思う。

既に整備された巨大な首都高を走るように大企業で働く人がいて、

その傍ら、枝分かれするように道なき道を開拓する人たちがいる。

後者は森に迷い込んで餓死するかもしれないし、

ようやく切り開いた道が全くの検討違いということもあるかもしれない。

でも何人かは、新しい世界を見つけることになる。

ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で送った言葉はやっぱりすごい。

Stay Hungry, Stay Foolish.

http://www.youtube.com/watch?v=XQB3H6I8t_4

「他の誰かのために生きないでください。自分の人生を生きてください。」

無茶でバカで野心的で、持っていた安定や安泰や影響力を捨てる人たち。

それで世界を変えようとする人たち。

僕はそういう人たちを応援したい。

エールと嫉妬をこめて。