高齢者に現金自動預払機(ATM)を操作させて現金をだまし取る手口の振り込め詐欺で、犯人グループが警戒を強める金融機関を避け、ショッピングセンターや病院など別の場所を指定する動きをみせている。浜松医療センター(浜松市中区)のATMも被害現場となりかけたが、総合案内担当の女性職員二人が「詐欺かも」と気付いて防ぐことができた。
六月中旬、金曜日の午後一時。「携帯電話を忘れてしまって、こちらから電話をしてもらえませんか?」と女性(74)が総合案内を訪ねてきた。一人で担当していた山本磨子(きよこ)さん(39)が事情を聴くと、女性は社会保険庁(現日本年金機構)の職員を名乗る男から保険料の還付金があるとの電話を受けていた。医療センターのATMに行くように指示され、到着したら電話をかけるように言われていた。
山本さんは通勤途中に聞くラジオで「振り込め詐欺はいろんな手口で、いろんな場所で起こる」と言っていたことが頭に浮かんだ。警察官OBで防犯担当の職員に連絡し、職員が話をすると、女性はしばらくしてだまされていたことに気づき、振り込まずに済んだ。
週末をはさんだ月曜日の午前中。今度は宮津美晴さん(29)が一人で案内をしていた。女性(70)が「社会保険庁から電話があって、医療センターのATMに行ってと言われている」とATMの場所を尋ねてきた。
同僚の山本さんから振り込め詐欺を未然に防いだ一部始終を聞いていた宮津さん。三日前と同じだとピンときた。女性はすぐにATMに向かってしまい、宮津さんは防犯担当の職員に即座に電話し、説得してもらった。
捜査関係者は「金融機関は対策を取っているから、犯人が病院のATMを狙ったのかもしれない。今後も金融機関以外に犯行現場が広がる可能性がある」と警戒する。
◆金融機関 警戒強める
振り込め詐欺の多発を受けて、金融機関は、高額の現金を下ろす顧客に理由を聞くなど警戒を強める。詳しく話を聞かれることに怒る顧客もいて、警察も金融機関をサポートしている。
浜松信用金庫本部(浜松市中区)は各支店にこう伝えている。「一度払ってしまったら戻ってこない。信じ込んでいるときには、そのくらいの勇気を持っていかないとなかなか止められない」(リスク統括部担当者)と考えるからだ。
支店では、百万円以上の現金を下ろす顧客には、振り込め詐欺の特徴に合うかアンケートに答えてもらったり、使い道を聞いたりしている。
中区の泉町支店の足立千晴さん(25)は窓口に立って約二年。「なるべく理由を聞き出したいけど、お客さまに面倒くさい、もう来たくないと思われないようにとも気を使う」と話す。
浜松中央地区防犯協会連合会は「警察からの要請で確認しています 浜松中央署」と記載した卓上用三角スタンドを作製。百七十個を同署管内の全金融機関に配布している。
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