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窓なし激狭の“偽装シェアハウス” 行政指導で住宅難民1万人発生?

産経新聞 7月7日(日)10時27分配信

窓なし激狭の“偽装シェアハウス” 行政指導で住宅難民1万人発生?

約3畳の広さで、ベッドが部屋の半分を占める“偽装シェアハウス”に生活する男性。退去通告を受け、上段ベッドを使用していた同居人はすでに転居した=東京・神田(写真:産経新聞)

 表向きは「レンタルオフィス」などと装い、実際には小分けした部屋にたくさんの人が住む“偽装シェアハウス”。東京都内にいくつか存在するが、窓がなく迷路のような作りになっているなど、防火態勢の不備が発覚。消防当局や自治体が改善指導に乗り出したが、追加負担を避けたい業者が突然閉鎖を決め、住民に退去を求めるケースも。居住者には生活保護受給者なども多く、専門家からは「今後1万人規模の住宅難民が発生する可能性もある」との指摘もある。(時吉達也)

 ■「人の住む所ではない…」

 平成23年秋。地方から上京してきた介護施設職員の男性(42)が生活拠点に定めたのは、東京・神田にある共同住宅だった。

 建物内には、3畳ほどの広さの部屋がいくつも並んでいる。そのうちの一部屋が、男性の“家”だ。2人部屋で、2段ベッドが部屋の半分を占める。賃料は月2万8000円。男性は「兄弟の病気などで貯蓄もなく、都心なのに破格の条件にひかれた」という。

 洗濯物を部屋干しするスペースも、ベッド内にしかない。隣室との仕切り壁は薄く、話し声やテレビの音声は一言一句はっきり聞き取れるほど。入り口の上部に通気口があるだけで、窓はない。暑さで眠れない夜も続いた。

 もし火事になったら、とても逃げられそうにない。「人が住む所ではない。資金がたまれば引っ越そう」と考えていたが、自分の住まいが実際には「住宅」でないことを知ったのは、入居から数カ月後のことだった。

 洗濯機やシャワー室が設置された地下の共有スペースにある日、別の部屋で暮らしていた住民の家財道具一式が置かれていた。他の住民の話などから、この物件は「レンタルオフィス」としての契約で、入居者側は契約上、賃貸住宅の借り主の扱いをされないとわかった。賃料を半月滞納すれば部屋のカギが替わり、強制的に退去させられることも知った。男性は「契約時に、そういう詳しい説明を聞いた覚えはない」という。

 ■「ネカフェ生活」にないメリットも

 シェアハウスをはじめとした共同住宅は、火災の危険などを考慮し、通常の建物に比べ高い耐火基準が設けられている。一方で、最近はこうした条件を満たさず、低所得者に向けに「レンタルオフィス」「貸倉庫」などの名目で賃貸に出される物件が目につくようになった。いわゆる“偽装シェアハウス”だ。

 住居としての耐火基準は満たしていないが、借り手側には高額の敷金や保証人も不要な上、ネットカフェ生活並みの低家賃で入居できるのが魅力。さらに、就労に必要な住民登録を行えるメリットもある。

 貸し手側にとっても、多くの住民を「詰め込む」ことで収入を増やせるという商売上のうま味がある上、家賃の滞納などがあれば住民をすぐに追い出すことができる。借地借家法は、一定の猶予期間や正当な理由のない賃貸借契約の解除を禁じているが、こうした法令を適用する必要がないと判断しているためだ。

 借り手側、貸し手側双方メリットのある偽装シェアハウスは、各地で年々増加。シェアハウスの業界団体などによると、推計で全国2000棟にも上るという。

 ■無言の「退去通告」

 男性はその後、約半年かけて月収17万円ほどの介護施設に就職。結局、転居を検討する余裕もないまま2年近くを過ごしていた。日常に激震が走ったのは今年5月下旬。退勤後に自宅に戻ると、「6月30日閉館」と書かれた紙が前触れもなく部屋のドアに貼られていた。与えられた転居の猶予は、わずか1カ月だった。

 シェアハウスを運営していたネットカフェ大手「マンボー」(東京)が施設閉鎖を決めた発端は、一件の119番通報だった。経営する都内の別の施設で救急車の出動要請があり、駆けつけた消防隊員が防火態勢の不備を確認。東京消防庁が改善指導を続ける中で、マンボー側は都内約10カ所の運営先のうち数カ所を順次閉鎖することを住民側に通告した。マンボー側は住民らの抗議に対し「『レンタルオフィス』として契約を結んでおり、こちらの判断で即時解約できると入居時に合意している」と主張した。

 突然「退去せよ」といわれても、同じくらいの賃料の物件が近所ですぐに見つかるわけもない。男性ら住民6人は東京地裁に利用継続などを求める仮処分を申請。「違法」な住居を維持する「適法」性の確認を裁判所に求める、という苦境に置かれた。その後、9月末まで退去期限を延長し、猶予期間内の家賃を減額する内容でマンボー側と和解が成立したが、男性は「仕事の兼ね合いもあり郊外には移りづらく、周辺では今以上に劣悪な住宅しか見つからない」と、今後への不安を吐露する。

 ■行政の現場で漏れる「本音」

 低所得者が住まい探しに難航し、基準を満たさない劣悪住宅に行き着くという構図は平成21年、入所者10人が死亡した群馬県の老人施設「たまゆら」での火災を思い起こさせる。惨事の再発を防ごうと、国土交通省は6月10日、各都道府県などに該当住宅への是正指導を行うよう通知した。

 しかし、行政指導の強化に対する困惑は業者や住民ばかりでなく、生活保護受給者らの住居確保を担当する“身内”の行政の現場にまで広がる。ある区役所の担当者は「今回の問題発覚で、ただでさえ少ない紹介先の選択肢が狭まってしまった」と本音を漏らす。「違法住宅を活用することが許されないのは当然だが、現実としてその日の寝床が見つからない相談者がいる。どう対応すればいいのか…」

 市民団体「国民の住まいを守る全国連絡会」の坂庭国晴代表幹事は「同種施設への行政指導が進めば、1万人単位の住民が路頭に迷う事態も想定される」と指摘。「住居の規制強化のみを進めても、需要があれば新たな違法住宅が登場するだけだ。貧困問題の解決に向けた総合的な対策が求められる」と話している。

 防災上の問題がある施設に行政指導すると、住民が追い出され路頭に迷うという現実。今のところ、明確な解決策はない。

最終更新:7月7日(日)18時39分

産経新聞

 

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