2013/07/08  うつせみ
生物進化の理論



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 現代の正統派進化論に代わる新しい生物進化の理論を作成します。
 進化とは、種のレベルでの環境変化への適応行為であって、そこには、この種を自己保存する為の物理的メカニズム、即ち、工学で言うところの制御システム系が存在している。

(注)
本体の作成には、まだ時間がかかりそうです。別の作業を優先しなければいけないので、とりあえず、概要だけを述べます。
なお、ネオ・ダーウィニズム批判については、こちらを、ご参照下さい。



概要

 現代の正統派進化論は、間違っていました。生命現象に関する物理学的考察作業を行っている時に、気が付きました。ちょうど、その時、生命現象や生物進化の知識も必要だったので、収集可能な情報を使って作ってみました。ここでは、大進化の定性的説明までを行います。

 生命現象に関する考察結果を使って、進化現象を記述しました。
 具体的には、今西錦司氏の『棲み分け理論』と、木村資生氏の『中立説』を、物理学の『場の理論』と、『制御工学』の知識を使って統一しました。生物学の知識としては、両氏の範囲を超えるものではありません。しかし、その理解の仕方と発想は、大きく異なっています。ひょうとしたら、抵抗があるかもしれません。

 生物進化の現象自体は、特殊なものではありません。生命現象としては、ごく平凡な環境変化への適応行為の一種です。今西(以下敬称略)が『進化とは、種のレベルでの環境変化への適応行為であって、そこで保存されている自己は、種である。』と主張しているように、種のレベルでの自己保存系の振る舞いに関する現象です。
 この現象が他の生命現象と異なっている特殊な点は、時間尺度です。時間尺度が非常に長い為に、原因と結果の因果関係も長く、確認し辛い点という特性を持っています。我々人間自身、この現象に組み込まれた歯車のひとつに過ぎませんから、その歯車が現象を観察すると、しばしば、原因もなしに生じた現象、即ち、突然変異に見えてしまいます。時間尺度が、我々の一生よりも長過ぎる為です。この点だけが特殊です。

 ここでは、生物進化の現象を、生命現象の一部として理解します。種を自己保存する為の物理的メカニズムを制御工学の理論を使って記述していきます。



生命現象と自己保存系

 生命現象は、自己保存系の振る舞いに関する現象です。そこには、何らかの自己が保存されています。
 この現象は、生物と環境との相互作用によって構成されています。この相互作用が、自己保存系を構成しています。

 

 この相互作用を分解すると、生物から環境に向かう物理的作用、

生物 --> 環境

と、環境から、生物に向かう物理的作用、

生物 <-- 環境

に分解されます。これを、図に纏めると、下図のようになり、作用がフィードバックしていることが理解出来ます。このフィードバック過程が自己保存系を構成していると考えました。つまり、フィードバック制御が行われていると考えました。

 


 生物にとって、『生きる』、即ち、『自己を保存』するとは、この生物と環境との関係が、一定に保たれ続けることを意味しています。環境は常に生物の都合とは無関係に、ランダムに変化していますが、生物は、その環境の気まぐれに合わせて、自らも変化させて、その関係を維持しようとしています。この性質がどこから発生しているのかは不明ですが、このような過程を一般に、『自己保存の過程』、即ち、『生きる』と呼んでいます。生物学者は、認めたくないとは思いますが、そこには、自己を保存するという明確な目的があります。

 たとえば、あなたや、私のような個体も、自己保存系を構成しています。だから、嫌な事や、危険な状況からは逃げますし、腹がへれば食べます。暑ければ、涼しい場所に移動しますし、寒ければ、温かい場所に移動します。決して、自然選択が主張するように、偶然や、運命に身を委ねている訳ではありません。積極的に、環境変化に対応して、自らを変え、それに適応しようとしています。生きる事、即ち、自己を保存するという明確な目的に従って行動しています。このような、自己保存系の性質が、生命現象全体を覆っていると考えています。

 このような自己保存系は、原始的ですが、現代の工学技術を使っても作ることが出来ます。兵器のひとつである巡航ミサイルは、起伏の激しい地形を、低い高度を維持しながら、目標に向かって飛ぶことが出来ます。その自己保存の目的は、対地高度という具体的数値で与えらています。つまり、このシステムは対地高度を維持するという目的を持っています。その目的に従って、設定された対地高度を維持するように、地形に合わせて、上昇、下降を繰り返し、標的に辿り着きます。安全を見込んで、対地高度を高く取りすぎると、発見や、攻撃される確率が高くなってしまうので危険です。低く飛び過ぎると激突の危険がありますし、高く飛び過ぎると、撃墜の危険があります。リスクとジレンマの世界です。原則は、出来る限り低空を、高速で飛ぶことが、生存率を高めます。通常は、より、リスクの少ない行動が選択されます。
 そして、最後は、標的に当たって、自己を破壊します。この一見、自己保存と矛盾しているように見える自己破壊も、自己保存系の重要な性質のひとつです。そこには、組織の原理が働いているからです。

 自己保存系は、一般に階層構造を持ちます。その階層構造の中で、上位の自己保存系が、下位の自己保存系に優先しています。いち兵器システムの自己保存よりも、軍団や国家の自己保存が優先されます。これは、生物の世界でも、ごく普通に見られる平凡な現象です。
 木々は、秋になれば、葉を落としますが、葉も細胞から構成された生き物です。しかし、厳しい冬を乗り切る為に、余分なものは、無情にも切り捨てられます。
美しい花も、受粉が終わると、無駄なエネルギー消費を抑える為に、散っていきます。花びらも遺伝子を持った生き物ですが、個体の自己保存が優先される為に、目的が終了したら、無駄は切り捨てられます。
 我々の肉体を構成している細胞も、大部分が、その遺伝子を、未来に残すことはありません。ごく一部の生殖細胞だけが、その役割を担っています。他の細胞たちは、結果的には、その生殖細胞を守り、維持する為だけに存在しているようなものです。受粉の為に咲く花と、どこか似ています。
 シロアリのコロニーは、女王と、働きアリと、兵隊アリで構成されていますが、コロニーが敵に襲われると、兵隊アリは、自分を犠牲にしてでも戦います。敵に襲われるまでは、自分自身の自己保存が優先されますが、敵に襲われると、コロニーの自己保存を優先します。冷たい言い方ですが、コロニーさえ無事なら、兵隊アリの再生産など簡単だからです。巡航ミサイルと全く同じです。工場さえ無事なら、いくらでも、生産可能です。
 我々人間も、群れを作る動物なので、しばしば、群れの自己保存が優先します。道徳や宗教は、群れを危機に陥れる利己的行動を戒め、群れを守る自己犠牲を賞賛します。自己を犠牲にして国を守った英雄は、しばしば、賞賛の対象になります。群れを守るという本能がそうさせています。

 生物は、残念ながら、利己的でもなければ、博愛主義者でもありません。組織の原理に従って非情に生きているだけです。

 このような自己保存系の性質を、種にも適用して、生物進化の現象を論じていきます。



自己保存系の階層構造

 生物進化は、種のレベルでの自己保存系の振る舞いに関する現象です。

 地球の生態系では、この自己保存系は、階層構造を持っています。最も下位の自己保存系が細胞です。その細胞の集合によって、個体が構成されます。その個体の集合によって、種が構成されます。最上位に、生態系が位置します。
 生物進化の現象は、今西が主張しているように、この階層構造の中でも種のレベルの自己保存系の振る舞いであると考えられます。彼は次のように主張しています。『進化とは、種のレベルでの環境変化への適応行為であって、そこで保存されている自己は、種である。』と。

 


 最も下位の自己保存系が細胞です。原始的な生物は、この細胞単体で、生きていくことが可能です。細胞膜によって、生物と環境が区切られ、その細胞膜を通して環境と相互作用をすることによって、細胞は、生きています。

細胞 <--> 細胞膜 <--> 環境

 我々のような多細胞生物は、このような細胞の集合体によって構成されています。しかし、単なる寄せ集めではなくて、機能分化が起っており、細胞の集合全体で、ひとつのシステム、即ち、個体を構成しています。だから、多細胞生物の場合は、細胞単体では自然界で生きていくことが出来ません。細胞が自己保存される為には、その前提条件として、個体が自己保存される必要があります。個体の自己保存、イコール、細胞の自己保存の関係になっています。

細胞 <--> 個体 <--> 環境

 このような個体や細胞の集合体の上位には、種(ゲンプール)と呼ばれる自己保存系が存在しています。この種は個体から構成されており、生殖という手段を使って、ゲンプールを共有しています。各個体は、このゲンプールから離れては存在できません。個体には寿命がありますから、新たな個体は、ゲンプールから生み出され続ける必要があります。ある意味、これらの個体は、ゲンプールを維持する為だけに、存在しているようなものです。この関係は、何処となく、個体と細胞の関係に似ています。

個体 <--> ゲンプール(種) <--> 環境

 ゲンプールが、様々な環境変化に耐え、生き残っていく為には、多様性が必要です。つまり、ゲンプールを構成している各個体が、多様性を持っている必要があります。
 環境変化は、生物自身にとっては、予測不可能です。どのような環境変化が起こるかも、その変化がどちらの方向に向かうのかも、全く予測不可能です。常に、リスクに晒されています。
 一方、生物進化は、非常に時間尺度の長い現象です。従って、そこに自己保存系が存在したとしても、その制御速度は遅く、急激な環境変化には対応できません。
 従って、環境変化の最初の第一撃は、個体の多様性に頼って吸収せざるえません。ゲンプール自身が多様性を持ち、様々な個体を生み出し、『どれかは生き残るだろう。』と期待せざるおえません。環境変化の方向が予測できないので、乱暴ですが、このようなリスクマネジーメントに頼らざるえません。
 さらに厄介なことに、ここで、生物学者が考えているような自然選択が起ってしまたら、全てが終わりです。自然選択によって、篩にかけられ、ゲンプールの多様性が失われてしまったら、次の想定外の環境変化に耐えれなくなってしまうからです。今西が主張するように、『どの個体が生き残って、どの個体が死んでも、ゲンプールの多様性には影響がない』ようになっていないといけません。これは、生物学の学問的都合ではなくて、冷酷なリスクマネジーメントの話です。未来は予測できないからです。生物は、目の前の部分最適化(自然選択)よりも、永遠に続く予測不可能な未来に耐えて、自己を保存し続けることの方が重要です。実際、これに耐えれなくて、多くの種が絶滅していきました。
 このような多様性を維持する為にも、ある程度の塊、即ち、個体群が必要になります。種の絶滅を心配している生物学者は、個体数が、種の復元力の重要なパラメータになっていることを経験的に知っているので、この個体数には非常に神経質です。この意味でも、各個体は、このゲンプールから離れては存在できません。

 生物進化の現象で保存されている自己は、今西が主張しているように、このゲンプール(種)です。この階層の自己保存系の振る舞いです。

 なお、情報不足から、ゲンプール共有の仕組みが曖昧な単細胞生物については、ここでは論ずることが出来ません。情報を収集してみないと何とも言えませんが、もう少し柔軟な発想が必要かもしれません。原始的生物の場合、原始的という言葉とは裏腹に、その仕組みが基本的なので、個々の部品の汎用性が高く、垣根を越えて、遺伝子交換が可能です。生命として自由度と可能性が大きく、この汎用性の高さを利用した適応の仕組みがあるかもしれません。
 我々高等生物の場合、高等とは名ばかりで、ある特定の状況に特化しているに過ぎません。特化の代償として、生命としての自由度と可能性を失っています。考え込んでしまう現実です。



制御システム系と制御理論

 思考形式上は、自己保存系は、制御工学の理論を使って記述可能です。

 このような、生物を自己保存している仕組みは、思考形式上は、制御工学の理論を使って記述可能です。もちろん、現代の制御理論では、不足なので、生命現象を記述可能な新たな理論を作る必要があります。自分の努力のほとんどが、この生命現象を記述する為の制御理論の構築に費やされています。

 元々は、この作業は、哲学上の認識論を論じる為に開発を始めたものです。具体的には、時間と空間の相対性を説明する認識モデルを構築する為に開発しました。それが、意外に便利だったので、知らず知らずのうちに、生命現象全般に適用して使っていました。哲学上の認識論から、脳科学、生命現象一般まで、生命が関与している現象には、広く適用可能です。生物進化の現象もこれを使って理解しています。

 まだ、残念ながら、この制御理論は、基礎的な段階です。工業的な意味で、生物型制御原理に基づくロボットを生産できるレベルにまでは達していません。最終的には、それが目標のひとつですが、自分ひとりの力には限りがあります。しかし、それでも、学問的レベルでは、多くの新しい知見を得ることが可能です。

 生物進化の現象は、種と環境との相互作用の上に成り立っています。

 


 この作用は、種から環境に向かう物理的作用と、環境から種に向かう物理的作用の相反する2方向から構成されています。それを、図ににすると下図のようになります。この図式は、生命現象を理解するうえで、非常に有益です。脳の構造から、生物進化まで、この図式を使えば、その本質を非常に簡単に表現できます。生命現象を定性的に論じるだけでしたら、この図式だけで充分です。

 


 このゲンプールと生活の場の間で起こっている物理的作用のフィードバック過程が、種を自己保存する制御システム系を構成していると考えました。
 上の図からも解るように、進化現象を、制御システム系の振る舞いとして理解する為には、2つの大きな問題を解決する必要があります。


 第一番目は、この制御システムの存在している場の構造です。即ち、生物の存在している環境の構造です。この場の変動への適応行為なので、同じ生物でも、その変動の種類によって、そこに、形成される現象は異なってしまいます。大進化と小進化では、背景で起こっている環境変化の種類が異なっています。このような場の構造と、それに基づく環境変化を論じるのに、今西の『生活の場』と『棲み分け理論』を使いました。今西の主張する生活の場は、物理環境と生物環境から構成される抽象的2次元空間を構成します。この抽象的2次元空間の場の変動として、生物進化を論じていきます。


 第二番目の問題が、制御システム系の具体的構造の問題です。同じ、環境変化でも、制御システム系が異なれば、異なった現象が形成される可能性があります。
 我々、人間の脳は、この肉体の生存と行動を支える為の制御システム系ですが、このシステムは、具体的には、神経細胞から構成されています。
ロボットは、非常に原始的な自己保存系ですが、これは、トランジスター等の半導体から構成されています。半導体が持っている増幅作用と、その増幅作用から生み出されるスイッチング機能を利用しています。
 生物進化は、主にDNAを変化させて、環境変化に適応しています。従って、これは、DNAを使った制御システム系を構成していると考えられます。DNAは、半導体や神経細胞と同じ、制御回路を構成しているいち部品に過ぎません。

 制御システム系の種類  物理的デバイス(制御素子) 分野
 ロボット  半導体(トランジスター)  制御工学
 個体と脳  神経細胞  脳科学
 種と自己保存系  DNA  進化学
 生物の主な構成要素である炭素(C)と、半導体の主な構成要素であるケイ素(Si)は、
原子の周期表では、同じような位置に属します。
共に、半導体としての性質を持っています。多分、偶然の一致ではないでしょう。

 その物理的手段は、システム毎に異なっていますが、そこを支配している制御原理には、ある程度の統一性があるように見えます。情報が不足していて、明確な判断はできませんが、脳の制御原理とDNAのそれとは、基本的部分で同じに見えます。従って、脳科学の研究成果を、この進化論にフィードバックさせることは、有意義であると思われます。何よりも、神経細胞は時間尺度が短いので、実験が可能です。それを、制御理論にもフィードバックさせれば、生物型制御原理に基づくロボットを設計することも可能かもしれません。工学理論のメリットは、その物理的意味が明確で、シミュレート可能なことです。DNAの解析と、脳科学と、制御理論を一体で推し進めれば、効率のいい作業になります。

 このDNAを使った制御システム系の仕組みを理解する為に、木村の『中立説』と『多重遺伝子族』の概念を使用しました。

 今西と木村の主張は、表面上、全く関係ないように見えますが、それは、見る場所の違いです。象の鼻先を観察するか、尻尾の先を観察するかの違いです。観察する場所が異なれば、その情景も異なります。
 生命現象は、生物と環境との相互作用によって成り立っていますが、大雑把には、環境の側から言及したのが今西で、生物の側から言及したのが木村です。

 




棲み分け理論(生活の場)と排他性原理

 生物が存在している環境の具体的構造は、今西の『棲み分け理論』を使って理解します。

 生物にとって、環境とは、自己の生存に影響を与える全ての外部要因を意味しています。従って、それは、温度や水などの物理環境だけでなく、他の生物たちの存在も重要な意味を持っています。食物連鎖に代表されるように、生物は、他の生物の存在に強く依存しています。

 思考形式上は、このことは、環境が物理環境と生物環境から構成された抽象的二次元空間を構成している事を意味しています。この様な抽象的二次元空間を、今西は、『生活の場』と呼んでいます。物理学的には、生命相互作用によって構成された生命場と呼ぶのが相応しいです。重力相互作用によって構成された重力場と、思考形式上は近くなります。
 生物学者は、この抽象的2次元空間を、『生活の場』と呼んだ方がシックリきますし、物理学者は、『生命場』と呼んだ方が理解が簡単だと思います。
数学者にとっては、位相を厳密に定義出来ないので、位相空間として理解しようとすると壁に突き当たるかもしれません。数学的に厳密に論じる為には、ユークリッド幾何学でもない、非ユークリッド幾何学でもない、位相幾何学でもない、空間という概念を使わない全く新しい幾何学体系の構築が必要です。

 

生命現象の構造

 

参考:重力場の構造


 今西の『棲み分け理論』は、種のレベルでも、この抽象的二次元空間が重複することなく、棲み分けられていることを主張したものです。個体レベルなら当たり前の話です。同種の個体は、同時に同じ空間を占有することはできません。椅子取りゲームで、同時に二人が、ひとつの椅子に座れないのと同じです。このような排他律が、種のレベルでも成り立っていると主張しています。
 物理学者なら、この棲み分けは、別の角度から、もっと、簡単に理解できると思います。『排他律』又は『排他性原理』と呼ばれている問題に過ぎないからです。この『生命場』内でも、生命の排他律が成り立っていることを主張しています。物理空間内で、物質の排他性原理が成り立っていることと、思考形式上は同じです。これは、生命現象を物理学理論として理解しようとした場合に、非常に重要なヒントになります。生命場が持っている排他性原理の性質から様々な生命現象を説明可能かもしれないからです。実際にも、この排他性原理を使って、大進化の仕組みを説明します。
 このように、今西の『生活の場』と『棲み分け』の考え方は、物理学的には、『生命場』と『排他律』の問題に置き換えることが可能ですので、思考形式が、かなり整理されます。

 
 種は、互いに重複することなくこの生活の場を棲み分けています。
即ち、排他律が成り立っています。
この為、種と種の境界では、オシクラ饅頭の環境圧が発生しています。




中立説

 制御システムを構成している制御素子(DNA)の振る舞いを理解するのに、木村の中立説と多重遺伝子族の概念を使います。

 木村の中立説は、生存に中立な遺伝子の方が変化速度が速くなることを主張したものです。
 遺伝子の変化速度は、2つのパラメータによって決定されています。物理的時間と、生存に対する依存度です。
 世代交代数ではなくて、物理的時間に依存しているのは、興味ある性質です。システム自体の反応速度と関係しているかもしれないからです。しかし、現状は、それを判断する一切の情報はありません。

 自分は、中立説の表側の意味ではなくて、裏返した意味、『生存と密接に結び付いた遺伝子の変化速度は遅い。』に注目しました。自己保存系としては予測通りの結果だからです。
 システム全体から見れば、遺伝子は、システムを構成するいち部品に過ぎず、いち部品がシステム全体のバランスを無視して、勝手に変わっていたら、システムの崩壊に繋がります。システムの要求に従うなら、環境が変化しなければ、遺伝子は変化してはいけません。これは、システムとしては、非常に重要なことです。
 木村が調べた遺伝子は、基本的なもので、その遺伝子が関与した環境も基本的であり、それほど変化していないと思われますので、結果として、『生存と密接に結び付いた遺伝子の変化速度は遅い。』という観測結果は納得できます。これらの事象は、中立説の主張によってではなくて、中立説が集めたデータによって確認できます。これは、遺伝子と、環境との間で何らかの相互作用が発生していることを示唆しています。

 このように、中立説の主張は、自己保存系の要求と一致します。環境変化を無視して、遺伝子は勝手に変化してはいけません。実際にも、生存と密接に結び付いた遺伝子は、変化速度が遅くなっています。これが確認できたことは、大いなる収穫です。

ゲンプール <--> 種 <--> 環境




多重遺伝子族

 未知のリスクに対応する仕組みについて考察します。

 以上の中立説までの話では、進化の受け身的側面、つまり、小進化しか説明できません。当たり前ですね。その出発点の主張が、『環境変化への適応行為』だったのですから。環境が変化したら、自らも変化して、それに合わせるだけの、消極的な現状維持の行為となってしまいます。大進化に見られるような、ダイナミックは変化は説明できません。そこで、ダイナミックな大進化の仕組みについて考察してみます。

 まず、注目するのはリスクです。生物にとって、環境変化は、予測不可能です。未来に、どのような変化が起こるかなんて、全く解りません。それでも、生物は生き残っていかなければいけません。
 このような未知のリスクに対応する為の生物側の仕組みは、どのようになっているのでしょうか?いくら精巧な自己保存系が構成されていると言っても、それが、現状に対応できるだけのシステムだったら、突拍子もないことが起ったら、破綻してしまいます。

 このヒントが木村の主張の中にありました。遺伝子は重複している。即ち、同じ働きをする遺伝子が多数重複して多重遺伝子族が構成されてる。多数重複していると、ひとつひとつの生存の依存度は低下するので、変異を蓄積しやすいと述べていました。
 どうやら、この多重遺伝子族の仕組みこそが、生物が獲得した、未知のリスクに対応する為の効率的な仕組みのようです。この仕組みを獲得する為にカンブリアまでの長い時間が掛かったと思われます。

 ここから先の話は、残念ながら、まだ、ほとんど、データが蓄積されていません。だから、生物学のデータに裏打ちされた話にはなりませんが、もし、自分が設計者だったら、以上の情報と、条件から、どのようにして未知のリスクに対応可能なシステムを設計するかといった興味でお読み下さい。



多重遺伝子族と、生活の場の相互作用

 生命現象には、遺伝子から環境(生活の場)に向かう下記のような作用が存在しています。

遺伝子 -> 個体 -> 種 -> 生活の場(環境)

 この作用の流れは、全て、解析出来ている訳ではありませんが、推測するのには充分なデータが蓄積されています。だから、細かい点を除けは、それほど、反対される人はいないと思います。
 ここから、先が問題です。
 生命現象自体は、生物と環境との相互作用の上に成り立っています。また、我々が観察している多くの物理的作用は、対称性を持っています。だから、そこには、その反対の作用の流れが存在していると予測されます。

遺伝子 <- 個体 <- 種 <- 生活の場(環境)

 この作用の流れに関する情報は、ほとんど、ありません。唯一、部分的に、RNAからDNAへ向かう逆転写酵素が見つかっている程度です。しかし、生命現象自体が、生物と環境の相互作用の上に成り立っているので、この様な相互作用も、存在しているだろうと予測できます。

 上記のような相互作用が成り立っていると仮定したら、多重遺伝子族と、生活の場との間の相互作用はどのようになるでしょうか。

 



 
 多重遺伝子族と生活の場の相互作用



 今西の棲み分け理論に従うなら、現実の種は、隣接する種と棲み分けているので、通常状態では、枠の中に閉じ込められています。隣接する種との競合の為、自由に、その生活空間を広げることが出来ません。即ち、生活スタイルは、ある程度、枠にはまった状態となります。
 この状態で、それに対応する多重遺伝子族が、ある程度の変異の幅をもって、度数分布的に存在していたらどうなるでしょうか。生活の場の中心点に対応する多重遺伝子族の中心点は、生存と密接に結びついているので、変化できません。しかし、その中心点から離れた遺伝子群は、距離に比例して、生存に対する依存度が低下しますから、そこに、変異を蓄積してく事が可能になります。この変異の蓄積量は、物理的時間と、生存への依存度、即ち、中心点からの距離に関係します。
 多重遺伝子族と、生活の場との相互作用によって、様々な変異を蓄積していくことが可能なら、もし、環境が変化したとしても、環境と連動する形で蓄積された多重遺伝子族の中心点を少し変更するだけで、対応可能となります。
 この方法ですと、試行錯誤に頼らないので、対応時間も短くて済みます。元々が、環境との相互作用によって形成されているので、環境との連続性も保たれており、どちらに向かって進むか予測不可能な環境変化のリスクへも、ある程度は、フレキシブルに対応可能となります。既に、設計図は準備されているので、現状に合わせた微調整だけで対応可能です。
 このような全方位型の適応システムは、遺伝子を重複させ、そこに、環境の構造と対応させる形で、変異を蓄積させ実現しています。これが、生物が獲得したリスクへの対応方法のようです。




大進化と適応放散、そして絶滅

 大進化を、多重遺伝子族と、生活の場の間で働いている相互作用として説明します。

 生活の場と、多重遺伝子族とのバランスがとれた平凡な日常に、ある日、突然、大事件が起こったらどうなるでしょうか。
 例えば、天体衝突のように、大規模な環境変化が起ったら、もちろん、大部分の種は、その環境変化に耐えれなくて、絶滅してしまいます。その崩壊は、物理環境の激変に始まって、生態系の崩壊へと繋がっていきます。ひとつの種の絶滅が、それに依存していた別の種の絶滅へと波及し、それは、生態系全体の連鎖崩壊へと繋がってしまいます。つまり、生物環境の方も大きな変動に巻き込まれてしまします。どこまで、その連鎖崩壊がおこるかは、その環境変化の規模によります。
 このような中で、生き残る種は、運にも左右されますが、あまり進化しないで、基本的な生活スタイルを維持した基本的種のようです。基本的な種の場合、その生活の場も基本的であり、その崩壊の影響を受けにくい為と思われます。生態系の上位が崩壊しても、下位はあまり影響を受けませんが、自分よりも下位が崩壊してしまったら、存在基盤そのものが破壊されますので悲惨です。


 第二ステージの始まりです。生き残った種はどうなるでしょうか。
 当然、今まで他の種が占めていた生活の場は、空席となってしまいますから、他の種から受けていた環境圧も変化し、多重遺伝子族との相互作用にも変化が生じると思われます。つまり、多重遺伝子族と、生活の場の間で生じていた相互作用も変化し、多重遺伝子族の挙動も変化すると思われます。
 もし、多重遺伝子族の中心点を少しずらすことが可能なら、種はその空席となった新しい生活の場に移行することが可能となります。自然選択と違って、ゼロからの試行錯誤は必要ありません。もう、既に、ある程度、遺伝子群と設計図は出来上がっているので、微調整すれば、対応可能となります。その進むべき方向は、環境圧の方向によって決定されます。この方法だと、合理的に、しかも、迅速に、新しい生活の場への進出が可能となります。
 これが、多重遺伝子族を使った適応の仕組みで、この仕組みを獲得するのに、カンブリア紀までの膨大な時間が掛かったものと思われます。


 第三ステージの始まりです。適応放散の始まりです。
 一度、空席となった新しい生活の場への進出が始まると、その空席は、広大なので、当然、ひとつの種を保ったままでは不可能となります。そこに、必然的に、種の分化が起こります。一度、種の分化が起こると、その分化した種間で棲み分けと、相互作用がおこりますから、この関係は、多重遺伝子族の挙動にも影響を与えます。新たな環境圧の発生です。分化した種同士の棲み分け、即ち、排他性原理がさらに、進化を加速させてしまいます。この暴走は、生活の場と多重遺伝子族のバランスを取り戻すまで、つまり、多重遺伝子族が持っている可能性の範囲まで、続くことになります。いわゆる、適応放散と呼ばれる現象です。
 結果として、絶滅前と似たような生態系が出来上がってしまうことになります。恐竜たちの適応放散のパタンと、哺乳類や有袋類の適応放散が、大雑把に何処となく似ているのは、もう、既に、遥か昔に、運命は決まっていたのですかね。


 第四ステージの始まりです。だらだらとした、種の絶滅が始まります。
 生物たちは、多重遺伝子族が持っている可能性を使って、一気に適応放散を行います。それを加速させるのは、生活の場内部で起こっている棲み分け、即ち、排他性原理です。この生活の場内部で起こった排他性原理が、遺伝子と環境との相互作用を通して多重遺伝子族の挙動にも影響を与え、まるで、押し出されるようにして、適応放散が起こります。
 既に、多重遺伝子族という設計図は持っていたので、その適応は比較的スムーズだったと思います。ゼロからの自然選択と試行錯誤で進化は起こると生物学者は考えていますが、そのような先入観に比べたら、比較的その進化速度は、早かったと思われます。
 その結果、適応放散しすぎた種は、多重遺伝子族の中心点を外れ過ぎて、まだ、充分に整備されていない領域に踏み込んでしまうことになります。そこは、まだ、充分に多重遺伝子族が形成されていない領域です。新しい中心点の周りに、新しい多重遺伝子族を蓄積しようとしても、それは、物理的時間に依存しているので、簡単ではありません。遺伝情報の蓄積には、木村の中立説に従うなら物理的時間が必要です。結果、多重遺伝子族の融通性が失われた非常に不安定な状態になります。適応放散し過ぎた為に、多重遺伝子族の融通性を失った種の、だらだらとした絶滅が始まります。ほんの些細な環境変化で絶滅していくことになります。
 このような生態系の崩壊は小規模なので、また、すぐに、別の種によって補われます。


 第五ステージの始まりです。--> 最初に戻る。


 このようにして、物理環境の変化をキッカケとして、適応放散と絶滅を繰り返してしまうことになります。
 この繰り返しは、木村が主張している『多重遺伝子族』と、今西が主張している『生活の場の棲み分け』との間で起こっている相互作用の為です。木村の主張している遺伝子レベルの変化速度が物理的時間に依存しているのに対して、今西の形態レベルの変化速度が一定していないのは、この為であると思われます。
 環境変化だけで進化は語れません。遺伝子の挙動だけでも語れません、環境と遺伝子との間で生じている相互作用として説明する必要があります。

 このような姿って、ほんとに、『進化』と呼べるのですかね。生態系の自己修復に過ぎないように思えてしかたありません。素朴な疑問を感じてしまいます。

 このあたりの事情は、もう少し、情報が蓄積されれば、明らかとなってくると思います。自分は、物理学の場の理論と、制御工学を使って、この足りない分を、強引に補って、話を組み立てましたが、そのような無理をすることもなくなると思います。




生命現象のまとめ

 生命現象についてまとめます。

1. 生命現象は、生物と環境との生命相互作用によって構成されている。

2. この相互作用によって、自己保存系が構成されている。
  即ち、生命現象は、この自己保存系による、様々な環境変化への適応行為である。

3. そこには、この自己保存を具体的に実行している物理的メカニズムが存在している。
  このメカニズムは、思考形式上は、制御工学の理論を使って記述可能である。

4. 生物の存在している環境は、今西が主張しているように『生活の場』を構成している。
  即ち、物理環境と生物環境から構成された抽象的2次元空間(生活の場)である。

5. この抽象的2次元空間(生活の場)内では、排他律(棲み分け)が成り立っている。







進化現象のまとめ

 生物進化の現象についてまとめます。

1. 生物進化の現象は、生命現象の一部である。




2, そこで保存されている自己は、種である。
  即ち、進化現象とは、種が自己保存される過程である。

3. この制御システム系の制御素子は、DNA である。
  脳の制御素子が神経細胞であり、ロボットのそれが半導体であることに対応している。

4. 大進化は、多重遺伝子族(木村)と、生活の場(今西)との相互作用によって生じている。




5. 時間尺度が非常に長い現象である。従って、原因と結果の因果関係が確認し辛い。
  あたかも、原因もなしに突然生じた現象であるかのように見えてしまう。


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