家庭内での暴力など犯罪行為、近隣住民への迷惑行為など、野放しにしておくには明らかに危険な状態でありながら、どこへ相談に行っても解決に至らない問題。
それこそが、冒頭に掲げた「家族を苦しめる8つの問題」であり、わたしたちのもとへは日々、数多くの相談が寄せられています。その数は年々増加しており、そしてどの家族も、「死」を考えるほど、対応に困り、苦しめられています。
- 「殺されるのではないか」と、毎日脅えて暮らしている
- 電話が鳴るたびに「警察に捕まったのでは」と、びくびくしてしまう
- 自分たちが犯罪をしているような錯覚、やましい思いが常にある
- 拘束や暴力から逃れるため、本人に嘘をつき続けることが苦痛
- 就職が、結婚ができない…他の子供や孫の将来を潰されるという恐怖
この問題において、精神科病院を受診したときに最も多いのが、「パーソナリティ障害(人格障害)」と呼ばれる人たちです。 精神科医療では、主治医によって病名も変わってきます。わたしたちが請け負った中では、ほかに「発達障害」「情緒障害」「不安神経症」「社会不安障害」「妄想性障害(パラノイア)」「(遅発性)統合失調症」といった病名がついたケースもありました。しかし、本人が起こす問題行動や、家族が抱えている悩みは同じでした。
嘘をつく、トラブルを起こしては他人を振り回す、家族や他人に暴力を振るう、精神的に拘束する、家一軒が買えるほどの莫大な金の無心をする…などといった、偏った考え方や行動パターンのために、家庭生活や社会生活に支障をきたしている状態です。
また、薬物やアルコール、ギャンブル、ゲームなどに依存しているケースで、根底にパーソナリティ障害が疑われる方々です。
精神科に治療に通っても効果がなく、家族が「入院させてほしい」と頼んでも拒否されます。
家族は対応に疲労困憊し、行政(役所や保健所)、医療機関、警察などに相談に行きますが、解決には至りません。専門家である保健師やケースワーカー、看護師、医師までもが、彼らに対応できないのはなぜでしょうか?
それもそのはず、本人がやっていることの実態は、
- 家族を脅しお金をまきあげて、浪費する
- 自己中心的な生活をし、家族を服従させる
- どんなに常識的な説明をしても、自分の考えと合わなければ、納得しない
- 自分のやっていることが犯罪行為であっても、意に介しない
ということだからです。
本人のやっていることだけを見れば、犯罪者の基本構造と同じであり、警察(司法)に訴えるべき案件に思えます。ところが、問題の多くは家庭内で起こっているため、警察は民事不介入の原則により、容易に介入できません。
また、本人に「精神疾患ではないか?」と思わせる要素があれば、家族や第三者(迷惑を被る近隣住民など)も、110番通報を控えてしまいます。たとえば、希死念慮による衝動的行動、無数のリストカットや根性焼き、舌を噛み切る、といった病質的な自傷行為がある場合などです。
実際に医療にかかれば、主治医によっては病名をつけますし、服薬することで症状がやわらぐこともあります。しかし根底にある考え方の偏りや行動パターンは容易に変わるものではなく、繰り返し問題行動やトラブルを起こされれば、誰もが「関わりたくない」と思うようになるのも当然です。
この「パーソナリティ障害」について、各機関の認識はそれぞれです。
厚生労働省は、
- ICD−10(WHOによる国際疾病分類)の中に、「パーソナリティ障害」がある
- 判定基準に該当すれば、「パーソナリティ障害」という診断名でも、「精神障害者保健福祉手帳」が交付される
- 「平成20年度境界性パーソナリティ障害ガイドライン」を策定している
という事実のみで、精神疾患として認めるかどうかについては、明確に言及していません。
一方、精神科医の間でも認識が異なり、精神疾患と認めない医師もいます。治療に取り組んでいる医師もいますが、その場合でも、大多数が通院治療を前提としています。投薬治療では限界があり、「認知行動療法」「弁証法的行動療法」など長い期間を必要とする治療法になるからです。 では、本人が事件を起こした場合は、どうでしょうか。
司法での精神鑑定の結果次第ではありますが、「責任能力あり」とされ、判例では有罪判決が多数を占めています。 たとえば、2009年3月の茨城土浦無差別殺傷事件では、判決文では「犯行は人格障害によるもので、行為の是非の弁別性、行動制御能力には影響していない。完全な責任能力がある」と認定したうえで、死刑判決が下されています。
結局のところ、病気か犯罪かを区別するラインは今のところ非常に曖昧で、行政や精神科医療は、この類の人たちの対応を警察に押しつけています。かたや警察は、よほどの事件でない限り介入する根拠がなく、「何かあったら110番通報を」とアドバイスするしかありません。
本人を「病気」として、精神科医療につなぎ、解決の方向を見いだすのか。「犯罪者」として、司法で裁いてもらうのか。もしくはこのまま放置して、事件が起きるのを、指をくわえて待っているのか…。その判断は、すべて家族の任意に任されているのが、この国の現状です。
この先、本人とどう共存していくのか。家族が中長期の視点を持ち、なおかつ最悪を想定して指針を決め、動かない限り、事態は何も変わらないのです。
本人の問題行動の原因が一体どこにあるのか、その解明は容易ではありません。しかし、家族の望みは、突きつめれば以下の二つに集約されるのではないでしょうか。
- 自分たちの平穏な人生を取り戻したい。とくに他の子供や孫には、この問題を抱えさせず、それぞれの人生をまっとうしてほしい
- 本人の命を護りたい。犯罪行為をしない、健全な生活を送ってもらいたい
「行政・精神科医療・警察」の三つが連携し、患者をとりまく三角形を描くことができれば、本人はもちろん、家族を助けることもできます。しかし今の日本の現状では、そのトライアングルは、互いに問題を押しつけあうだけで、機能していません。
そこでわたしたちは、トライアングルの中心に立ちそれぞれの機関を結びつけることで、家族と本人、双方が安心して暮らせる環境を現実のものとしています。
また、本人がどう生活を営んでいくかについては、具体的に、以下の二つの選択肢を提案します。
- 生涯入院・長期入院
- 24時間対応の施設への入所
本人を入院させてもらえた場合でも、病院側からあらかじめ「三ヶ月しか受け入れられない」と言われた、あるいは三ヶ月で退院を促された、という方がほとんどではないでしょうか。
もう何年も本人の言動に苦しめられてきた家族からすれば、「たった三ヶ月の入院で、本人の考え方や行動が変わるわけがない!」と、分かっています。
退院後は元の状態どころか、家族の関係はますます悪化し、短期間で再発。入退院を繰り返している、という方もたくさんいます。それでもこの国では、精神科病院への長期入院は非常に難しくなっています。
なぜなら厚生労働省は現在、パーソナリティ障害に限らず、「長期入院」や「社会的入院」の患者をなくすよう、診療報酬の仕組みを作っているからです。
これは、本音を読み取れば「家族の問題は家族で解決してください」「事件になったときは、司法で対応してもらってください」とのスタンスをとっているということです。
そのため、ほとんどの精神科病院は、社会に戻すことが危険だと容易に推測できる患者であっても、「三ヶ月で退院」させてしまうのです。
患者数が急増している昨今、とくに新規の患者に対しては、その傾向が顕著に見られます。
しかし、ごく少数ではありますが、一部の人権擁護団体から非難を受けながらも、長期入院を受け入れている精神科病院もあります。それは、なぜでしょうか?
患者の人権と家族の人権を比較衡量し、患者本人と家族が現実に生きていくためにも、長期入院がベストの方法であると判断が下されたからです。
投薬治療では限界があり、精神療法では時間もかかるうえに患者一人に対する診療時間も限られているため、効果をあげることは困難だと言われています。
そうかといって家族は、本人を24時間見張っているわけにもいかず、結局は、機嫌を伺い要求にすべて応えることでしか、本人の問題行動を抑えることができません。
そんな生活が続けば、家族も疲弊し病気になったり、経済的に困窮するようになったりします。行政や医療からも見放されて、将来の見通しなど立つはずもありません。本人が事件や事故を起こしたために、兄弟姉妹の結婚や就職がご破算になったという話も、数え切れないほどあります。
つまりは、本人一人への対応のために、家族全員が犠牲にならざるをえないわけです。
それどころか、いくら家族が我が身を投げ打って対応したところで、根本の解決にはならず、結局は問題の先送りをしているに過ぎません。
わたしたちが、生涯入院・長期入院という結論に至ったのも、まさにそういった背景を鑑みてのことです。
当然のことながら、生涯入院・長期入院が可能な患者は、ごくごく少数のケースに限られています。精神科領域の専門家でなくとも、本人のこれまでの経緯、現在の言動や病状から、事件の発生が予測される等、明らかに危険だと分かるレベルでなければ、いくら家族から頼まれたところで医療機関も受け入れません。
では、「生涯入院・長期入院のレベルではないが、家族ではお手上げ」という方々の問題を解決するには、どういった方法があるでしょうか。
わたしたちは、これまでに多くの相談や依頼を受けてきましたが、自立・更正へのスタートは、「家族(特に親)への依存を断ちきる」ことができるかどうかにあると考えています。
そのためには、これまで依存の対象であった家族と、精神的にも物理的にも距離をおく必要があります。かといって、まともに働いた経験もなく、金銭管理ができず、日常生活に支障をきたしている方に、いきなり一人暮らしをさせるわけにもいきません。
そこで、民間の施設を利用する方法です。
本人は数々の問題を抱えているわけですから、24時間生活を共にし、自立のための手助けをしてくれるところでなくてはなりません。要するに、家族の代わりに本人と人間関係を構築し、事件や事故のトラブルが起きた際の対処など、本来は家族が負うべき責任の肩代わりをしてくれる施設です。
弊社併設の自立支援施設「本気塾」については、こちら
- 家族は、自分たちの人生をまっとうできる
- 他の子供(本人にとっての兄弟姉妹)、孫たちも、安心して、就職や結婚などができる
- 対象者本人を犯罪者にしないですむ
- 対象者本人も健全な生活を送ることができる
- 近隣住民など第三者の恐怖を解消できる
逆に、現状維持のまま本人を放置した場合どうなるか…。それを一番身に染みて分かっているのは、家族のはずです。