高木俊介氏著「こころの医療 宅配便」からの抜粋の続き。
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また、このような傷ましい事件は、その事件によって病気が明らかになり治療が行われるので、かえって同じことが繰り返されることはなくなる。実際に、殺人のような重大事件においては、精神障害者の再犯率は6パーセントである。ところが一般の犯罪者においては、刑法犯全体の再犯率は50パーセント、殺人の再犯率は30パーセントに及ぶのである!こういうことは、犯罪者の矯正という役割を果たせていない司法の恥部と考えられているからであろうか。世間に対しておおっぴらにされることはほとんどない。
それに対して、精神障害者が何かの事件を起こしたときに限って、まるで同じ人が何度も同じ事件を繰り返したり、同じ精神障害の人たちが同じことをするように思われるのには、マスコミ報道の責任も大きい。精神障害者が起こす事件だからといって、精神障害であることと事件の内容に直接の関係があるとは限らない。ところが容疑者に精神科通院歴があると警察が発表すると、あたかもその病気が原因であるかのようにセンセーショナルに報道するのだ。これでは、糖尿病のある人が犯罪行為を行ったとき、彼には「内科通院歴があった」と書くのと一緒のことだ。
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そもそも医療観察病棟そのものの存在意義はあるのだろうか。要塞のような建物を建て、人々に恐怖心だけ与え、莫大な予算をかけながら、社会にとって、未来にとって展望のある意義ある建物なのだろうか。
必要なのは、精神障害者が安心して生活出来る居住の場の確保と社会生活、そして地域社会の理解だ。それには、真実の姿を伝える地道な積み重ねしかない。
医療観察法施行前は、後押ししたかのような報道をしておきながら、施行後の実態を検証したマスコミはどこもなし。