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俺の妹がこんなに可愛いわけがない ~とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)~/第4話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)」後編
2013-06-28 00:00
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「アンタも知ってると思うけど、私の恋愛がちっとも進展しないのよ。どうすればいいかな」
「おぉ〜、ずいぶん素直に言ったね」
美琴は唇を尖らせて、
「あれだけ煽っておいてよく言うわ。……どーせアイツが見ているわけじゃないしね」
「そっか、だよね。――同感」
「同感って?」
「なんでもない、こっちの話。えーと、『恋愛を進展させるにはどうすればいいか』だったよね。そうだなぁ――」
桐乃は、何かを思いついたとばかりに手を叩いた。
「人生相談してみるってのはどう?」
「えっ……ど、どういうこと?」
「かみじょ……じゃなくて、美琴さんの好きな人って、困ってる人がいると助けずにはいられないって性分の人じゃん? だから、美琴さんが困ってて、助けを求めれば、大きな接点ができると思うんだ」
「な、なるほど……で、でも、人生相談っていっても……何をどうやって切り出したらいいのか……」
顔を赤らめ、俯いて、もじもじと指をすり合わせている。
桐乃は、片目をつむって笑顔になり、
「美琴さん。じゃあ、あたしの言うとおりにすればいいよ。――いい?」
「う、うん」
「まずは、深夜、カレの部屋に忍び込みます」
「め、メモしとかないと……深夜、忍び込む……と」
いきなり犯罪行為から始まったな。大丈夫か?
「ここまではいい? ――そんで、忍び込んだら、寝ているカレの上に馬乗りになります」
「うんうん。……馬乗りになる、と……」
「しかるのちに、パーンとビンタで起こして、カレに『人生相談があるの』って言う」
「……ほんとにそれで上手くいくの?」
「絶対上手くいく。ソースはあたし」
桐乃は自信満々に言い放った。
……俺はこの件について、ノーコメントで。
「ビンタ……ビンタかぁ…………」
ぼそぼそ呟いていた美琴が、右腕を大きく振りかぶった。
そして――
「こんな感じ?」
バチバチバチバチバチィッ!!
真一文字に振り抜かれた、恐るべき破壊力のビンタ。
それを目撃した桐乃が一言。
「なにいまの? ギガブレイクかなにか?」
「えっ?」
「『えっ?』じゃない! ビンタっつったでしょ? なんでナチュラルに電撃属性を付与するかなぁ……あんなの喰らったら、上条さん跡形も残らないって!」
「いやー、でも、アイツにはこのくらいやらないと無効化されちゃうし……」
「大丈夫だって! 寝てるときなら! たぶん!」
……いいのか? 思いっきり『上条』ってバラしちゃってるようだが。
ちら、と上条の様子を見てみると、彼はぶるぶると青ざめ震えながら、
「……お、おい高坂……なんで御坂の恋バナをしていたはずなのに、いつの間にか俺を暗殺する話になってんの?」
「…………」
こいつはもう、多少焦がされた方がいいんじゃないかな?
よっぽど『美琴の好きな人』について暴露しちまおうかと思ったぜ。
「ところで。さっきも美琴さんの電撃を防いでたけど、上条って『無効化(そういう)』能力者なのか?」
「ああ、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』っていって、この右手で触れたものは、それが異能の力であるなら、なんでも打ち消すことができるんだ」
学園都市内の身体検査(システムスキャン)では、『無能力者(レベル0)』だって言われたけどな、と、上条は補足する。
「えーっと……上条の能力って……それだけ?」
「ん? おう、それだけ」
「他の連中みたいに、ビーム出したり、テレポートしたりはできないの?」
「できない。ついでに言うと、回復魔術とか運気も、自分の意志に関係なく問答無用で打ち消す」
がたっ。
俺はパイプ椅子に座ったまま、上条から距離を取った。
「……おーい、どうして俺から離れるんですかね」
「いや……おまえの側にいると不幸になりそうだし。というか、よくそんなゴ……能力で、強敵たちと戦えてんな」
「高坂、いま俺の唯一の能力をゴミって言いかけたか?」
「いやいや、言ってないよ」
能力者だらけの世界で、無効化能力は有用だろうから、ゴミ能力は言い過ぎかもしれない。
しれないが、頻繁に激闘をしているのに、回復魔術が効かないとか、致命的なデメリットに思える。
「ああ……なるほど。だから、毎回戦う度に入院してるのか」
俺の問いに、上条は頷く。
俺はもう一度繰り返した。気になったからだ。
「どうしてそこまでして戦うんだ」
「? なに言ってんだ?」
上条は、あっさりとこう言った。
「戦う理由があるなら、弱い能力でも根性出すしかねえだろ」
『超能力者(レベル5)』だろうが『無能力者(レベル0)』だろうが、関係ないと。
勝ち目があるから、能力があるから戦うわけじゃないと。
当たり前のように言い切った。
「――へっ、そーかよ」
かっこ付けやがって。
ったく……こいつに惚れた女は苦労するな、こりゃ。
初対面でゲストの俺にまで、フラグを立ててどうするんだ。
くくっ、と苦笑を零し、俺はテレビ画面に向き直る。
すると、恋愛相談を受けていた桐乃が、美琴にとんでもない提案をしているところだった。
「――――ってワケで美琴さん、告白の練習をしてみよっか♪」
「……んなっ」
瞬間、画面に無数のコメントが乱舞する。
『うおおおおお』だの『wwwww』だの『きりりんGJ!!』といったものだ。
すでに十万人を越えていた視聴者の数が、さらに目に見えて増えていくのがわかった。
「こ、こここ、告白って!」
「えっ? だって、いつかはするんでしょ?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……ッ」
さすが人気ヒロインというべきか、赤面して恥じらう姿はめちゃくちゃ可愛かった。
いま現在、一途を貫いている俺でさえグラっときてしまう破壊力。
そんな美琴に、桐乃はにこやかにトドメを刺しにいく。
「ホラ、コメント見て見て。視聴者のみんなも期待してるっぽいよ」
「あ、アンタが変なこと言い出すからでしょ!」
「だからぁ、あくまで練習でいーんだって。そしたら『本番』で失敗しないですむかもだし、視聴者(みんな)も喜ぶし、万々歳じゃん」
「うう〜ッ」
両目をきつくつむり、ふるふると震える美琴。
視聴者たちもコメントで『こーくはく! こーくはく!』と大盛り上がり。あとには引けない雰囲気である。
このニコニコ動画のノリ、俺にはついて行けん。
一方画面外では、
「ああああああ!! 妬ましい! 悩ましい……! あんな類人猿に告白だなんて! 有り得ませんのよ! こんなとんでもない企画はお姉様の恋人としていますぐ止めなくてはッ! しかし! でも!!!! お姉様が淫靡に悶えるお姿をもっとこの目に焼き付けたい! 可愛らしい告白の台詞を聞いてみたい……ッ! ああああああああああ!! わたくしは! わたくしは!! ダメな恋人ですのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
……黒子……全部聞こえてんぞ……。
黒子が悶えているうちに、懊悩していた美琴も、何らかの結論を出したらしい。
勢いよく立ち上がり、深呼吸を数度してから、意を決して言った。
「わかった! やってみる!」
「そうこなくっちゃ!」
桐乃も立ち上がり、手を叩く。
「美琴さん、まずは、好きなように言ってみて。あたしを上条さんだと思って!」
おまえもう隠す気まったくないだろ。
まぁ、上条がこの番組を観ていないと思い込んでいるんだろうけど。それを差し引いてもひどい。
美琴が「こほん」と咳払いをする。
「じゃ、行くよ……」
彼女は、グッと両拳を力強く握り、ややウンコ座り風のポーズで、全力で叫んだ。
「あんたアアアアアアアアアアアアアア!!!!! よくも私をオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
バチバチバチバチバチィ!!
「カァァァ――――――ット!!!!」
桐乃が声を振り絞って止めた。
「えっ? なに?」
「カットカットカットカット! それはこっちの台詞!! なにいまの!! なにいまの!!」
桐乃の問いに、可愛らしい声で返事が来た。
「なにって……告白?」
「妹の仇と遭遇したときっぽい台詞だったケド!? 『妹達(シスターズ)編』の最初の方みたいな絶叫だったケド!?」
バリバリスパークして、伝説の超戦士の二段階目に覚醒したかのようだったな。
たぶん『よくも私を惚れさせたな』とでも続くはずだったのだろうが……。
「こんな告白はないって。やっぱ練習しといて大正解じゃん」
桐乃が俺の気持ちを代弁した。
ちょっと拗ねたふうに美琴が言う。
「じゃ、じゃあどーしろっての」
「叫ぶ必要は一切ないの。むしろ声は小さいくらいでいい。あくまで可愛く、恥ずかしがりながら、思いを伝えなきゃ」
「……アンタはそれ、ちゃんとやれたの?」
「もっちろん! 疑うなら、『俺の妹』2巻を読んでみてよ!」
……ノーコメントを貫かせてもらう!
「……そっか、いまのじゃダメか」
「もっかいやってみようよ。今度はあたしが台詞考えてあげるからさ」
「ん〜」
美琴はちょっと考えてから、ゆるりと首を振った。
「……ゴメン、やっぱやめとく。私の気持ちを伝えるのに、人の考えた台詞じゃダメでしょ」
「……そっか。だよね」
「そんなに難しい気持ちじゃないし、本人の前で、自然と浮かんできた台詞で伝えようと思う」
ニカッと笑って、
「それで失敗したなら、しょうがないってモンよ」
――あぁ、これか、って思った。
桐乃が一目置くわけだ。黒子が心酔するわけだ。
いみじくも、上条の言ったとおりだったな。
御坂美琴は、強いだけじゃなく、可愛いだけでもなく。
めちゃくちゃ男前な、女の子だった。
「そっか」
と、桐乃がもう一度繰り返した。
思惑が外れたはずなのに、俺の妹は、美琴と同じ種類の笑みを浮かべていた。
さて……。
いまのやりとりを生で見ていて、何か感想はないのかと、上条の方を向くと――
ジリリリリリリリ!!!
という非常ベルの音が鳴り響いた。
「!」
瞬間、上条の顔つきが一変する。
「これは――」
先までのだらけた雰囲気がかき消え、引き締まった表情になっている。
上条が、キッと画面を睨み付けた。
それとほぼ同時に、テレビのスピーカーから「ニーコニコ動画♪」という無機質な声が聞こえてくる。
発音のテンション自体は高いのに、感情がこもっていないという奇妙な声。
次いで聞こえて来たのは、明らかに音程を外した『笛』の音だ。
「……なんの冗談だ?」
奇妙な笛の音が響く中、まずそう思った。
画面の向こう側、桐乃たちも、同じような反応だ。
しかし、そんな楽観はすぐに吹き飛んだ。
「ぐ……ッ!」
笛の音を聞いているうちに、ズキリと頭蓋骨が軋むような痛みが走ったからだ。
「な、なんだこりゃ……!」
この音を聞き続けるとマズイ!
咄嗟の判断で、テレビの電源ボタンを押し込むも、動画は消えない。
どころか建物内のいたるところから、笛の音が聞こえ始めた。
「おい! どうなってるんだ!」
「スピーカーが勝手に……!」
画面の向こう側が大騒ぎになっている。
誰もが頭を押さえ、苦しそうにしていた。
――桐乃も。
「おいおいおいおいッ! まさか、本当に……?」
――今回のコラボにも、裏があったりしてね。
「桐乃の冗談が、マジだったってのか……ッ!?」
思考する間にも、頭の痛みはどんどんと強まっていく。
上条が叫んだ。
「この音……ヴェントの『天罰術式』みたいなモンか……? いや――」
「知っているのか上条!」
「前に戦ったヤツが使ってた魔術に似てるが違う。さっきの声が言ってたことが本当なら、魔術じゃなくて精神系能力による攻撃だと思う」
洗脳とか言ってたな。それが本当だとしたら、なんて恐ろしい力なんだ……!
ガクリと膝をついたとき、
「その幻想を――――ブチ殺す」
頭蓋の内側で、パリンという音が響いた。
途端、あれほど苛烈だった頭痛が消え失せる。
「え……?」
ふと気付けば、俺の頭を上条の右手が掴んでいた。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』
すべての異能を打ち消す力。
「電撃文庫編集部が、俺をここに送り込んだ理由がやっとわかった。あいつら、こうなるってわかってやがったな」
上条が独り言のように呟く。
彼は右手を俺の頭から外し、今度は目を見て言う。
「なんか、よくわからないけどヤバイことになってるみたいだ。ちょっと御坂たちのところに行ってくるよ」
「お、俺も行くぞ!」
この建物に入るとき、妹と、約束したんだから。
ここで大人しく待っているなんて、できるわけがない。
それに、こいつの側を離れたら、また頭が痛くなるかもしれないしな!!
情けない打算も込みで宣言すると、上条はきょとんと目を丸くして、それから。
かはっ、と、少年らしく笑った。
「――なんだよ。オマエも人のこと言えねーじゃんか」
「……むっ」
人の心を読んだようなこと言いやがって。読心能力者でもないくせに。
「行こうぜ」
「ああ!」
俺たちはスタジオへと駆けていく。
*
スタジオに着いた途端、
「舐、めるなぁ――――――ッ!」
裂帛の気合と共に、蜘蛛の巣状の電撃が発生した。
俺たちが目撃したのは、スタジオの中央で放電する美琴である。
放たれた電撃は、スタジオの機材をいっさい破壊していない。
なのに、スピーカーから流れていた笛の音が、ぴたりと止まっていた。
「――これでよしと。桐乃、調子はどう?」
「だいじょぶ……だけど、いま何やったの?」
「本体を、ネット越しに焼い(ヤッ)といた。――あいにく、このテの下衆い能力にはウンザリしてんのよ」
いまさら効くわけないでしょ、と、髪をかき上げながら言う美琴。
「苦い思い出があるもんね」
と、桐乃。
美琴は顔をしかめて返事をする。
「ったく、こっちのことを一方的に知られてるってのは、やりづらいモンね。今度会うときまでに、アンタのことも予習しておくから、次は覚悟しときなさいよ」
「うん、楽しみにしてる」
二人は一瞬だけ、アイコンタクトを交わし、
「じゃ、親玉(ひろゆき)やっつけてくるから。――ここは任せた」
「――ん、任された。生放送、ちゃんとしめとくから」
ニッ、と笑みをかわす。
「黒子!」
パートナーを呼んで、美琴は勢いよく駆けていく。その後ろに「はい、お姉様!」と黒子が続く。
二人の背を見て、上条が言った。
「俺も行くわ。――おまえは妹を守ってやれよ」
「言ってろ」
駆けていく上条の背を、俺は苦笑と共に見送った。
俺は、あいつらの物語をまだ知らないけれど。
あいつらはあいつらのやり方で、いつもどおりやるのだろう。
俺は妹を見る。
と、目が合った。
「――――」
さて――
こっちもこっちのやり方で、いつもどおりやるとしようか。
ま、つってもやるのは桐乃だけどな。
俺は妹に笑顔を向ける。
――こっちは大丈夫だ、と。
そして、こくりと頷いた。
――頑張って来いよ、と。
「ふん」
――ばっかじゃないの、と、聞こえた気がした。
桐乃は俺から視線を外し、スタッフに話しかける。
「生放送っていまどうなってます? まだつながったまま? そっか、なら、よかった」
この場を美琴に任された桐乃は、どうするのかと見ていたら、
「それじゃー、美琴さんに任されちゃったんで、番組を再開します。事態はまだよくわからないけど、もう大丈夫。いま、美琴さんたちが行ったからね」
普通に生放送を再開しやがった。
あんなトラブルがあったってのに、よくやるぜ、ったく。
桐乃はいつもどおりに仕事をして、俺はいつもどおりに妹を見守って。
いつもどおりにこう思うのだ。
――俺の妹がこんなに可愛いわけがない。
おしまい。
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※第4話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)」後編は7月18日23:59 で公開終了となります。
※第4話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)」後編は7月18日23:59 で公開終了となります。
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