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小説家にな〇ろう、とばっちりを受ける
 実はヤシロの小説には、兄であるヤマトもそれなりに関わっていた。
 よって彼は、弟への悪口が自分にも向かっていると感じていた。
 そして、怒っていたのである。仕返ししてやりたくて、たまらなくなっていたのである。

「くっくっく。安全な場所から当たり散らしているつもりだろうが、そうはいかんぞ」

 そのヤマトが、不意につぶやいた。
 パソコンの画面を見つめたまま、心底うれしそうに口端を歪めながら。

 隣にいるヤシロは冷や汗を流してしまう。
 頼もしいが、同時に恐ろしい。
 兄は世界でも有数の天才プログラマーであり、自作のパソコンはスパコンと呼ばれる処理能力を有している。
 本気になれば、どれほど凶悪なことができるのか。考えただけでも気分が悪くなってくる。

 「矛盾」のパソコンを乗っ取るのは造作も無いことだった。
 その後すぐに個人情報を抜き出し、その言動や、閲覧履歴、所持している画像も入手した。
 「矛盾」は完全に犯罪者クラスのロリコンだった。児童ポルノに当たる画像を数“千”枚所持しており、そっち系の動画の閲覧履歴も確認しきれないほどにあった。中学生相手に援助交際をしていたことも分かった。つぶやきサイトでアイドルをフォローしていることも分かった。

 こうなると社会的に抹殺するのはたやすい。
 おそらく、警察と某巨大掲示板に個人情報と容疑をセットで流せばいいだけだ。
 ヤシロにもできる。
 警察がすぐに動くかは分からないが、掲示板はおそらく「【朗報】糞毒者の矛盾が犯罪者だったことが判明」「やっぱロリコンって糞だわ」「〇カスww GP」などと炎上するだろう。そうすれば、いずれ警察も動くはずである。時間の問題だ。


 なのだが、ヤシロもヤマトも簡単に「矛盾」を檻の中に手放すつもりはなかった。
 まずは己の手で徹底的に打ち負かしてやりたいのだ。
 VRではあるが、肉体的にも精神的にもボコボコにしてやりたいのだ。
 それまでは警察にバラさない。掲示板にも晒さない。

 と言っても、とっておきの人達にはバラしてしまうのだが。
 むしろより効果的かもしれない人達へは。

「くっくっく。まずは初恋の人。次に両親。次に会社の同僚。次に上司。次にほぼ毎日ストーキングしている人。くっくっくっくっく」
「ははははは。これはおもしろい」

 2人していい顔で笑う。

「警察は最後だな。その前にあらかた晒し終えよう。VR世界でな」
「それに、徹底的に論破してやらないとね」
「そうだな」
「恐怖も徹底的に与えてやらないとね」
「もちろんだ。拷問の果てに殺してやる。VRでだがな」
「寝取ったりもしてみようよ」
「ふっ。それももちろんだ。あいつの目の前で、あいつの好きな女とやりまくってやる。二次キャラも含めてな。くっくっく」

 とは言え、まずは論破からということで、兄弟だけで「矛盾」と相対することにした。
 魔人の能力は全て限界値である。対する「矛盾」はHPだけ100で他は全て1だ。
 見た目は魔人が3メートルほどの悪魔で、「矛盾」は本人そのままのさえないチビデブである。

「ん? なんだここは? 夢か?」

 それが「矛盾」の第一声だった。
 予想通りに夢だと思い込んだらしい。

「おおこれはこれは。「矛盾」殿ではないか」
「本名は土草アラシだったよね」
「うっ、悪魔。だけどこのグラフィックの感じは、VRMMOの『妹オンライン』っぽいな。夢に見るほど気になっていたとは思わなかった。つーか悪魔こええええ」

 アラシは1人で怖がったり喜んだりしている。

「落ち着いて話を聞きな。まずはチュートリアルからだ」
「まあそうだろうな」
「夢の世界だからね。まずはきみの得意な論戦から始めよう。さあ、僕たちを論破してごらんよ」

 とりあえず議論に参加させるために、わざと下手に出ているのである。

「ああいいぜ。じゃあ何か問題となる発言をしてみてくれ」

 その返事を聞いて、兄弟はにっと笑う。

「夢だからきみの記憶にある問題しか出せない」
「うーん、まあそうなるか。想像力の及ぶ範囲でならどうにかなる気もするけど」
「まあ聞け。まずは、お前が先日論破した気になっている作者の話題からだ」
「誰?」
「「気になる年頃」ってやつだ」
「ああ。あいつね」
「じゃあまずは、お前がやつの活動報告内で『ツギハギのように取り付けて詐欺まがいのことをしている』『タイトル詐欺紛いの事をして読者を釣ろうとしたという汚点』『作者として恥ずかしくないのですか?』などと悪らしく形容していることについてだ。ここのサイトは感想を投稿する前に「相手に失礼の無い言動をしてください」と注意を促しているだろう。つまりサイトの態度としては「相手を気遣うコメント」を望んでいるわけだ。お前の言葉はそれに反すると思うのだが、なぜダメだと思わなかったのだ?」
「何言ってんだお前。それは事実を述べただけじゃないか。それとも、犯罪者に犯罪者と言いつけることがダメだと言うのか?」

 「矛盾」、「土草アラシ」という名のデブが見下すように笑う。
 兄弟は苛立ちを覚えるが、態度には表さない。
 冷静に口を開く。

「いや、運営はひたすら気遣いを求めている。どこを読んでも「事実ならば気遣いの必要が無い」とは読み取れない」
「うぜぇ。何言ってんだこいつ。そんな当然のことも分からないのか」

 デブは苛立ちを隠さない。 
 予想以上に気が短いらしい。

「分からないから論破してみてくれ。そうしないと次に進めない」
「はあ、なんでこんなバカみたいなことを……。しゃあないから説明するけどさ」

 デブは「やれやれ」と言ってから「はあ」と面倒そうにため息をつく。

「日本人の常識、いや世界の常識でも、事実を言って非難されることはないんだ。それが言論の自由だ。な〇ろうは遅れてるんだよ」

 やはり来たか。
 ヤシロは笑いたくなるのを必死にこらえる。
 見せつけられた。これぞ伝家の宝刀の『謎の常識』だ。
 しかし、今はまだ攻めに転じない。
 兄弟は視線で合図を取り、もう少し様子を見てみることにする。

「しかしここの運営は、事実の羅列よりも気遣いを優先しているように感じる」

 従わなくていいのか? と目で尋ねる。

「まあそうだろうがな。それは運営のミスだ。カスみたいな規約のせいで、ゴミみたいな馴れ合いや、勘違いしたクソ作者が生まれる。なろ〇うの悪い部分だな。この点はarca〇diaに劣る」

 デブはもう一度「やれやれ」とため息をつく。
 様子見は成功だ。兄弟は苦い顔で互いを見やる。
 本当に、こちらこそ「やれやれ」である。
 なぜ、これほどまでに攻撃的な決めつけができるのだろうか。
 しかも、それをさも『客観的』らしく語っている。そうして自信ありげに勝ち誇っている。
 いや、節々にある『当然』という言葉が「主観である」と明かしてくれてはいるのだが、本人は気付いていないだろう。おそらく『当然』『もちろん』『明確』の類が主観に属するとすら知らないだろうし、言っても信じないだろう。

「……例えばだが。事実の羅列が争いの原因になっても、問題は無いのか?」
「だから、……ああっ、もうっ。なんで分からないかなあ。原因を作ったのは言った側じゃなくて、言われた側だろうがっ」
「なぜそう言い切れる?」
「は? いや、はあああああ? 本当に、全く何も知らないんだな。やっぱカスだわ。クソゲー決定だよこりゃあ」

 言うとデブは近場の石を拾い、ヤマトに投げつける。
 ヤマトは動かずにシールドを展開し、来た石を勢いそのままにデブに跳ね返す。

「は?」

 デブは反応できない。

「あ(いた)っ」

 見事額に命中する。

「チッ、クソッ。死ねボケえっ!」

 デブは苛立ち、転がった石を見てから、ヤマト目がけて叫ぶ。

「まあまあ落ち着いて。冷静に論破してみてくれよ。できるだろ?」
「クソッ、ボケッ、アホッ……」

 悪態つくデブをヤシロがあやす。
 もちろん内心はほくそ笑んでいる。
 とにかく語らせて、もっとたくさん論破してみたいのだ。

「そうか分かったぞ。正しいと言い切ろうとするから論破できなかったんだ。ここはふつうに、罪と罰の考えを使えばよかった」

 そうして、ふとデブが語り始めた。

「罪と罰とは?」
「『悪をもって巨悪を討つ』ってやつだな。ほら、犯罪者を罰するのは必要悪だろう? クソ作者を叩くのもそれと同じだった」

 デブはまたため息をつく。
 しかし、やはり相手を見下し、勝ちが決まったかのような態度である。

「はあ。こんな簡単に論破できることなのに、何を遠回りしていたんだろう」

 本当に、なぜそれほど簡単に決めつけてしまうのだろう。

「えーっと。どの道規約では、断罪のつもりだろうと、暴言を許してはいないと思うんだけど」
「分かってるって。だから必要悪だと言っただろう? 悪いかもしれないが、それが必要だから問題にならないんだ。運営の対処しきれない分を俺が対処してもな」

 デブの態度が少し軟化している。
 おそらくだが、自分の非を認められるような、物分かりのいい人間になったつもりなのだろう。
 もちろん、この程度で論破を止める兄弟ではないのだが。
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