法解釈ミスで年金未払い 厚労省、機構に調査指示へ
産経新聞 7月7日(日)7時55分配信
年金受給権の時効を撤廃した特例法に沿って「未払い年金」の支給を申請した対象者が、年金給付を行う旧社会保険庁およびその後継の日本年金機構による同法解釈の誤りによって、支払いを拒否されていたことが6日、分かった。厚生労働省と年金機構関係者が明らかにした。時効撤廃特例法は、本人の故意や過失で年金の請求が遅れても、年金受給資格がわかる記録訂正があれば支払い義務があるとするが、拒否していた時期があった。厚労省は年金機構に対して、支給業務を適切に行ってきたかどうか調査を求める方針だ。
官公庁が所管法令の解釈を誤るのは異例だ。同じようなケースの受給対象者でも支給と不支給の2つの処分が存在する「ぶれた年金」ともいえる対応があったことになる。
関係者によると、旧社保庁は福田康夫内閣当時の平成19年11月、時効が撤廃された年金の支払いを求めた男性に対し、年金保険料を偽名で支払っていたことを理由に「法律上の記録訂正に当たらない」と判断、不支給処分にした。男性は家庭上のトラブルで失踪した後、偽名で厚生年金に加入していた。
この男性は再審査を要求し、厚労省の社会保険審査会は20年6月30日、「被保険者に故意があった場合に給付しない条項は法にない」と裁決し、支払いを指示。旧社保庁は誤りを認め、法解釈を変更して支給した。少なくとも時効撤廃特例法の施行から1年間、誤った法解釈で年金給付業務を実施していた。
厚労省は同法の施行にあたり、職員用にマニュアルを作成。本人に故意や過失があった状態でも、記録訂正と年金受け取りの申請手続きが行われれば「支給しなければならない」(同省幹部)としてきたが、徹底されていなかった。
22年1月に発足した年金機構も、菅直人内閣当時の23年6月、時効撤廃特例法の誤った解釈で不支給処分を決定。24年2月になって突然、支給に転じた。
この理由について、機構は「担当者の認識がたまたま間違っていただけだ」と主張。「制度開始から昨年10月までに不支給処分とした20万件の請求を確認したが、法解釈を誤った同種のケースはほかになかった」としている。しかし厚労省は「法解釈を間違って運用してきた可能性は高い」(年金局)と見て、「ぶれた年金」の事例がないか機構に再調査させる方針だ。
【用語解説】年金時効撤廃特例法
平成9年の基礎年金番号導入時に記録統合に失敗した5千万件の「宙に浮いた年金」問題が19年2月に判明。国民から猛反発を受けた当時の第1次安倍内閣が年金受給対象者を救済するため議員立法で成立させた。法施行の19年7月から年金受給権の時効(5年間)がなくなり、昨年10月までに日本年金機構(旧社会保険庁)は310万件の処理を終えている。
最終更新:7月7日(日)11時10分