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COLUMN
ギリシャに吹く風 ~アテネオリンピック・ボランティアレポート~

オリンピックやFIFAワールドカップなど、世界規模のイベントを裏方として支えるボランティアは、スポーツ・ボランティアの花形と言える。2000年のシドニーに続き、アテネオリンピックにボランティアとして参加している筆者が、ボランティア活動の状況や大会の様子などをタイムリーにレポート。

8月12日(木) トレーニングDAY

「14日(大会初日)が最も重要な一日となる。笑顔を絶やさず、常にフレンドリーに振舞うことを忘れるな!」開催まで数日と迫ったこの日、私達ボランティアは水泳、飛び込み、水球、シンクロナイズドスイミングが行われるアクアテックセンターの一室に集まっていた。会場となるプールでは、続々と集まる各国の選手達が練習をはじめている。鍛え上げられた体を横目に、彼らに最高のパフォーマンスをしてもらうためには、私達も最高のパフォーマンスでなければならないと身が引き締まる。失敗は許されない。「ここは世界のテレビ視聴者40億人が注目する頂点の決戦場だ。君たちは非常に重要な任務を授かっている」フォトサービスマネジャーのピーターがそう言うと、緊張感でその場の空気がガラッと変わった気がした。

私が仕事を任されることになったのは、北島康介選手の活躍が期待されるアクアテックセンターのメインプールである。ここで、フォトサービスという仕事に従事し、世界各国から集まる新聞記者とカメラマンのサポートをすることになる。この日のトレーニングでは、仕事の内容はもちろんのこと、会場内を歩きながらどこでどのような仕事が発生するかといった細かな指示が下された。アクアテックセンターのフォトサービスで働くボランティアは55名。そのうち、28名は飛び込みと水球が行われるインドアプールに配置され、残りが競泳、シンクロナイズドスイミングが行われる屋外プールに配置される。北島らトップスイマーの姿を世界に配信する一流カメラマンたちは約25名のボランティアアシスタントに支えられているというわけだ。

そして、フォトサービス55名のボランティアをまとめるのが、マネジャーのピーター、アシスタントのジョージとイビーである。ピーターは過去6回のオリンピックにおいて同様の仕事を経験しており、シドニー大会での仕事ぶりが評価され、再びアテネ五輪委員会からお呼びがかかったというオーストラリア人のベテランマネジャーだ。ジョージは過去4回のオリンピックをボランティアとして経験しており、普段はアテネ市内の大学でスポーツ経営を教えるという理論と経験を備えたマルチアシスタントだ。そして、イビーは2ヶ月前まで子どもたちに囲まれながら学校の管理運営をしていたという笑顔の優しいギリシャ人女性アシスタントである。


嵐の前の静けさを見せるメイン会場

バックグラウンドも性格も全く異なるこの3人。「コラボレーション(協力)、アピアランス(服装と振る舞い)、そして、エンジョイ(楽しむこと)の精神が大切だ」とジョージが解説すれば、「笑顔で楽しみましょう」イビーは微笑む。「謙虚に、笑顔で、礼儀正しくすることも重要だ」とジョージが解説すれば、「我々は共にこの任務を背負っているんだ」ピーターは凄みのある声で全体を引き締める。細かな説明が得意なジョージ、優しい笑顔で見守ってくれるイビー、威厳ある態度で全体をまとめあげるピーター。3人のうち誰ひとりとして欠くことのできないこのバランスが、大勢のボランティアをまとめあげるマネジメントの秘訣といえる。

そして、この日の最後にピーターの発した言葉が私に響いた。「ここでの任務をベテランの仕事人に任せてしまうことは簡単なんだ。しかし、それではオリンピックとは言えない。ボランティアがオリンピックの精神だからこそ、私たちはこの任務を授かっているんだ!アテネを史上最高のオリンピックにし、このアクアテックセンターを世界で一番素晴らしい仕事場にするんだぞ!」ボランティアの心に響く言葉は、そのまま私たちのモチベーションへとつながる。国際舞台を創り上げる舞台裏のマネジメントとボランティアをまとめるリーダーたちの言葉。私はそのひとつひとつをメモにとりながら、これから始まる17日間にはボランティアマネジメントの真髄が凝縮されるのではないかと感じた。いよいよ開幕。最も重要な一日(大会初日)がもう間もなくやってくる。

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WRITER PROFILE

小松 愛(こまつあい)

早稲田大学スポーツビジネス研究所研究補佐員。インディアナ州ボールステイト大学大学院スポーツアドミニストレーション学科を卒業。専門はスポーツ経営。
現在は、スポーツ国内総生産、プロスポーツ、総合型地域スポーツクラブ等の研究に携わる一方、自治体のスポーツ振興計画策定業務などにも関わっている。スポーツボランティア、マネジメント等の講師等も行っている。

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