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カラーハンティング展 色からはじめるデザイン (6)

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第4回 参加作家・畑中正人にきく

2013年6月21日より開催中の「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」。参加作家・企業のインタビューなどを通して、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」会場風景/Photo: 木奥恵三

展覧会で紹介されている19の作品はプロジェクトとして立ち上げられ、それぞれの専門家、研究者、教育機関、学生などが参加して制作されたものだ。藤原 大はすべての作品の企画者であり、ディレクションをしている。とはいえその方法や関与の度合いは、プロジェクトによって少しずつ異なる。最初から最後まで、自分の手を動かして制作した場合もあれば、カラーハンティングし、そのままカラーチップを専門家に預け、彼らの制作に委ねた場合もある。この「浜の色音」というプロジェクトは、スペシャリストによる分業制で成功した例といえるだろう。タイトルどおり、色から音をつくるというチャレンジだ。

藤原 大による「浜の色音」カラーハンティングの様子/Photo: (株)DAIFUJIWARA

藤原は昨年の夏、沖縄で46カ所以上におよぶ海水浴場の砂と海の色をハントした。沖縄本島を一周、さらに宮古島、下地島、石垣島、竹富島の11カ所を加え、150のカラーチップを作った。この旅の間ずっと耳にしていた波の音が強い印象となって残っていたので、集めた色から音をつくれないだろうかと考えた。そして、舞台やイベントの音楽、企業のヴィデオパッケージ、映画、広告など数多くの作品を手がける作曲家、畑中正人に相談したのだ。

畑中正人

「自然の色をハントして、それをもとに音をつくりたいということでした。僕の仕事の前に、まずチップの色から音を作るという作業が必要なのですが、ものすごく簡単に言うと、色も音も"波動"であることが共通しているので、不可能なことではないのです」

まず、カラーチップをコニカミノルタの分光測色計で測定した。これは物体から反射された光を内蔵された複数のセンサで細かく分光・測定することによって色を数値化し、その波長成分をグラフ化して表示することができる機械だ。すべてのデータとグラフがヤマハに送られ、同社が音に変換した。
「そして僕のところに音が送られてきたわけです。この段階では、それぞれ1秒ほどの、ザーッというノイズでした。さてどうするかと、試行錯誤が始まりました。風の音や波の音など、どこかの場所の音を録音してきて、それをもとに音の情景をつくることはよくあります。でも今回のように、いただいた音をもとにつくりこんでいく仕事は、おそらく初めてじゃないかな」

「浜の色音」映像より

「送られてきた音源のひとつひとつを、彫刻するように削って音をつくっていきました。たとえばひとつの音源の高音部を残して低音を削る、そんな作業です。展覧会で音を鳴らす時に基になった色を示したいし、動きがないとわかりにくいのではないかと思い、よくご一緒している映像作家のToshi Wakitaさんに声をかけました。カラーチップそのものを映像にして、音と同期させていく方向性が決まったら、あとは一気に進みました」

実際の展示では、畑中の言うとおり、モニターに映るカラーチップの色と音が同時に示される。単音ではじまり、次第に音が重なり、うねり、変化するサウンドスケープに引き込まれていく。安直な癒しの波の音ではなく、緊張感のあるさわやかな印象である。
「今年になってから一番むずかしい仕事でしたね。この色がこの音なんだ、という印象をもちかえっていただけたら嬉しいです」(了)

構成・文:
カワイイファクトリー|原田 環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)

はたなかまさと:1975年北海道生まれ。2002年にドイツに移住し、ヨーロッパでバレエ音楽の分野で活躍。04年に帰国後は、主に広告音楽を手がけながら、音の機能としての美しさを基調とした建築音楽を提唱。レクサスインターナショナルギャラリー青山、東京スカイツリーの450M天望回廊などを手がけている。現在は札幌を拠点とし、建築、都市と音との新たな関係を探るラボを構想中。

いよいよ開催!「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」

6月21日(金)より、いよいよ「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」が開幕します。
展覧会ディレクターの藤原 大が世界各地で「採取」した色をもとに、さまざまな協力者との恊働から生み出された靴、本、めがね、映像やインスタレーションの数々......。体験型作品も含めた全19プロジェクトを、丁寧な解説と豊富なプロセス写真とともに紹介します。ぜひご来場ください!

6月29日(土)14:00-15:30に藤原 大自ら会場をご案内するギャラリーツアーを開催。参加予約は不要ですので、ふるってご参加ください!
>>藤原 大によるギャラリーツアー

藤原大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えするレポートを更新中。ぜひご覧ください!
>>「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート

Photo: 木奥恵三

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第3回 展示予定の「カラーハンティング」ダイジェスト

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」の開幕に向け、展覧会ディレクター 藤原 大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

藤原 大が提唱するカラーハンティングとは、対象物を観察し、自分の手で水彩絵具を混ぜてその色を写しとることだ。今回の展覧会に出品される作品のうち、カラーハンティングから発展させたプロジェクトを紹介する。

© Yu Yamanaka

カラーハンティング

展覧会のイントロダクションとして展示する映像作品。2013年3月3日、冬の風景が残る八ヶ岳でのカラーハンティングの様子を、山中 有が映像に収めた。このときに採取した8つの色を用いた成果物もあわせて展示される。

ライオンシューズ/Photo: (株)DAIFUJIWARA

ライオンシューズ

2012年11月、アフリカに向かった藤原はセレンゲティ国立公園で野生のライオンの色をハントした。同公園は14,763km²の広大なサバンナ。100万頭を超すヌーが、シマウマやガゼルなどの草食動物とともに、ケニアのマサイマラから1年をかけて時計回りに一周する大移動を繰り広げている。ライオンはヌーの動きを追うように移動しているのだ。カラーハントしたライオンの色に染めた生地で、カンペールが靴を制作。

スカイダイアリー/Photo: (株)DAIFUJIWARA

スカイダイアリー

2011年6月からの1年間、藤原は出張先にも絵具をもち歩き、朝もしくは午前中の空の色をとり続けた。すべてのカラーチップをインスタレーションとして展示する。さらに藤原のコンセプトに共感したオランダのグラフィックデザイナー、イルマ・ブームがデザイン、キュレーター・編集者の太田 佳代子が制作した"空のメモリーブック"も展示される。

リップインク/Photo: MOTOKO

リップインク

おとなと子ども、5人の男女の唇の色を藤原がカラーハント。それぞれのカラーチップをもとに、セーラー万年筆のベテランインクブレンダー、石丸 治が唇の色のインクを制作。

肌色メガネ/Photo: (株)DAIFUJIWARA

肌色メガネ

2013年の成人の日、藤原は東京で透明感のある肌の女性を探し、ひとりの女性に声をかけて肌の色をハントした。彼女の肌色のカラーチップをもとに、アイウエアブランドJINSがメガネフレームを試作。資生堂の肌研究のデータも取り入れた"肌色メガネ"を展示する。肌を美しく見せるメガネ、直接メーキャプするメガネといった新たなプロダクトの可能性を追求しているプロジェクト。

世界色遺産01 朱鷺/Photo: 永野雅子

世界色遺産01 朱鷺

佐渡市新穂小学校の5、6年生43人が、本物の朱鷺の羽根を見ながら、朱鷺の色を画用紙に写しとった。

浜の色音/Photo: (株)DAIFUJIWARA

浜の色音

藤原が沖縄本島、八重山諸島の海水浴場をまわり、海や砂の色、草木の色など100色以上を集めた。コニカミノルタ、ヤマハの協力を得て色を数値化・グラフ化したデータが音に変換された。その音を作曲家の畑中正人がサウンドスケープとして仕上げるプロジェクト。

このほかにも、聖武天皇(奈良時代)の遺愛の品のリストである「国家珍宝帳」に登場する色に着目し古代の色を再現するプロジェクト、データサイエンスにより色と言葉のつながりを探るプロジェクトなど、色をテーマとしたさまざまな作品が紹介される。(了)

構成・文:
カワイイファクトリー|原田 環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第2回 藤原 大に聞く 〜後編〜

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」の開幕に向け、展覧会ディレクター 藤原 大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

「カラーハンティング」に至るまで

1992年、多摩美術大学の学生だった藤原 大は北京の国立中央美術学院で1年間、山水画を学んだ。国立中央美術学院は、中国の選りすぐりの美術学生が集まる芸術のエリート大学として名高い。

「学生たちはほんとうに上手な人ばかり。ちょうどスーパーリアリズム風の油彩が流行っていてすごい熱気でした。僕が入った「国画系山水画」専攻は、1学年10人未満のクラス。そこに外国人留学生が数人加わる感じでした。寮に入って、皆で生活するんです」

「最初の3ヶ月は、有名な画家の実作をひたすら真似て描く。その後、文房四宝(筆・墨・硯・紙のこと)を持って教授と一緒に山に入り、スケッチをします。そのスケッチをもとに1年を締めくくる大きな作品を描くのです」

「中国に行く前は、山水画に描かれている木には見たことのないものがあったから、想像で描かれているのだろうと思っていましたが、それは違いました。目の前にあるものをそのまま描いているんだ、自然そのままなんだということがわかった。そして、ゼロからはじまることはない、目の前にあるものを見に行かなければ、空想に終わってしまうと。何かをする時には本物に近づくこと、現場に入ってそれを見ることを訓練したと思います」

ブラジル・アマゾン川上流にてカラーハンティングをしている様子(ISSEY MIYAKE 2009 SPRING SUMMER メイキング写真より)

カラーハンティングの確立と今

発想力と行動力をあわせもつことは、藤原 大というデザイナーの大きな強みだが、まず現場に赴き、そこで起こっているものごとを見るというスタイルは、この留学体験から培われたと言えそうだ。

「カラーハンティングは自然そのままを写しとることから始まります。山水画を学んだ体験もそこに通じています。山水画は墨の濃淡で万物の色を描きわける。空気の動きを描く。単色による表現ですが、そこには光があり、色がある」

藤原が初めて「カラーハンティング」という言葉を使ったのは、ISSEY MIYAKE の2009年春夏コレクション。南米の熱帯林に3000ものカラーサンプルを持ち込み、川、木、土などの色と照合させ、自然の中で得た色に染めた糸で布を織り、服を仕上げた。このコレクションは高い評価を得て、ファッションの枠を超え、美術館での展示も行われた。

東京都現代美術館「カラーハンティング ブラジル」より/Photo: 吉村昌也

「カラーハンティングから製品を作ったのはこの時が初めてでした。その後、カラーサンプルを確認するだけでは充分ではないと思うようになり、自分の色見本を作ろうと考えました。自宅で見る空の色を水彩絵の具で写しとる、自分の色をつくることを始めたのは、2011年6月からです」

今回の展覧会では、この空の色のプロジェクトをはじめとするすべての展示が、ライオン、人間の肌、沖縄のビーチなどの対象を観察し、水彩絵具で色をつくったハンドメイドのカラーチップをもとにしたものとなる。藤原は、展示を通して来場者に何を受け取ってもらいたいと考えているのだろう。

© Yu Yamanaka

「色は僕たちのそばに必ずあるのだから、本物を見ること、行動することから何かを感じてほしいと思っています。カラーハンティングはほんの些細な行為なんだけど、時間がないとかいろいろな理由で、そんなことはできないと思う人が多い。でも行動することで理解が深まる。自分で行動しておくと、デザインをするときに迷いがない。源流からものを考えて行くことができます」

「20世紀の社会で、デザインすることはモノをつくることでした。今は、環境をつくることがデザイナーに求められています。情報化社会がますます複雑化していくなかで、社会、サイエンス、エンジニアリングとデザインを結びつけるものが色だと、僕は考えています。色から始まるデザインにどんな可能性があるのかを探っているところですが、そのプロセスを楽しんでいただければと思っています」(了)

<次回は「カラーハンティング」ダイジェストをお届けします>

構成・文:
カワイイファクトリー|原田 環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第1回 藤原大に聞く 〜前編〜

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」の開幕に向け、展覧会ディレクター 藤原 大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

展覧会で発表するプロジェクトのひとつより、カラーハンティング中の藤原 大の手もと/
Photo: MOTOKO

ディレクターの横顔

色について考え、行動することからデザインをはじめる。その方法論を「カラーハンティング」と名付けたのが、デザイナーとして活動する藤原 大だ。6月21日から始まる企画展では、カラーハンティングから始まったいくつかのプロジェクトとその成果物が展示され、実際にどのように「色を"とる"」作業をしているのか、ものが作られるまでにどのようなプロセスを経るのかが示される。
そもそも、なぜ色なのか。このインタビューではそれを聞きたかった。本題に入る前のウォーミングアップとして、まず藤原のプロフィールをかんたんに辿っておこう。

藤原は東京生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科を卒業後、1994年に三宅デザイン事務所に入社。98年、三宅一生と共にA-POC プロジェクトをスタート。これはコンピュータ制御した編機・織機によって一枚の布から一体成型による衣服を作り出すという画期的なプロジェクトだ。この仕事によって2003年毎日デザイン大賞を受賞している。

2006年にISSEY MIYAKE クリエイティブディレクターに就任した彼は、A-POCをISSEY MIYAKE ブランドのデザインソリューションと位置づけ、テクノロジーと日本各地の染めや織りの伝統的な技術・素材とをつなげる服作りを展開。一方で英国のダイソン社のジェームス・ダイソン氏や、数学のノーベル賞と称されるフィールズ賞受賞者、ウィリアム・サーストン氏と協働するなど、その創造性が国内外で高く評価された。

2008年に自身の会社 株式会社DAIFUJIWARAを設立、現在は大学等で教鞭をとるとともに、様々な活動を精力的におこなっている。鎌倉で地域や大学の関係者と「国際観光デザインフォーラム」を共同運営する一方、この5月には、バッグのコレクション「Camper Bag by Dai Fujiwara」がスペインのカンペール社から発売された。紙とポリエステルから作られた特殊なニット素材を使ったバッグは、男女を問わず身体になじむ柔らかな手触りが機能的で、独自の素材開発から始める点は藤原の面目躍如と言える。

Camper Bag by Dai Fujiwara

また、建築プロジェクト「スカイ・ザ・ボートハウス」も興味深い仕事だ。自らコンクリートを打ち、船大工とともに建設した、海の見える丘に建つ家は、屋根の一部が布で、取り外すことができる。トップライトからふんだんに光を取り込むことができるこの家は、色についての大きな示唆を彼に与えたに違いない。色は、光なくしては存在しないからだ。このプロジェクトは海外の美術館などで紹介されている。「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」では映像が展示される予定だ。

スカイ・ザ・ボートハウス/Photo: (株)DAIFUJIWARA

中国で山水画を学ぶ

4月下旬、打ち合わせの折りに「そもそも、なぜ色なのか」と藤原に問いかけてみた。

「子どもの頃から色に惹かれていて、光のスペクトルのことを何も知らないのに、似たような絵を描いていました。まだカラーハンティングという言葉こそ使っていなかったけれど、大学時代も自分の作品として自然の色をとることをしていましたね。そのなかでも、中国で山水画を学んだ経験から得たものが大きいと思います」

「1992年、日中国交正常化20周年記念事業の一環として企画された学生使節団に加わることができたので、大学を1年休学して北京の国立中央美術学院に留学しました。山水画を勉強したかった。当時の私なりに今しか学べないものは何かと考えた結果、アジアから日本を見てみたい、とくに中国の思想や考え方を理解した上で日本を見てみたいと思いました。それで中国の書画を学ぶことにしたのです」

藤原 大が留学中に使用したノート

中国で始まった山水画は自然の景色を描いているが、自然を絶対的かつ霊的・精神的な存在として見る中国人の自然観を反映している点が西欧の風景画とは根本的に異なる。それはさておき、墨で描かれる山水画はモノトーンの世界で、色は存在しない。山水画を学んだ経験が色につながるというのは、どういうことだろう?

<つづく>

構成・文:
カワイイファクトリー|原田環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」展覧会ディレクター 藤原 大をはじめ、参加作家・企業のインタビューなどを通して、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

第1回
藤原 大に聞く 〜前編〜
第2回
藤原 大に聞く 〜後編〜
第3回
展示予定の「カラーハンティング」ダイジェスト
第4回
参加作家・畑中正人にきく

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