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芸能人の年金制度廃止、法改正や景気悪化で運営困難

2009年7月16日3時2分

写真芸団協が6月に芸能人らに送った廃止を知らせる文書。専務理事で俳優の大林丈史さんは「脱退が相次ぐのを避けるため、事前に知らせることができなかった」。

写真朝日新聞の取材に廃止理由を説明する俳優の大林丈史・芸団協専務理事。「加入者・受給者に大変申し訳ない。廃止は断腸の思い」=東京都新宿区

 俳優や歌手ら約9万5千人の芸能人が所属する業界団体が、36年間運営してきた国内唯一の芸能人向け年金制度を廃止した。法改正や景気悪化で運営が難しくなったためだ。払い込まれた掛け金は計約5千人の加入者や受給者に全額返還できる見通しだが、利息は支払えそうにない。芸のプロたちからは国の施策に不満の声もあがる。

 団体は文部科学省所管の社団法人・日本芸能実演家団体協議会(芸団協、東京都新宿区、野村萬会長=狂言師)。65年設立で、演劇や音楽、演芸など72の芸能団体で構成されている。

 芸団協が73年4月から運営してきた「芸能人年金共済制度」(芸能人年金)は、サラリーマンの企業年金にあたる私的年金だ。芸団協所属の18〜65歳の芸能人や配偶者が加入でき、受給は65歳から。今年5月末時点の加入者は2859人、受給者は2158人だった。

 その芸団協は6月22日、芸能人年金の廃止を決めた。きっかけは06年4月に施行された改正保険業法だ。私的な共済事業が運営者に悪用されて加入者が損害を受ける詐欺事件が相次いだため、改正法では無認可共済への規制が厳しくなった。仲間うちの小規模な共済も、加入者が1千人以下などの一部を除いて規制対象になった。

 芸団協は芸能人年金が規制から外れる運営方法を模索したが、昨年12月から始まった新たな公益法人制度が追い打ちをかけた。芸団協が新法人に移行すると文科省の監督を外れ、この時点で芸能人年金は「無認可」状態となり、自動的に保険業法で規制されることになるからだ。

 運営を続けるには保険会社か少額短期保険業者(ミニ保険)などに衣替えする必要があるが、芸能団体が保険会社の免許を得るのは事実上不可能。ミニ保険は期間1〜2年で年金とは根本的に性質が違う。民間の保険会社に運営を任せる手もあるが、「掛け金を随時減らせるなど柔軟性の高い商品設計をそのまま引き継ぐのは無理、と保険会社に言われた」(芸団協)。

 さらに、掛け金を運用していた株や債券が昨年来の金融危機で急落。資産はピーク時の3分の2に減り、今年5月末時点で約100億円。これに対し、廃止に伴い加入者や受給者に掛け金のみを返した場合の支払額は約98億円で、資産価値が今より減れば返せなくなる。芸団協専務理事で俳優の大林丈史さん(67)は「廃止をためらう時間的余裕はなかった」と話す。

 芸団協はすでに加入・脱退の手続きをやめ、株や債券の売却を進めながら掛け金の返還を始めている。大林さんは「大変無念だが運営を続ける方法がない。国はなぜ、私たちのような“助け合い年金”まで廃止に追い込むのか」と悔しさをにじませる。(富田祥広)

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