三段目
緊急のお願いを出した関取目指して三段目まで行った青年のお話(以下三段目氏と呼ぶ)。
三段目氏と知り合った切っ掛けは、彼がどうも女性ボランティアにひっかかったような所から生じているようだ。何度か生活保護を受けたことがある彼は、他のホームレス同様、「人付き合いができない」とのこと。小生の施設の話を女性ボランティアがすると、「ワンルームの部屋が空いたら入りたい」という希望を述べていた。
ホームレスが生活保護を受けるにあたって、ワンルーム入居を希望するケースは多い。これまで小生関連施設では、ルームシェア方式が過半数だった。しかしルームシェア方式は、入居者同士のトラブルが起こりやすい他、自治体ともケンカしなければならないことが多い。自治体自体がルームシェア方式を認めなくなってきているのだ。
そこで今年からワンルームのアパートを入手するような方針に転換した。一戸当たりの金額はかなり割高になるが仕方がない。また、これまで野田コンツェルンは無借金経営だったが、この関係でついに借金をするに至ってしまった。これには金利が底打ちしたタイミングで金を借りてやろうという意図もあった。
五月半ばにその最初のワンルームアパートを調達した。そこでこの三段目氏に連絡を取って、上野のマクドナルドで会うように約束をした。ところがこの約束を彼はすっぽかしてくれた。
ワンルームの部屋で生活保護を取りたいという希望者は多い。約束を守れない人間をいつまでも構っているヒマはない。三部屋しかなかったので、部屋はあっという間に埋まってしまった。その女性ボランティアとも、「あいつはダメだな」と話していた。
その後部屋が埋まって一週間程経ってから、彼は再度連絡を取ってきた。やはり生活保護を取って欲しいとのことだった。そこで暫定的に空いているルームシェア形式の物件で、ワンルームの空きができるまで待ってもらおうかという流れになる。
丁度それと同じタイミングで、炊き出しをやっているボランティア団体のお偉いさんから、「未成年のカップルホームレスがいる」との連絡が入ってきた。小生の素性は知らないが、こちらのことは信頼してくれているお偉いさんである。そのお偉いさんの依頼なので、できるだけのことはしてやりたいとは考え、数日後その未成年カップルホームレスに会った。
どちらも19才だというその未成年カップルは、「妊娠しているかも知れない」という問題も抱えていた。その週の金曜日には、三段目氏が空き部屋があるルームシェア物件に来ることになっていた。前回のように約束をすっぽかしてくれるのでなければ、カップル二人が入れる部屋がない。しょうがないので、小生の築40年超2Kのボロアパート一室に泊めてあげることにした。
未成年を扱うということは、また逮捕されるかも知れないという懸念がつきまとった。それでも今回はカップルだし、小生が悪いことをできる余地は、客観的に見ても少ない。男性の方はそれ程家族関係が悪いわけでもなかったが、女性の方が家族関係が良くなかった。とは言っても、「虐待」と言うには少し足りない感じ。
未成年で保護申請して通る可能性もなくはないが、必ず親族には連絡が行く。その段階で親が出てきて、やぶ蛇になる可能性がある。その他諸々の選択肢とそれぞれの問題点を指摘した上で、10日程考えてもらう事にした。食費他は勿論こちら持ち。
2Kの隣部屋でカップルが寝泊まりするのは、余り良い気持ちはしない。と考えていたら、三段目氏が引っかかっていた女性ボランティアが配慮してくれたのか、三段目に「断り」の連絡を入れてしまった。断られた三段目氏は金曜日にルームシェア物件に来ることは無くなった。それで未成年カップルにはそちらに移ってもらうことにした。
小生としてはどうせ10日程だから、隣にカップルがいるのも我慢しても良かったわけだが。それでも直接的ではないにしろ、三段目氏に断りを入れることになった点は、多少後ろめたさが残った。
(つづく)
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