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三味線の皮作り “名人芸”に迫る! |
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連載「しごと」[4] 働く人の生きざま…
奈良県選定保存技術者・橋本一弘さん
皮を張り終え外で干しているところ。右が橋本一弘さん。左は息子の康広さん |
1.届いた原皮(げんぴ)は冷凍保存される。
2.解凍→大きなポリバケツに入れて水洗い。血抜きをする。毛やシミを抜きやすくするため炭酸ナトリウムを加える。3日程度つける。橋本さんの所では、この炭酸ナトリウム(石けんの原料)以外、薬品を使っていない。しかし「田植えの季節など水が汚れるから流さないでくれ」などと言われることも、しばしばだったという。「農薬の方がよっぽど害があると思いますけどね」と橋本さんは言う。
毛が抜けやすくなるよう薬品につける |
3.毛抜き、シミ抜き。薬品につけた皮を、専用に作られたシミ抜き包丁でこすると、驚くほど簡単に毛が抜ける。しかし、見た目、毛が抜けていても毛穴の中の毛根をしっかり取り除かないといけない。毛根をきれいに除去すると、皮表面には目に見えない凸凹ができる。この凸凹が音色に影響する。三味線本来のいい音色というのは“澄んだ音”ではなく、むしろ微妙に”濁った音色”にあるらしい。この皮表面の凸凹が不規則に共鳴し合い微妙な“濁った音色”が出るのだという。「ツルッとした合成皮革では絶対無理な部分です」と橋本さん。
| 毛と毛根をそぎ落とす。 左にたまっている黒いものが毛 | 筆毛用に白猫の背中の中央5センチ幅の毛を 別に抜き取る。これは「玉毛」といい、薪絵 漆器用の筆として珍重される =染川氏資料 |
4.脱脂工程。刀の刃を落とした「セン」という刃物で皮の脂肪分をしごき出す。力仕事である。ろ過した水につける。再び脂肪分をしごき出す、の繰り返し。
刃物で皮の脂肪分をしごき出す |
5.皮の洗浄。「タイコ」と呼ばれるステンレス製の電動式洗濯器を使う。昔はマキの樽の中で足で踏んで皮を洗ったという。
6.「オンドハコ(温度箱)」で脱脂。4.5.を2回繰り返し3回目に入る前に、電子サーモ式の箱に入れて、しごき残った脂肪成分を除去する。30〜35度の湯に炭酸ナトリウムを入れ2〜3日保温する。湯温を一定に保つため、昔はいろいろ苦労があった。湯を別に沸かし何度もとりかえたり、湯をタドンや練炭で保温した。これらのやり方では夜間もついてなければならないので職人の住み込みが必要だった。
7.3回目、4回目と4.5.を繰り返す。薬品の成分も抜く。
8.水切り、皮の裏の調整。厚みの順に皮を選別。
9.皮張り工程。モミ材の上に浮かし張りする。浮かし張りするのは板のシミがつかないようにするため。皮をバランス良く張っていくために、釘は、ほぼ左右天地対称に打っていく。急激に張りを強くすると皮が破れるので、最初は何度か釘を仮打ちしながら、徐々に張りを強くしていく。皮の無駄な部分は切り取る。
皮張り工程中の橋本康広さん。皮が 左右天地対称になるよう慎重にかつ リズミカルに釘を打ち込んでいく。 皮は一度にピンと張らないで仮打ち を繰り返しながらバランス良く張っ ていく |
三味線の胴の部分の大きさになっている木片を 用いて「この中に乳が4つ入ってなかったらあ かんのです」と説明する橋本一弘さん |
ネコの皮で三味線に使う部分は、だいたい前足の付け根から、ヘソの部分までだ。「ネコというのは普通、乳首が8つあるんですけど、その使う部分の中に乳首が4つ入らないといけない。肩あたりの硬い皮の部分と、乳のまわりの柔らかい部分が共鳴し合って、いい音色になるんですね。これが犬の皮だったら大き過ぎて、硬い部分、柔らかい部分が三味線の胴の中に入り切らない。だから犬皮は練習用にしか使えないんです」と橋本さん。
10.打ち終わった皮は屋内で陰干しする。夏は1日、冬は3〜4日。
11.晴れた日に外で干す。夏は1時間、冬は3時間強。雨に濡れたらシミになって残るので、空模様をにらみながら。困るのが冬場の雪だという。晴れていても風に乗って飛んでくるからだという。それと、もうひとつ、やっかいなのが鳥のフンだ。
12.打ち込んだ釘を抜く。僕もやってみたが、指先の力とコツが必要で簡単に抜けるものではない。また、力まかせに抜いたりすると、せっかくの皮にシワができたり、破ったりすることになる。
13.余分な部分を裁断、用途、等級等によって選別して各三絃師(三味線を組み立て、修理する職人)に届けられる。
橋本さんが「まあまあ」と言った皮。 腹筋の線が入っていた |
ものすごいスピードで釘を抜く職人さん。 この世界40年以上のベテランだ |