何を間違えたのか?民主党エネ政策
<何を間違えたのか?民主のエネ政策>
民主党が政権の座を明け渡したのは昨年12月末の事。
自民・公明連立政権の下、アベノミックス、株価上昇、日銀新総裁誕生…等のあわただしい動きの中で、民主党政権は、ずっとずうっと昔のようにさえ思えます。
マスコミ各社の世論調査でも支持率の低迷、離党者も後を絶たないようです。
その民主党の党大会が2月24日に開かれ、海江田代表が「なぜ失敗したのか。何を間違え、何が足りなかったのか…」と厳しい表情で党員に問いかけたとの記事がありました。
そこで、僭越ながら民主党が何を間違えたのか? エネルギー政策にしぼり私的考察を試みました。
<仙谷氏の本から 原発ゼロの政治論とは?>
一冊の本があります。
民主党の実力者・仙谷由人氏(せんごく よしと)が書き下ろした「エネルギー・原子力大転換」です。
仙谷氏は、本の中で「原発で泥をかぶる」としたうえで、東電福島第一原発事故後のエネルギー問題における民主党政権の内幕を記しています。
本は、民主党いちの現実主義者とも言われている仙谷氏の本領がいかんなく示されています。
最初に即時原発ゼロに対して厳しい見方を示しています。
【今すぐ原発を全部廃炉にせよという極端な感情論は、この国の世論をただ分断するだけで、何ら建設的な議論にならないと考えている。とくに政治家は、現実的な政策をつくり出す責任がある。原発即廃炉と口で言うのは格好いいし、簡単に賛同を得られる。だが、それは政策論ではなく、運動論に過ぎない。】
としたうえで、仙谷氏は政治家としての姿勢を示しています。
【私たち政治家は、現実を踏まえて構想し、判断し、実践しなくてはならない。どんなに世論の反発が強くても、逃げてはならない。】としています。
<原発政策で混乱した民主党>
さて、本は原発問題で混乱する民主党の姿も明らかにしています。
第1章では「菅さんの政治運動論」として、菅氏と仙谷氏の原発ゼロを巡る論争が書かれています。
その中で、野田政権下の菅直人民主党最高顧問について
【菅さんは2025年の原発ゼロを宣言しろと訴える。期限を切れと迫る。私は政権与党として独断にすぎると思った】と記しています。
仙谷氏が
【この問題は、国民生活と産業活動に極めて大きな影響を与える。理念偏重で政治的にきめることではなく、現実的な対応が何より重要だ。原発ゼロの方向性を示すにしても、期限を切って政府の政策を縛るようなことをすべきではない】と述べた事に対し、
菅直人氏は。
【『いや、期限を決めなければダメだ。政治的に決めれば国民はついてくるんだ!』応酬する菅さんの主張はいつも同じだった】としています。
<明らかになった裏付けのない菅内閣のエネ政策>
民主党政権の支持の姿勢を明確にしていた朝日新聞の論調が、最近変化しているように感じられます。
脱原発の視点からのシリーズ「プロメテウスの罠」(4/17)に、OECDの設立50周年記念行事での菅直人首相の演説を巡り、資源エネルギー庁次長の木村雅昭氏と官房副長官の福山哲郎氏(民主党参議院)とが怒鳴り合っていた事を伝えています。
記事には、経済産業省の官僚が「クビになってもいい」「ムードで原発を止めるな」と激しく菅内閣に抵抗した様子が描かれています。
以下、朝日新聞の引用。
【経済産業省は、2010年のエネルギー基本計画で「2030年の再生可能エネルギーの割合は20%」という目標を持っていた。原発事故後、菅はこの基本計画の見直しを明言している。福山は「2030年」という達成時期の前倒しを考えた。福山が振り返る。「あれだけの事故を起しておいて、事故前と変わらないことをいったら、それはおかしいですよ」それで木村に「2020年に20%」とするように求めた。これに木村が反論した「できません。裏付けがありません」。福山が「できないことはないだろう」と言い返す。たがいに机をたたき、激しい言葉が飛ぶ。】
つまり、民主党のエネルギー政策になんら裏付けがなかった事を当時の民主党、官房副長官の福山哲郎氏が自ら明らかにしているのです。
<民主党 原発53%のエネルギー計画>
本当に、おかしな話しです。
菅直人氏も閣僚の一員だった鳩山政権が2010年6月に発表したエネルギー基本計画では、温室効果ガスを25%削減するとし、原発の比率を53%に高めることにしていました。
これは当時(2009年度)の原発比率29%から+24ポイントも原発比率を高めているのです。
再生可能エネルギーの比率は、+12ポイントの21%。
また、民主党政権は経済成長が著しいベトナムなど海外への原発の輸出にも積極的でした。
その民主党が、たとえ原発事故があったにせよ、上記した朝日新聞の記事でも分かるとおり、なんら裏付けもない原発ゼロ政策に急に転換するのです。政権与党としての責任はどこにあるのでしょうか?
<菅直人氏 「原発は非論理的エネルギー」>
総理退陣後の菅直人氏の動きについても仙谷氏は本の中で、東電や経済産業省、原子力安全委員会などのいわゆる“原子力村”への菅直人氏の全否定の姿勢を紹介するとともに、菅氏らが立ち上げた議員連盟「脱原発ロードマップを考える会」の活動について、
【彼らは原子力を「非論理的」なエネルギーとして切り捨てていた。菅さんらは独自に提言をまとめており、そこで打ち出したのが2025年の原発ゼロ目標だった。…2030年断面で比較すると、20%の省エネを実施したうえで、再生可能エネルギーの比率を50%まで高める計算になる。(民主党)政府の原発0%シナリオと比べても、2倍も過酷な節電と15ポイントも多い爆発的な再生可能エネルギーの普及を達成しなければならない。】記しています。
<原発は非論理的か?>
今回の原発事故は、津波も含め安全対策を怠った事を東電自身が認めています。
今後も東電・行政、原発を推進した自民党・社会党(注1)なども含め問題点を厳しく追及し、安全対策をしなければなりません。
しかし、考えてください。
原子力を「非論理的」で「禁断の科学技術」だとする菅直人氏らの「論理」とは、いったい何だろうかと…?
広島や長崎の原爆と平和利用の科学・原子力は別のものと考えるのが、戦後の論理的思考ではなっかったのか。
それでなければ日本で初めてノーベル賞受賞した湯川秀樹博士の中間子論や朝永振一郎博士の量子論、最近では、益川敏英博士の素粒子論…などを全否定する事になります。
また、最新の放射線医療やヒグッス粒子…等の先進科学をどう論理づけるのか?
日本の電源構成比のうち水力発電を除くと再生可能エネルギーは1%(2008年)、それをどうやて48.8ポイントも増やすのか? ちなみに水力を除く現在の再生可能エネルギーの最新比率1.2%。
再生可能エネルギーは、エネルギー密度が薄く、不安定なローカルエネルギーです。
その再生可能エネルギーを50%にして、1億2700万人の先進工業国家・日本のエネルギーの安定供給が可能なのか?
何ら法的根拠がないまま原発を再起動させない“空気を醸成”した民主党の菅直人氏ら。
その結果、火力発電燃料費の大増加。昨年度の貿易赤字8.1兆円。
日本は本当に菅直人氏らが言う2025年原発ゼロ社会まで耐えていけるのか?
その先ある日本の未来とは、ギリシャのように財政破綻で、公務員や会社員の大リストラ。賃金・年金の大幅削減。若者の二人に一人が失業者…という社会になるのでは…との想像力は、普通の論理的思考があれば誰にでもできると思えるのです。
<エネルギー政策を選挙運動とした民主党?>
「原発は禁断の科学技術」と繰り返す菅直人氏の行動について…
【「政府の提言だからこそ、原発ゼロの時期を明示すべきだ。期限を切らなければ脱原発は実現しない。“決められない民主党”では選挙も戦えないぞ!」選挙――。このひと言が、エネルギー環境調査会における菅さんの発言に一定の呪縛力を与えたことは否定できない。つまり、その主張は政策である以前に政治運動論なのだ。】と仙谷氏は記しています。
仙谷氏は著書の中で、一貫して菅直人氏を中心とした脱原発政策を選挙対策としての政治運動だと批判しています。
さらに、原発の稼働ゼロを期限を決めるのは無責任すぎるとしたうえで。
【野党の政治運動ならともかく、政権与党の現実的な政策になっていないのだ。】と批判しています。
<エネルギー戦略は国家百年の計>
エネルギー政策は、まさに“国家百年の計”であるべき国家戦略そのものです。
かって、日本が太平洋戦争に突入する大きな要因は、“ABCD包囲網”=アメリカ、イギリス、中国、オランダの4か国の対日戦略と日本への“アメリカの対日石油輸出禁止”で、日本のエネルギー戦略の破綻が目に見えていたからです。
中村隆英著「昭和史」からの引用です。
【軍部によれば、アメリカ、イギリス、オランダの経済封鎖のもとにあっては、物質の欠乏が次第に激しくなり、とくに石油については、極度の規制を行っても、二年ほどのうちに日本海軍はその機能を喪失するであろう、開戦するならば今よりほかに機会はないというのであった。…即時開戦して、南方、とくにスマトラ、ボルネオ等の油田を確保する以外に対策はないとされたのである。】
反原発派の皆さんが声だかに訴える「子どもの命が大事だ!!」そのとおりです。
1941年12月の真珠湾攻撃…その結果、兵士をはじめ民間人、子どもをも含め250万人以上の日本人が亡くなっていると推定されているです。
<仙谷氏 遠望する眼差しとプラグマティズム>
こうした国家戦略としてのエネルギー政策について仙谷氏は
【エネルギー問題は、変動する構成要素が重層的、波状的に関連しており先行きを見通すのがきわめて困難なことだ。われわれが一時のセンチメントで原発ゼロを決めるのは、将来世代に対して僭越なのである。】と冒頭の章のまとめとしています。
また、前記したように、
仙谷氏は「遠望する眼差しとプラグマティズム」として、
【政治家は、現実を踏まえて構想し、判断し、実践しなくてはならない。どんなに世論の反発が強くても、逃げてはならない。】としています。
裏を返せば「選挙対策として、現実を無視したエネルギー政策」や「物事を冷静に判断できず、次々とテーマを変え、怒鳴りちらす政治家」では、将来の国民が困るのだ…という声が暮れの選挙結果として表れたと思うのです。
民主党の海江田代表が「なぜ失敗したのか。何を間違え、何が足りなかったのか…」と党員に問いかける前に、仙谷由人氏の本の中にある「総理のちゃぶ台返し」や「国会での男泣き」の真相を国民へ答えてください。
貿易収支の大赤字、さらなる企業の海外移転、地方経済の疲弊の進展…等の日本破綻への“負の連鎖”が始まったか?…と民主党政権下で多くの国民が感じました。
野党となった今こそ民主党代表 海江田氏が真実を述べる責務があるのです。
2013年4月20日、追記5月13日
注1)1955年12月の国会で、自民党と社会党は「原子力基本法」の賛成演説を行ったうえ、多数で可決成立させた。
追伸
次回も、民主党の仙谷由人氏が書き下ろした「エネルギー・原子力大転換」を基本に、民主党の経済政策や政治主導・・・等について考えてみます。
また、
菅直人内閣の原発事故対応について米国が「東電まかせにしている」「われわれが関与すれば違った結果になった」とする実態や各種の原発事故調査が指摘している「官邸の過剰介入」「人災」についても、日本政府は今後、徹底的に明らかにする必要があります。
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