書店をゆく

武雄市図書館という名の衝撃~図書館が創る未来~《書店をゆく番外編》

Posted on 2013-07-05

インターを降りると、田園風景が広がりました。

四方を山に囲まれた盆地で、人口は5万人程度のどこにでもある地方の小さな街です。

ところが、この街は近頃、何かとマスコミを賑わせております。

 

佐賀県武雄市。

 

その日は日曜日で、日本中どこでも一緒でしょうが、パチンコ屋だけは駐車場がいっぱいになっておりました。

ところが、この街にはそれ以上に車が満ちている場所がありました。まるで新しいショッピングモールのように、あるいは人気のテーマパークのように、その場所は車でいっぱいでした。

警備員さんが入り口に出て、申し訳なさそうに「満車」と赤字で書かれたプラカードを掲げていました。

 

その場所こそが、今話題の中心になっている武雄市図書館でした。

 

 

図書館の駐車場は決して狭くはありません。図書館の前だけでなく、山側の奥にも第二駐車場があるのですが、午前中に行ったというのにそこも満車でした。地方の図書館にこんなに車が押し寄せているのを見たことがなかったので、僕はある意味カルチャーショックを受けました。

 

「仕方ないので、となりのショッピングセンターの駐車場に停めましょう」

 

運転してくれた、CCC(カルチャーコンビニエンスクラブ*TSUTAYAさんの本部)九州オフィスの今須勝地さんが言います。

今須さんとは、書店の未来を良くしていこうと語り合う盟友で、これまで一緒に様々な仕掛けをやらせて頂いており、九州に来るのならぜひ武雄市図書館を見てもらいたい、と言って頂き、案内してもらったのでございます。

となりのショッピングセンターに行っても、1Fは車がいっぱいで、屋上の端っこにようやく駐車スペースを見つけました。

それで僕と今須さん、そしてオープン後に天狼院に合流予定のSさんと一緒に、「ピンクの入口」と書かれた、何やら怪しげな文字通りピンク色の入口からショッピングセンターに入ったのでした。

こうやって、ショッピングセンターに車を停めて図書館に行く人は、何も、僕らだけではなかったようでした。結構多くの人がショッピングセンターから武雄市図書館の方へ、道路を渡っていました。

 

 

背後に水墨画のような山々を擁する素敵なロケーションに、図書館は建てられていました。

上の写真、わかりますでしょうか、入り口のベンチでは、おそらくこの近所の人たちが集まっていて、とても和やかに談笑しているのです。もしかして、この方々にとっては、集会所みたいな機能になっているのかも知れません。まさに図書館がコミュニティセンターの役割を果たしている。

ちなみに、駐車場のナンバーを見ると、佐賀県が圧倒的に多いのは間違いないのですが、その他にも福岡、熊本、岐阜ナンバーがあり、あげくは山形ナンバーまでありました。

もしかして、入り口で談笑している方々は、「今日はどこから来たんだろうね」と来る人を観察して楽しんでいたのかも知れません。

中に入って、また唖然としました。

整然としていて、また人がいっぱいなのに、不思議とうるさくないのです。あれだけ人がいるのに、思えば、うるさかったという印象はありませんでした。

入ってすぐ、右手にスターバックスがあり、ここは常時5,6人が列を作っていました。その奥に喫茶スペースがあるのですが、受験生とおぼしきは勉強をし、またカップルはデートをしている様子で、とても和やかな空間でした。

また、入り口はいるとすぐに、本の販売スペースがあって、ここには雑誌を中心とした本が並べられています。

ビジネス書のコーナーの結構いい場所に、僕が編集協力で関わった『僕たちはアイデアひとつで未来を変えていく。』島田始著(アスコム)が平積みされてあり、密かに、感動!

また、販売のコーナーの雑誌から、貸出コーナーへと自然な導線が引かれていました。たとえば、旅の雑誌販売コーナーから、旅の貸出コーナーへと自然に移れるようになっている。しかも、貸出コーナーの本の棚はどこかで見た作りになっている。どこだろうと思って、はっと思い出します。

 

「あ、ここ、代官山TSUTAYAさんに似てますね」

「そうなんです。あそこのいいところをこっちに持ってきているんです」

と今須さん。

 

児童書のコーナーはちびっ子たちが遊べるようになっていて、その広い窓からは、山々を中心とした武雄市の大自然が眺められるようになっています。

 

「なんと贅沢な!」

 

もし、僕に子どもがいれば、できるだけ多くの時間をここに連れてこようと思うはずです。知的な充足だけでなく、情緒的にも豊かな子どもに育つだろうと思いました。

この図書館、近くにあったら通い詰めるだろうと思い、通うにはもうひとつ条件が必要だと考え、まさかな、と思いつつも今須さんにこう聞きました。

 

「まさか、仕事できるスペースないですよね?」

「あ、ありますよ。二階にカウンター席になっていて、そこではWi-Fiも使えて、しかもコンセントも席についています」

 

実際に行ってみると今須さんの言ってたとおりでした。

ビジネス書の棚があって、その前がカウンター席になっており、そこから一階部分を一望出来ます。そこにはちょうどスタバのカウンター席の様に席にコンセントがついているのです。実際にMacBook Airを持ち込んで仕事をしている若い人もいました。

衝撃でした。

こう言ってはなんですが、こんな田舎にこんなスペースが存在して、実際にそのスペースを活用している人がいるとは思ってもみなかったのです。

蔵書は20万冊ほどということで、それは当然県立図書館などにはかなわないでしょうけれども、5万人規模の街としては十分過ぎるくらいの量かと思います。

また、不思議だったのが、この図書館に来ている人の多くが、オシャレな装いをしているのです。ジャージなどでふらりと来ているという人はほとんど見かけず、よそ行きの服で来ている人がほとんどのように見受けられました。

それに、若いカップルが多いことにもびっくりしました。

図書館にいたるスロープを、手をつないで歩いて行く若い男女が、数多くいたのです。

 

「これはすごいものを作りましたね」

 

僕は半ば呆然としてこの信じられないような光景を見つめながら、気づけばそう言っていました。

 

「天狼院書店を作る前に、三浦さんにはぜひ、ここを見てもらいかったのです」

 

と、今須さんは言います。

今須さんの仰るとおり、とてつもなく勉強になりました。

まさに、百聞は一見に如かず。

間違いなく言えることは、この新しい可能性を多分に詰め込まれた場所は、地元の人に愛されているということです。必要とされているということです。

駐車場がいっぱいになるくらい人が来たいと思う場所であり、若いカップルがデートをしたいと思うような場所であり、若い夫婦がこの近くで子どもを育てたいと思う場所である。

実際に、近くに武雄市図書館があれば、まちがいなく僕は通い詰めることでしょう。そして、ここでなら、子どもを育ててもいいと思うかも知れません。それはきっと僕だけでなく、この図書館があるのなら、と福岡や大阪、東京からUターンしてくる若い世代も、あるいは増えるかも知れません。

この街で育った子どもたちは、きっと情緒豊かで、本が好きな人に育つのではないかと夢想しました。

 

実に、刺激的な体験をさせて頂きました。

ご案内頂いた今須さんに改めて感謝します。

 

ちなみに、僕らは隣のショッピングセンターに車を停めたのですが、自然にそこで食事をすることになりました。まちがいなく、この場所は波及効果を得ているだろうと思いました。

図書館による街の活性化。

このパッケージが全国に急速に広がっていくのではないかと思いました。

それはまたすばらしいことだと僕は思いました。

 

それはきっと、天狼院書店と競合するものではなく、むしろ相乗効果として機能するのではないかと思いました。

天狼院が掲げる「READING LIFE」とこの図書館は、理念の部分で通底するところが多いからです。つまり、共同戦線を張れるだろうと思ったのでございます。

 

九州に行った際は、ぜひ、行ってみてください。近くに温泉もあるようなので、観光スポットとして行ってみるのもいいかも知れません。

 

 


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