2013-07-05
■[捜査][報道]「書類送検」と「書類送付」
「毎日新聞社長ら書類送付」(http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020801000544.html)の件で各紙*1がなぜ「書類送付」という見出し・本文で記事にしたのか。
警察は、捜査した事件を全部検察へ送らないといけません。この「検察へ送る」ことを、刑訴法246条では「送致」と記載してます。その例外として、「この法律に特別の定のある場合」と「検察官が指定した事件」があるとされています。
「特別の定」とは、(1)被疑者を逮捕した場合(203条他)と、(2)告訴・告発を受理した場合(242条)。
(1)は時間制限が発生(逮捕から48時間以内というやつです)。(2)は「捜査後」じゃなくて「受理後」。いずれも「原則よりもっと早く検察へ送れ」という趣旨。
一方、「検察官が指定した事件」とは、微罪処分のこと。詳細知りたい人はまずはWikipediaを。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%AE%E7%BD%AA%E5%87%A6%E5%88%86
以上が枠組の説明。で本題。なんで毎日新聞社長らについては「書類送検」ではなく「書類送付」と書いたか。
これは、飯島元秘書官が「発言を毎日に捏造された」といって告訴した件の処理でした。告訴を受理した場合の242条に基づく手続。
246条では「送致」なのに、242条は「送付」と、条文上の用語が書き分けられてます。
そして、刑訴法の本では246条の「送致」について「送検とも呼ぶ」なんて説明もされている。
これが、「書類送検」ではなく「書類を送付」という表現を採用したことの形式上の根拠のひとつになるのでしょう。
そして、「書類送検」の語を避けた実質的な理由は、「記事に書かれた事実が虚偽だと判明したとしても、新聞社の社長個人が名誉毀損罪で起訴され有罪とされることはまずありえない」と各紙が考えたから。
だから、「これはあくまで形式的に事件記録が警察から検察に引き継がれるだけで、告訴で名指しされた社長らが犯罪者にされちゃうわけじゃないんだよ」と強調したかった。
それ以外の合理的な説明は困難でしょう。
ただし、「同業者の社長」だから配慮・擁護したんだろうという見方は必ずしも正しくないかもしれない。そういう側面もあるとは疑えるけれども、他にも「書類送付」という報道例はあるので。
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/f-et-tp0-20111109-861093.html
サッポロビール社長(傷害で告訴):
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009111301000968.html
以上がマスコミ側の考え方(の推測)。
でもこれらはいずれも「毎日新聞社長ら」や叶恭子実妹やサッポロ社長らだけを特別扱いして「書類送検」と書かない根拠として正当なものではない。というのが私見。
なんでか。まず第一に、「送付」と「送検」の区別はマスコミが勝手にやってるだけ。そもそも「送検」「書類送検」の語は条文上の用語ではないし、242条の「送付」と246上の「送致」は実質的に同じ意味。刑訴法のどの本にもそう書いてあるはず。
第二。検察へ送るタイミングの区別も告訴の有無で違わない。条文上は告訴・告発を受けた場合は「捜査後」じゃなく「受理後」に検察へ送ることとなってるけど、実際は警察で捜査してから検察へ「送付」してる。何ら変わりない。
条文の趣旨どおりに告訴状受理後すぐに検察へ「送付」してる例もあるのかもしれませんが、少なくとも本件では捜査を一通り終えてから検察へ送付したと記事に書かれてます。
第三。「告訴」なら「書類を送付」と一貫してるわけじゃない。むしろ例外。「告訴」に基づいて捜査された後に検察に送られた事件について、「送付」と「送検」を区別してるのは毎日新聞の件以外には上記の叶恭子実妹とサッポロ社長の例くらいしかgoogleではヒットしない。
一方、「告訴 書類送検」でニュース検索すれば、普通に告訴に基づいて捜査された後に検察に送られたことを「書類送検」と書いてる記事を山ほど読めます。
第四。「書類送検」と報じられてその後不起訴になった人たちの名誉回復をどう考えてるわけ?ということ。これが、逮捕時実名報道とも共通の「司法判断より先走って推定有罪の印象を与え社会的制裁を与えること」への無自覚さの問題です。
「告訴されはしたが、起訴され有罪となる見込みの特に低い場合」*2だけを選別して「書類を形式的に検察へ送付するだけ」とあえて強調して報じる一方で、他の「書類送検」報道では、起訴不起訴の見込みがどうかとか一切掘り下げず、警察発表をただコピペしただけのような記事を大量に生産している。
「書類送検」された被疑者がその後不起訴で終わった場合にきちんと名誉回復するための報道、してる?
「書類送検」と報じただけでは名誉が害されてないともし言い張るならば、報道当事、「書類送検されたというだけでは有罪見込みかどうか全然分からないんですよ」という、推定有罪印象を回避・阻止するための配慮、してる?
してないでしょ全然?
だから私はいつもボヤいてるんです。
書類送検段階で報道するのは害のほうが大きいんだから扱うなよ、と。
報道したいなら、「書類送検」について誤解を招かないように、すでに広まってる誤解・誤印象を解消するための努力をしろよ、と。
なお、毎日新聞社長らの件について、通常通り「書類送検」と報じていた新聞もありました。中日新聞・東京新聞と、地方紙数紙。脚注1で言及した陰の協力者さんからの情報提供です(再度感謝)。
「えこひいきはしなかった」という点では評価できるかもしれませんが、「そもそも他の事件であっても書類送検段階で報じる意義があるのか」という反省がまったくないという点では「だからなに」程度という見方もあるでしょう。
それから、五大紙のうち、日経と毎日自身は、少なくとも2010年2月8日当日中と、2月9日朝刊までに「毎日社長ら書類送検/送付」の件を報じてません。
日経は、出遅れたのか報道価値がないと判断したのか不明ですが、毎日新聞の姿勢は強く非難されるべきでしょう。
自社社員・役員絡みの不祥事について報じない、後からこそっと出す、という不誠実な対応は、他紙でも珍しいことではありません。何らかの法的な措置が必要ではないのかと思っていますが、それはまた別の話。