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ここに注目! 「米移民法案の行方」2013年07月05日 (金)
出石 直 解説委員
オバマ大統領が2期目の最重要課題のひとつに掲げている移民制度改革法案が、先日、議会上院で可決され、近く下院での審議が始まります。移民法案の行方について出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。
Q1、移民法案がなぜ今、そんなに注目されているのですか?
A1、アメリカには秘かに国境を越えてそのまま居座っている不法移民やその子供達が合わせて1100万人いると言われています。そのほとんどは「ヒスパニック」と呼ばれるメキシコやカリブ海諸国などからの入国者です。税金も払っていませんし、英語を話せない人も少なくありません。改革法案は、国境監視を強化する一方で、こうした人達が当局に出頭し、罰金を支払って、英語を勉強し犯罪歴もなければ、まずは永住権=グリーンカードを与え、やがては市民権、つまりアメリカ国民として迎え入れようというものです。
ちゃんとした職場で働きたくても働けない、学校にも満足に行けないという人達を救うという意味で、ドリーム・アクト=「夢の法律」とも呼ばれているのです。
Q2、オバマ大統領のお父さんも確かアフリカ生まれでしたよね。
A2、ケニアからの留学生でした。アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏のお父さんはシリア人です。アメリカは、移民によって作られ、移民によって成長してきた国です。
オバマ大統領は「移民はアメリカを強く豊かにする」として、不法移民を受け入れる移民制度改革の必要を訴えているのです。
Q3、これから下院での審議が始まるということですが、法案が成立する見通しは?
A3、移民改革には、野党共和党の一部、とりわけ保守派が強く反対しています。法を犯した人達を受け入れてしまうと不法な越境者が増える、社会保障などの負担も増すという理由です。下院は共和党が多数を占めていますので、成立は難しいのではないかという見方もあります。ただヒスパニック人口は、これからもどんどん増え続け、白人人口に迫る勢いです。
去年の大統領選挙ではヒスパニックの7割以上がオバマ大統領に投票するなど、アメリカ政治の行方を大きく左右する存在になってきています。このため共和党内にも政権を奪還するためにはヒスパニックの支持を獲得する必要があるという意見もあります。2016年の大統領選挙に向けて、国論を二分する議論が続きそうです。