もんじゅ君の「ズバリ聞きますだよ!」第3回:城南信金さん、「金融機関として審査すると、原発は不良債権」ってホントですか?前編
福島第一原発事故にショックを受けて、2011年5月、突如ツイッター上に現れたもんじゅ君。福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅの「非公式」ゆるキャラながら、フォロワー数は約10万人、エネルギー問題を解説した著書も3冊あるなど、幅広い支持を得ている「炉」のキャラクターです。このもんじゅ君が、各界の著名人にエネルギー問題についての考えや東日本大震災以降の活動について聞く、シリーズインタビュー。
第3回のゲストは、福島第一原発事故の直後に「脱原発宣言」をうちだした城南信用金庫の理事長・吉原毅氏。金融機関としての立場から、なぜ原発は経済的に成り立たないのか?いけないとわかっていても原発をつづけてしまう「株式会社」、そして「お金」の麻薬的なカラクリとはなんなのか?などを、ズバリ解説していただきます。アダム・スミスからアベノミクスまで、トークは幅広く盛り上がりました。
城南信金のキャラクター「信ちゃん」と。 写真一覧
ゲスト: 吉原毅(城南信用金庫・理事長)
インタビュー・構成: もんじゅ君(高速増殖炉)
震災後の4月1日、企業サイトに「原発に頼らない社会へ」と打ち出した
もんじゅ:はじめまして。城南信用金庫さんは「脱原発」ということをはやくからおっしゃっています。金融機関でそういう社会的なメッセージを出されているところってめずらしいですよね。ボクはエネルギーについての本を何冊か出していて、その印税の振込のために口座をひらいたんです。吉原:ああ、それはどうもありがとうございます。そういってくださるお客様がいるとうれしいですね。
もんじゅ:ほんとに、東日本大震災が起こってすぐの段階で、「脱原発でやっていく」という方向性をおおきく打ち出しましたよね。
吉原:そうですね。4月1日のウェブサイトから変えました。
もんじゅ:はやいですよね。いまも城南信用金庫のサイトをみると、トップページに「原発に頼らない社会へ」という言葉が出ています。事故の発生直後というタイミングだと、あのころって原発に「反対・賛成」どころか「あぶない」ということさえ口にするのがはばかられる雰囲気だった気がします。
吉原:うーん。そうかもしれませんね。
もんじゅ:そういう、いいづらい空気の中で脱原発宣言を出されたわけです。事前に社内で反論が出たりはしませんでしたか?
吉原:いやいや。それはもう、信用金庫というのは社会のためにあるものですからね。原発は社会のためにならない。じゃあ反対するのは当然じゃありませんか。
ちょうど2010年11月10日に、わたしは城南信用金庫のトップになったんです。そのとき、「企業は、金もうけではなく社会貢献のためにあるんだ」という、そもそもの信用金庫のありかたに戻ろうと考えました。「原点回帰」です。
もんじゅ:震災のわずか4か月前に、理事長職に就かれたばかりだったんですね。
吉原:そうです。そして2011年3月11日に東日本大震災が起きました。このとき、その「社会貢献のため」という方針に基づいてなにができるのか?と考えたんです。
信用金庫は営業地域が狭いですから、もしかすると、「東北で地震が起きたことは関係ない。この東京・神奈川で仕事をしていればいい」という考えかたもできるかもしれません。でもそれは、社会貢献を目標とする企業としておかしいんじゃないか、と思ったんですよ。東日本大震災にたいして、社会貢献企業としてなんらかの社会的な役割を果たすべきだろう、と。
もんじゅ:「社会貢献」を原点として考えたわけですね。
CSR(企業の社会的責任)としての脱原発
吉原:企業の社会的貢献のことを「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」とよびますよね。震災前、そういった社会的責任を果たすのが企業の役割であるということを、各企業がしきりにいっていました。もんじゅ:たしかに、2000年代に入ってから「CSR」という言葉はとてもよく聞くようになっていました。
吉原:わたしとしては、この会社のルーツから考えても、いま企業がCSRを重視しているという状況から考えても、いまおこなうべきCSRは原発事故から地域をまもることだと思ったんです。
もんじゅ:CSRとしての脱原発、なんですね。
吉原:ところが、この事故を起こした政府や、マスコミ、学会の方々は「原発を止めるわけにはいかない」というんですよ。「それはおかしいでしょ」と思うわけです。城南信用金庫のある東京と神奈川にも、2011年3月15日には大量の放射能がとどきました。水道水が飲めないという状況も発生しました。
もんじゅ:そうですね。関東地方では3月20日からの雨によって、上空のプルームのなかにあった放射性物質が地面に落とされたといわれています。3月23日に東京都が「水道水を乳児に飲ませないで」と発表して、そのあとはミネラルウォーターが品切れになったり、飲食店が「当店は水道水で調理しています」と店頭に貼りだして対応したりと、おおきな影響が出ました。
「電気が足りないなら」とはじめた節電キャンペーン
吉原:そうなんです。われわれも被曝をしてしまった、飲み水さえない、という状況になっているにもかかわらず、政府が打ち出したのは「原発は止められない」という方針だったんですよ。これにはぞっとしました。「どうしてですか?」ときくと「だって、原発を止めたら電気が足りなくなるから」。でも、それはほんとうなのか? それに、電気が足りないというだけの理由で原発を止められなくて、これからも事故が起こる危険性を放置するなんて、ちょっと考えられません。
だったら、企業としていまやるべきことはなにか?と考えたんです。原発を止めると電気が足りなくなるというんだから、それならと「節電キャンペーン」をおこないました。節電することで原発を止めましょう、と社会に訴えることが、いま企業としてやるべきことなんじゃないか、と思ったんです。
もんじゅ:いまもそうですが、当時はしきりに「原発を止めると電気が足りない」ということがいわれていました。足りないことが理由なら、足りるようにすればすむはずなんですよね。
吉原:そうです。そこで、4月1日に、「福島第一原発の事故は、我が国の将来に重大な影響をあたえています。いまわたしたちにできることは、節電をして、原子力に頼らない社会をつくることです。そのために企業としてできることはなんでもします。ぜひ、みなさんもいっしょにやっていきましょう」というメッセージをウェブサイトで発表しました。
企業だからこそ実行できる、「自家発電」というアイディア
もんじゅ:なるほど。最初のメッセージを出すときに、すでに節電もいっしょに掲げていたんですね。具体的にいろんな節電のアイディアを実行されたと思うんですが、いくつか教えていただけませんか。吉原:ひとつには、まず「自家発電」ですね。
もんじゅ:自分のところで電気をつくっちゃおう、ということですか。
吉原:企業は自家発電設備をいくらでももっていますから。この城南信用金庫本店にだって、巨大な発電設備があります。事務センターにだって、ボイラーがあって、エンジンがあって、何日間も使えるだけの重油が置いてあるんですよ。必要なときにそれらを使っていけば、電気が足りなくなるということはないでしょう。自家発電設備は、おおきな工場ならどこも持っています。
もんじゅ:おおきなビルでも、自家発は備えていますよね。
吉原:そうです。ほかにも休止している火力発電だっていくらでもあるはずだし、将来的にみれば、太陽光だって、風力だって、いくらでもあるということはよのなかの常識じゃないですか。それをやっていくために、いますぐ原発を止めて、それと同時に、将来にむけて企業として発電設備をつくるべきだと思うんですよ。
家電や空調をあたらしくすることで、おおきく節電できる
吉原:それから、「設備の更新」というのも、節電のためのおおきなポイントですね。ビルの空調装置だって20年経っているものをとりかえると、必要な電力はだいたい4分の1ぐらいに減るんです。もんじゅ:4分の1! そんなに変わるんですか?
吉原:そうなんですよ。一般家庭の冷蔵庫だって、5年前のものとくらべると、半分ぐらいになっている。だから、冷蔵庫を買い替えましょう、クーラーを買い替えましょう、企業だったらビルの空調設備を替えていきましょう、ということもいいました。
もんじゅ:家電の買い替えなら、ふつうの人にもできますね。
吉原:そういったことを具体的に提案していくのが、じっさいに経済を動かしている企業としての社会貢献のありかただと思うんです。
もんじゅ:節電ってきくと、苦しいイメージがあるじゃないですか。これは2011年の春から夏にかけて「ガマンしよう、がんばろう」というトーンの節電キャンペーンがマスメディアによって繰り返されたせいだと思うんですが、そうじゃなくて快適に暮らしながら、節電することはできるはずですよね。家電の買い替えなんかは初期コストはかかってしまうけれど、電気代というかたちで返ってくるし。
「脱原発」であとにつづく企業がほとんどいなかったのは、想定外だった(苦笑)
吉原:われわれは信用金庫を長年やっているわけで、いわば「会計のプロ」です。そこで採算性を考えたうえで、原発にたよらない、安心できる社会を提言していくことが、企業としてのとうぜんの立場じゃないか、というところからスタートしたんですよ。もんじゅ:2011年には「原発をやめると経済が止まる」みたいな話もききました。でも、採算を考えたうえでやめたほうがいいよ、っていうことなんですね。
吉原:そうです。で、そのころ(震災直後)は、どの企業もおなじことを思うはずだし、遅かれ早かれ、みんなその方向で動くんだろうと思っていたんですよ。だから、震災が起きてすぐに「脱原発でやっていく」という方向性を打ち出したのは、わたしどもにとってはあたりまえのことだったんです。でも意外なことに、賛同してくださる企業がほとんどなかった(苦笑)。
もんじゅ:そのあとに続く企業さんがあまりいなかった……。
吉原:正直、びっくりしました。わたしたちは信用金庫で、地域の方々とお話しする機会があります。お母さま、おばあちゃま、幼稚園の先生といった、こどもたちを持つ方々は原発事故をすごく心配しているんですよ。こどもの将来を考えている人達からすれば、あたりまえでしょう。
地域のお母さん・おばあちゃん・幼稚園の先生は、原発事故をすごく心配している
もんじゅ:お子さんのいる方にとっては、原発事故は他人事じゃなくて、自分の問題なわけですよね。すでに、自分のこどもの健康とか未来にふりかかってきているわけだから。吉原:国民の将来を考えることが国民の義務だとしますよね。そしたら、企業というのも法人という1つの人格をもった存在なわけですから、理想があったり、方針があったり、義務があったりするはずなんです。だから、それにもとづいて行動するのが当然じゃないでしょうか。
でもあのとき、ほとんどの大企業が反応しなかった。なにかしらのメッセージを打ち出したのは、楽天さん、ソフトバンクさん、スズキ自動車さん、東京新聞さん、鈴廣かまぼこさん……くらいでしょうか。企業経営者としてショックをうけましたし、ここまで大企業というのは堕落したのかな、と愕然としましたね。
もんじゅ:堕落というと、ちょっと厳しいことばですが。
吉原:いや、だってそれまでみんな「CSR、CSR」と口々にいっていたのに、それはみんな嘘だったんだぜ……という話ですよね。上場している株式会社というのは、こういう性格なのか、と思いました。じゃあ信用金庫であるわたしどもがせめて、見本を示しつづけることが大事なんじゃないか、と考えるようになったんです。
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