エジプトで初めて民主選挙による政権が生まれて、わずか1年。民衆デモのうねりに乗じた軍が実権を奪い返し、ムルシ政権はあっけなく退場した。独裁からの夜明けを象徴した民主体制[記事全文]
参院選が公示された。論戦の中心は安倍政権の経済政策、アベノミクスだ。与党が円高の是正や株価の上昇、企業業績の好転を背景に、その「実績」を強調するの[記事全文]
エジプトで初めて民主選挙による政権が生まれて、わずか1年。民衆デモのうねりに乗じた軍が実権を奪い返し、ムルシ政権はあっけなく退場した。
独裁からの夜明けを象徴した民主体制が軍の強権で白紙に戻ったことは、実に嘆かわしい。アラブの盟主を自負する大国が模索する新生国家への道のりの険しさをものがたる。
軍は、昨年制定された新憲法を停止した。大統領と、その出身母体のムスリム同胞団の幹部ら多数を拘束し、最高憲法裁判所に暫定政権をゆだねた。
自らが政権につかないからクーデターではない、と軍は主張している。だが、公正な手続きで選ばれた文民政権を軍の一存で排除したことは、正統性を欠く行為といわざるをえない。
一方、ムルシ政権には世論の逆風があったことも事実だ。全土に広がった反政権デモは、独裁の打倒をめざした2年前をも上回る規模に達していた。
怒りの矛先は主に経済の失政だ。石油関連と観光に頼る細い収入源と、慢性的な財政赤字。それは独裁時代から続く構造的な難題で、経験乏しい親イスラム政権には荷が重すぎた。
急速に育つ中間層の若者らが満足できる雇用環境もない。物価の高騰や福祉切り下げなどへの怒りと合わさって、反政府の街頭行動が盛り上がる現象は、ブラジルなどでもみられる。
どの政府も国民との広い対話でしか道は開けないのだが、ムルシ政権は違った。軍や世俗派を遠ざけ、大統領の権限を司法チェックの届かない大権に強めようとする独尊ぶりがめだち、国民を統合できなかった。
軍は、失望した世論の風を読んで自らの復権に動いた。しかし、もし軍が旧体制への回帰に向かうなら、民衆は再び街頭を埋めるだろう。反政権デモは、実感できる民主革命の果実に飢えているのは間違いない。
ムスリム同胞団は反発を強めている。何よりも避けねばならないのは、国を二分する内乱に発展して、大量流血に陥る事態だ。エジプトの不安定化は中東全体の流動化に直結し、世界経済にも打撃となる。
今回の事態は、あくまで混乱をしずめるための応急措置とすべきだ。軍は、改めてムスリム同胞団を交えた真の国民対話を進め、国を束ねられる政権づくりを急がねばならない。
米欧は注視の姿勢にとどまっている。エジプトの変革は、できるだけ外国の介入を控えることが賢明だ。アラブの伝統国の歴史のページをめくる主役は、自分自身でしかない。
参院選が公示された。
論戦の中心は安倍政権の経済政策、アベノミクスだ。
与党が円高の是正や株価の上昇、企業業績の好転を背景に、その「実績」を強調するのに対し、野党は食料品の値上がりといった国民生活への副作用を批判する。
こうした舌戦はもちろん大切だ。しかし、私たち有権者は政治家が語りたがらないことに目を向ける必要がある。
膨らみ続ける借金にどう歯止めをかけ、将来世代へのつけ回しを改めていくか、という問題である。
財政再建をめぐっては昨年、民主党政権と野党だった自民、公明両党が「社会保障と税の一体改革」を成立させ、2段階の消費増税を決めた。
だが、国の借金総額は国内総生産(GDP)の2倍、1千兆円を超えて、なお増え続ける。消費増税で事足れりという甘い状況にはない。
経済成長による税収増に、増税を中心とする負担増と、歳出の削減をあわせた「3本の矢」こそが必要だ。
そうした苦い薬を示して、初めて責任ある政党と言えるはずだが、安倍政権は、今後の財政収支の見通しや再建計画づくりを参院選後の8月に先送りし、「消費増税の可否は秋に判断する」と繰り返す。
自民党の公約には、「一体改革」や「消費増税」が出てこない。一方で、国土強靱(きょうじん)化の推進や交通ネットワークの整備、農業分野の公共事業など、歳出増につながる項目が並ぶ。
アベノミクスも、3本柱のうち「異次元の金融緩和」と大型の財政出動は、痛みを先送りする政策でもある。核となるべき成長戦略が既得権層への切り込み不足のままなら、財政赤字を拡大させただけで終わり、となりかねない。
負担増に口をつぐむのは、野党も同じだ。民主党は財政健全化責任法の制定をうたったものの、社会保障など個々の政策では「充実」や「引き上げ」が目立ち、本気度に疑問符がつく。
他の党の大半は消費増税への反対を叫び、どう財政を再建するのか、説得力のある対案を示せていない。
経済の活性化と負担増の両立は確かに難しい。だが、持続可能な社会をつくるために、ギリギリの経済運営を迫られているのがいまの日本だ。
負担増を嫌い、給付充実を訴える政党の姿は、私たち自身の写し鏡でもある。
将来世代への責任という視点を忘れないようにしたい。