- まずは、在校生のお二人にお話を伺います。学部4年生と修士課程1年生というお二人ですが、いまの研究内容をお話しいただけますか。
- 小柴 |
- デジタル信号処理が専門の研究室に所属しているのですが、私はセキュリティの認証技術について学んでいます。中でも、筆跡データの解析が主な研究対象です。筆圧、形状などのデータベースをつくって、本人確認の精度を上げるための技術の開発研究をしています。
- 小林 |
- 僕は画像について研究しています。特に画質の評価についてです。デジタル画像はさまざまな形式で圧縮されていますが、人の眼の判断とコンピュータの判断には、誤差があるんです。そこを埋め合わせていくための研究です。
- お二人はどうしてその分野の研究を選ばれたのでしょうか。
- 小柴 |
- 変わっているのかも知れませんが、高校生の頃からセキュリティに関心があったんですよね(笑)。だから、理想の研究室に入れたと思っています。実際に研究を進めてみると、なかなか思い通りのデータが集まらなくて苦労していますが、今後、大学院に進学して研究をさらに進めていく予定です。
- 小林 |
- 僕は高校生当時からそこまで絞り込んではいませんでしたが、携帯電話とかコンピュータとか、身の回りのものがものすごいスピードで進化していたので、それらに関わることを学びたいという気持ちは持っていました。
- 小柴 |
- 大学に入ってから3年生までの期間は試験やレポートが多く、勉強で忙しかったので、ようやくセキュリティの研究ができるようになったというのが素直な実感です。
- 小林 |
- 理科大って、そういう面では基礎をしっかり叩き込まれるので(笑)、「厳しい」という印象で見られがちなのですが、その時期があったからこそ地力がついたというのも感じます。「厳しい」の後にちゃんと「でもよかった」があるんです(笑)。4年生でやっと研究に打ち込めるわけですが、僕は1年では足りなくて大学院に進みました。
- 津田 |
- ただひとりで厳しさに向き合うというよりも、皆で山を登っているような感じですよね。ひとりでは立ち止まっちゃうけど、皆と一緒だから登れるような。
- 小林 |
- そうそう。周りの雰囲気に合わせていれば、いつの間にか実力がついているんですよね。
- 津田 |
- 理科大は理工系中心で、1学科の学生数も少ないので、いい意味でコンパクト。学生同士も先生との距離も近いから、日頃から声を掛け合える。それは他大学にはない土壌でしょうね。
- お二人の先輩に当たる津田さんも、同じ研究室の卒業生ですよね。学生時代はどのような研究をなさっていたんですか?
- 津田 |
- 画像処理です。私も小林くんと同じように、身の回りの電子機器がどんどん進歩しているのを高校生の頃から感じていて、はじめは「どうなっているんだろう?」という関心だったのが、いつしか「自分も新しいものをつくり出したい」という想いに変わっていきました。だから、メーカーに就職したいというのがまずあって、そのために大学も選んだし、学部学科も研究室も選んだ経緯があります。
- それはずいぶん早い時期から、明確な動機をお持ちでしたね。
- 津田 |
- 簡単に言うと、家電が好きだったんでしょうね(笑)。私の場合、特殊だったのは、大学時代に学内の研究室ではなくて、民間企業との合同研究チームに参加していたことですね。理科大にはいくつかそういったプログラムがあるのですが、貴重な体験ができました。
- 小林 |
- サラッと言っていますが、津田さんがかなり優秀だったということですよね(笑)?
- 津田 |
- いやいや(笑)。企業との交流なので、厳しそうだという先入観で諦めてしまった同期も多かったんですよ。
- 小林 |
- でも、そういう経験があったからこそ、就職活動でも語れることがあったというのはありそうですね。
- 小柴 |
- 学部や修士課程で研究していたことは、いまの仕事にどう生きているんでしょうか?
- 津田 |
- 学生時代に身につけたことって、実は研究内容そのものよりも、研究の進め方や思考のプロセスだったんじゃないかと思うんですね。現実を言えば、研究していたことがそのまま仕事になる人は少なくて、だからこそ、研究を通じて何を学んだのかが大事ですよね。民間企業で働く場合は特にそうだと思います。
- 小林 |
- これから就職活動を控えているので、勉強になります。
- 小柴 |
- 画像の研究というと、具体的にはどのような研究だったんですか?
- 津田 |
- Augmented Reality つまりARです。拡張現実ですね。いま、さまざまな分野で注目を集めていますが、まだまだ研究課題が多く残っています。メーカーの中にいても、商品やサービスに搭載するまでにはさらに時間がかかりそうな感じです。
- 小柴 |
- 研究内容によっては、そういうこともあるんでしょうね。
- 津田 |
- いまはプロジェクターのソフトウェアを開発していますが、今後、技術がどう進歩するかは分かりません。ゲームの世界やカーナビの分野では、積極的にAR技術が活用されていますし、もしより身近な技術になれば、いま行っている仕事と組み合わせて、私が貢献できるチャンスがあるかも知れません。
- 先輩である津田さんの話を聞いて、お二人はどうお感じになりましたか?
- 小柴 |
- まだ私は学部4年生なので、正直、いろいろと悩んでいる最中なんです。お話を聞いて思ったのは、研究を進める上で副次的に必要になるソフトウェアの開発能力、そういうものも社会に出ていくためのアピールのひとつになるんだな、ということです。
- 小林 |
- 僕もいずれは就職を考えていますが、画質評価だけにこだわるのではなくて、もっと広い考え方、「人に頼らず、コンピュータに判断させるシステム」という捉え方も念頭に置いていこうと思いました。
- 津田 |
- 小柴さんは学部の4年生ですもんね。まだ、いま研究していることと社会を結びつけて考える、前の段階かも知れませんね。
- 小柴 |
- そうなんです。将来のことも想い描きますが、もっと直接、人の役に立てる仕事にも関心があって。たとえば福祉とかも選択肢なのですが。
- 津田 |
- 電気工学って、オールジャンルにまたがっている分野なんですよね。だから、もちろん福祉でも生かされています。体温計も、血圧計も、電動車イスも、電気工学が必要ですし、そもそもそういった機器を製造するために電気工学は欠かせません。
- 小林 |
- 世の中の一体何に役立つのか、というのは大学としても可能な限り学生に考えさせているテーマだと思います。僕も、研究内容を決めながら、この研究によって何が変わるのか、徹底的に考えました。
- 津田 |
- いわゆるデジタル動画は、かなり世の中に普及していますが、画質だけが評価対象ではないところがポイントですよね。むしろ、人はコンテンツの内容を観ている。だから、小柴さんも小林くんが言っているように、研究のその先に何があるのかを考えてみるといいと思います。
- 小林 |
- 僕も、画質評価そのものが、そのままビジネスになるという風には考えていませんね。
- 津田 |
- たとえば、家電の品質管理をコンピュータで判断するなどのニーズもあります。そう考えると、小林さんが学んだことは、製造工程ではこれからも十分に生かせる内容ですよね。
- 在校生のお二人からも、津田さんに聞きたいことがあるということですが。
- 小林 |
- 学生時代にこれをやっておけばよかった、これはやらなければよかった、ということはありましたか?
- 津田 |
- やらなければよかったことはゼロですね。何もかも、無駄なことはなかったと思います。もっとやっておけばよかったことは、英語です。技術系の仕事って、実は英語と接する機会が多いんですよ。海外の部品を調達したり、海外に販売したりする機会も多いので。
- 小林 |
- 耳が痛いです(笑)。分かっちゃいるけど、って感じです。
- 小柴 |
- 津田さんはメーカーに就職したいという意識をお持ちだったそうですが、メーカーと言ってもさまざまですよね。どのように就職先や職種を決められたんですか?
- 津田 |
- メーカーの設計職種を大きく分けると、「機械設計」「電気設計」「ソフトウェア設計」の3つになるんですが、機械が骨や筋肉だとしたら、電気は神経、ソフトウェアは脳のような役割だと私は思いました。また、ソフトウェアが関係してくるのは、製品の機能の部分ですよね。まさに、製品の特長になる箇所に携われる、ということで、ソフトウェア設計の道に決めました。企業の選択はご縁もあるので何とも言えませんが、私は入社後すぐに戦力として働きたいという意欲があったため、そういう方針の会社を回っていましたね。
- 最後になりますが、このサイトをご覧の高校生の皆さんにひと言お願いします。
- 小柴 |
- 機械、材料、化学、電気…。理系にもいろいろあります。何を選ぶかで大学生活も変わってくるので、まずはどの分野を選ぶか、時間をかけて考えてみるといいと思います。それから理科大の場合、入ってからもしばらくはハードな日々が続きますが、それが実を結ぶのは4年生以降なんですね。学部の前半を乗り越えるためには、やはりいい仲間と巡り会えるのがいちばんだと思います。
- 小林 |
- どの分野であれ、まだまだ日本の技術は進化していくと思うので、理科大で学ぶことはきっと社会に役立ちます。小柴さんが言っているように、ひとりで頑張るわけではないので、そこは安心して入学してほしいですね。
- 津田 |
- いま思うのは、大学は入って終わりではないということです。卒業後に何になりたいのか、どんなことがしたいのか、少しずつでも考え始めてみるといい気がします。もちろん変わってもいいし、曖昧でもいいと思うんです。それが、将来の就職活動にも響いてくる部分はあるはずです。理科大は、なりたいものを着実に目指していけるところだと思います。頑張ってください。