DV保護命令:8割にとどまる 平穏に暮らせる日、いつ?
毎日新聞 2013年01月31日 東京朝刊
DV(ドメスティックバイオレンス)の被害に苦しむ人を、司法が守る「保護命令」という仕組みがある。被害者が身の危険を感じて申し立てると、裁判所が配偶者に対し、被害者に近寄らないよう命じる制度だ。ただ、保護命令を申し立てても認められるのは8割にとどまり、認められても命令の期間が短く、被害者が生活再建のための十分な時間を確保できないとの指摘もある。【鈴木敦子】
◇裁判所「夫婦げんか」判断も/効力わずか6カ月
東北に住む20代の女性は子どもがいる前で夫から手錠をかけられ、何度も性的暴行を受けた。拒むと腰のあたりをけられ、ベッドから転げ落ちたこともある。実家に逃げた女性は昨年1月、保護命令を申し立てた。
地裁は約10日で保護命令を認める決定を出した。だが、夫は即時抗告し、高裁は昨年、地裁決定を取り消した。決定の内容に、女性は耳を疑った。夫の暴力について「夫婦げんかの一端として通常の夫婦関係においても発生しがちだ」。さらに、高裁はベッドから転げ落ちた後、すぐに逃げなかったのを「緊迫感に欠ける」と指摘。高裁は「生命または身体に重大な危害を受ける恐れが大きい」との保護命令の条件に当たらないと判断した。
女性は最高裁に特別抗告した。最高裁は「(高裁で)審理を尽くしていれば、異なる結論となった可能性が十分考えられる」と言及したが、高裁決定は翻さなかった。
「性的な問題なので、恥ずかしくて誰にも相談できなかった。子どものためにも我慢していた。声を上げられなかったつらさや恐怖心を完全に無視された」と女性は落胆する。
保護命令を申し立てれば、夫は女性への怒りを増幅させる可能性が大きい。保護命令が認められず、夫の行動が束縛されなければ、女性は無防備な状況に置かれたままだ。この女性も夫の影におびえながら暮らさざるを得なくなった。
最高裁によると、01年のDV防止法施行以来、申し立てが認められたのは毎年、全体の8割前後で推移している。11年に全国の地裁が処理した保護命令の申し立て2739件のうち、144件(5・3%)は「却下」、458件(16・7%)が「取り下げ等」だった。専門家からは「司法は家庭内の暴力に甘過ぎる」との指摘も出ている。
「命からがら逃げてきた女性にとって、保護命令が認められないのは『死ね』と言われるようなもの。事件が起きてからでは遅い」。DV被害者を支援するNPO「全国女性シェルターネット」の近藤恵子共同代表は、保護命令の現状に強い懸念を示している。
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