日本初の「町田市保健所方式」でわかった
64歳までの「引きこもり」は20世帯に1世帯!?
引きこもりの人のいる多くの家庭では長年、本人も親も変わることのないまま、長期化、高年齢化だけが進んでいる。従来の30代以下の若年者に重点を置いた支援の仕組みそのものが限界を示していることは、もはや明らかだ。
そんな孤立して高齢化していく地域の実態の一角が、自治体のデータ上でも示された。
東京都町田市保健所が、市内の引きこもりの人たちの実態調査を行ったところ、20歳から64歳までの市民のうち、自分または家族が引きこもり状態にあると答えた人は5.5%に上り、20世帯に1世帯以上の家庭で身近に存在していることがわかったのだ。
前例のない保健所の取り組み
引きこもり実態調査を行った町田市
高齢化する引きこもりの人たちや家族の対応に追われてきた地域の保健所が、こうして実勢に則した形で独自の引きこもり実態調査を行うのは、日本でも初の試みといえる。しかも、若年者の自立に向けた対策でありながら、調査対象年齢を40歳以上にも広げて、これからネットワークを組んで取り組もうとしている点など、この「町田市保健所方式」は、先駆的なモデルケースとして注目されそうだ。
調査を行ったのは、町田市保健対策課。2012年度から、同市5ヵ年計画の重点事業として「ひきこもり者支援体制推進事業」に取り組み、このほど「若年者の自立に関する調査報告」を取りまとめた。
調査対象者は、市内在住の20歳から64歳の市民の中から無作為抽出した2000人。同年9月、調査票を郵送し、回収する方法で820件の回答を得た。
同課によると、地域単位で支える仕組みがないといけないことから、市民が引きこもりの人たちの問題をどのように認識しているのか、いろんな生き方が容認されている土壌があるのかどうかなどを調査で探る目的があったという。
「周辺に引きこもりがいる」が30%超
さらに“高齢化”も明確に
まず、「回答者の周辺におけるひきこもりの方の有無」について聞いたところ、「回答者自身または家族がひきこもりの状態である」は5.5%。「近所の人、親戚・知人の中にひきこもりの状態の人がいる」と答えた人も23.7%で、いずれにも当てはまるという2.3%を含めると、31.5%に上ることがわかった。
また、「回答者自身または家族がひきこもりの状態」という当事者の年齢を見ると、20歳代が37.8%、30歳代が31.1%と多かったものの、40歳代が17.8%、50歳代以上も13.3%と、40代以上が3割超を占め、高年齢化の傾向がくっきりと浮かび上がった。
そうした当事者のうち、「人づきあいが苦手である」と感じている人は、62.2%。「悩みや困りごとを相談できる家族や知人がいない」人は、26.7%もいた。そして、35.5%が「自宅、自室以外に安心できる居場所がない」と感じていた。
引きこもり支援機関の存在が
ほとんど知られていない実態
一方、すべての対象者に、「ひきこもり」に関する社会資源(支援機関)を知っているかどうかについて聞いたところ、「民生委員・児童委員」(61.0%)、「町田市保健所」(53.9%)、「ハローワークの若年者支援」(53.3%)などは半数を超えていた。
しかし、「地域若者サポートステーション」(6.4%)や、「東京都ひきこもりサポートネット」(9.1%)、「子ども・若者を支援するNPO等の民間団体・民間のカウンセラー」(17.7%)などは、ほとんど認知されていない実態も明らかになった。
「『ひきこもり』の背景や、『ひきこもり』に対する考え、社会的な支援等」については、それぞれの項目で、そう思うかどうかを質問している。
その中で最も多かったのは、「身近な場で相談しやすい窓口が必要だと思う」で91.0%。「『ひきこもり』の人や家族が孤立しないような地域社会のつながりが必要であると思う」が83.6%で続き、地域でのバックアップ体制の重要性が示された。
4人に1人の民生委員が相談を受けるも
当事者・家族との関係に課題
さらに、翌10月、市内の民生委員、主任児童委員244人に対して、調査票を配布、郵送により回収する方法で調査を行っている。
興味深いのは、「相談や情報提供を受けていないが、担当地区に『ひきこもり』の傾向にあると思われる方がいる」と回答した人が4割を超えたことだ。
実際、「『ひきこもり』または『ひきこもり』の傾向にある方に関する相談・情報提供を受けたことがある」人も26.3%いた。
ただ、「相談を受ける上で、困ったこと、課題と感じたこと」を自由回答で聞いたところ、「対応方法がわからない」「こちらからの働きかけを拒否、無視される」など、みんなでこれから考えていかなければいけない当事者や家族との付き合い方の課題も伺えた。
引きこもりの長期化を食い止める
「町田市保健所方式」は始まったばかり
同課は昨年度、思春期に対応できる医療機関が身近にあるのかどうかの社会資源調査も行っている。
保健師が36ヵ所の医療機関を回って、院長やスタッフに会い、どういう方々の相談対応が可能か、地域の現状把握から始めた。今後は、関係機関と一緒にネットワークをつくって対応していきたいという。
「保健所では元々、30代、40代、50代の方のご相談が多い。みんな、親亡き後を心配しています。高齢者の支援センターの方が訪問に行って、実はいちばん奥の部屋に、引きこもっている方がいらっしゃるようだという話が出てきたりするのです」(同課長事務取扱・向山晴子医師)
親側は、暴力や変化などを恐れ、あまり刺激を与えてほしくないという意向が強い。
一方の本人たちは、ネットではつながっていくものの、そのまま安定していく傾向がある。
「もう少し早い段階で、支援体制が組めると、20年、30年と引きこもらなくても済むのではないかという思いもあります。いろいろな分野の相談支援機関と情報交換しながら、相談が上がってきたときに、1つのところだけで抱え込まないで、お互いに共有し合って組み立てることができればと思って走り出したような状況です」(同課係長・河西あかね保健師)
とはいえ、一般の就労はハードルが高く、たとえ就労できたとしても長続きしなくて、再びつまずいてしまう人たちも少なくない。
そこで保健対策課が、この調査報告書を持って産業関係のセクションに出向いて、商工会議所などにつないでもらうようなネットワークづくりを模索している。
これまでの「うちは若年者支援だから…」といった役所の縦割りの弊害を越えた取り組みだ。もちろん、お手本もないという。
高年齢化していく引きこもりの人たちや、それを支える家族のために、行政として、地域でどんな支援ができるのか。
従来の保健所のイメージとは違う、5ヵ年計画の2年目に入ったばかりの「町田市保健所方式」の前例のない取り組みに、これから注目が集まりそうだ。
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