6月中旬に東京・代々木第二体育館でレスリングの全日本選抜選手権最終日を観戦した。女子55キロ級では吉田沙保里(ALSOK)はさすがだった。吉田の後継者と期待される村田夏南子(日大)にリードを許しながらも残り15秒での逆転勝利。五輪を含めた世界大会13連覇の実力でベテランの味が出た内容だったが、村田も伸び盛りの力を関係者にアピールできる内容で、世代交代も時間の問題だと感じさせてくれた。
格闘技の場合、伸び盛りのアスリートは気持ちが前に出すぎるきらいがある。その壁を若さで、勢いで乗り越えて強くなる。空手の現役時代の私は相手の攻撃を待つ“待ち拳(けん)”が得意で、相手の攻めに“ため”のディフェンスをつくり、受けて切り返す練習を繰り返して反撃のリズムを染みこませた。
「押しても駄目なら引いてみな、引いても駄目なら押してみな」「一歩下がって二歩進む」は歌の文句だが、勝負は歌の文句と重なって面白い。アスリートの練習に完璧はない。戦いには常にリスクを伴う。現役時代はそのリスクをプラスにする発想が楽しかった。吉田30歳、村田19歳。村田がどんな発想転換で吉田を越えるか。今後の対決が楽しみだ。 (格闘技評論家)
この記事を印刷する