ナナオクプリーズ

七億ほしい

俺のミッ◯ーマウスがこんなにBLなわけがない

 ミッ◯ーは胸を弾ませていた。今日は待ちに待ったド◯ルドとの初デートなのだ。

 いきなり何を言っているのかわからないと思うが、簡単に説明するとミッ◯ーとド◯ルドは、つい先週恋人同士になったばかりなのである。

 男同士。ネズミとアヒル。何より、世界中の子供達の憧れとも言える存在であった二人の恋。この先に待ち受ける道は険しく、一筋縄ではいかないだろう。

 ミッ◯ーも大いに悩んだ。この思いを素直に打ち明けるべきか。

彼のくちばしが好きだ。セクシーなヒップラインが好きだ。喜怒哀楽が激しい性格が好きだ。耳元で愛の言葉をグワグワと囁いてもらえたら、どれほど幸せだろう。長年に渡り募らせた思い、伝えるべきか否か。もしもド◯ルドに拒否されたら、僕はどうなってしまうだろう……。

 切なさは積もり、苦しみは広がり、愛しさは深まっていった。だから、意を決して胸の内を彼に伝え、その思いが成就されたとき。彼もまた、ミッ◯ーに対する恋慕の情を心に秘めていたのだと知らされたとき、ミッ◯ーは幸せのあまりエレクトリカルパレードだった。

 初デートとなるこの日、ミッ◯ーはとっておきの赤いつなぎを纏い、ワックスでしっかり耳の形を整え、尻尾に香水をふりかけると、愛しい彼の待つシンデレラ城へと足を運んだ。

 その瞬間である。何者かに口元を抑えられ、気を失ったのは。

 ミッ◯ーが目を覚ますと、そこはホテルの一室だった。ベッドの上で寝転がされている。同時に、自分の手足が拘束されていることに気付いた。

「よう、目覚めたようだなミッ◯ー」

 そこにいたのは犬のグー◯ィだった。いつもどこか舐るような視線をミッ◯ーに向けている男だ。ミッ◯ーは身体を硬直させると同時に警戒した。

「これは君がやったのか? 一体何のつもりだ、グー◯ィ!」

「グフィフィフィ。まあまあ、そう怒りなさんなって」

 グー◯ィの目つきはいつもにも増してどこか下卑た輝きを据えている。

「なあ、ミッ◯ー。つれないじゃないか。俺というものがありながら、あんなアヒル野郎になびいちまうなんて」

「な、何を言ってるんだ。グー◯ィ、これはジョークじゃすまないぞ。自分が何をやっているのかわかっているのか?」

「グーフィフィフィ。わかっているさ。でも、お前もいけないんだぞ。俺はお前のことをこんなに愛しているのに、いつまでもそっけない素振りを見せるから、俺もついに痺れをきらしちまったんだ」

「き、君の気持ちには応えられない。僕にはド◯ルドという愛するアヒルが……」

「俺だけじゃない。こいつらもそうさ。おい、お前ら入ってこい!」

 ドアが開くとそこから入ってきたのは、ミッ◯ーもよく見知った面々だった。

「チ◯プとデ◯ル……それに、くまのプー◯んまで!」

 リスの兄弟のチ◯プとデ◯ル、そしてくまのプー◯んが乾いた視線をミッ◯ーに送っていた。それは今までミッ◯ーが知っていた彼らのそれではない。まるで心をどこかに売り渡したかのような、諦めを携えた瞳だった。

「お前は気付かなかっただろうがな、こいつらもみんなお前のことが好きだったんだ。あのいけすかないアヒル野郎にお前を取られたことが気に食わないのさ。だから今回の計画を持ちかけたとき、三人ともノリノリだったぜ」

「け、計画?」

「お前に俺達の良さを、その身体にたっぷり仕込んで逃げ出せないようにするんだよ。僕らのクラブのリーダーは、ミッ◯ーマウスミッ◯ーマウスミッ◯ーミッ◯ーマウス……そう、お前は『僕ら』のものなんだから、みんなで仲良くわけないとな。プー◯ん、こいつを抑えろ」

 一番先にその巨体を動かしたのはプー◯んだった。ミッ◯ーの上に覆いかぶさった途端、ミッ◯ーの視界から光がシャットアウトされる。

「うわ、やめろ! プー◯ん、やめてくれよ。君はこんなコトする人じゃなかったじゃないか」

「悪いな、ミッ◯ー。もうこれしか方法はないんだ」

 そういうとプー◯んは熊ならではの怪力でミッ◯ーの手足を押さえつけた。

「や、やめろ! 僕たちは夢の国の住人、こんな汚いことしちゃ……」

「汚いことだって? みんなやっていることだ。今更カマトトぶってんじゃねえ! お前の好きなド◯ルドだって、どこのホテルミラコスタで他のアヒルとヨロシクやってるかわかったもんじゃねえぞ」

「ド、ド◯ルドはそんな下品な人じゃない!」

「つったって、お前だってド◯ルドとグーフィフィフィしたいんだろ?」

 ミッ◯ーは瞼を見開いた。そして、すぐに目の前の下品な犬を睨みつける。

 この下衆が――しかし、彼の言葉は否定出来ない。ド◯ルドの熱い腕に抱かれることができたなら……そんな妄想を持ったことは一度や二度ではないからだ。

 図星と睨んだグー◯ィは、さらに調子に乗った。

「お前、どうせまだド◯ルドには抱かれていないんだろう? やめておけ。銭湯であいつの裸を見たことがあるけれど、あいつのモノは小せえ。イッツ・ア・スモールワールドだったぜ。あんなんじゃお前を悦ばせられねえぞ」

 ミッ◯ーは顔を真赤に染めた。ド◯ルドの身体に対する羞恥もあったが、そこには愛する彼の身体的特徴を侮辱された怒りもあった。

「おい、ド◯ルドを馬鹿にするな!」

「それにひきかえ俺の自慢のビッグサンダー・マウンテンなら」

「大事なのは大きさじゃない。愛情だ! たとえド◯ルドのモノがどんなにチキン・リトルでも、僕には問題ない。グー◯ィ、お前のやってることのどこに愛情があるんだ!」

「うるせえ! その俺のなけなしの愛情をないがしろにしやがって。お前ら、やっちまえ!」

 その掛け声と共にチ◯プとデ◯ルがミッ◯ーの身体に近づき、ミッ◯ーのしっぽをペロペロと舐め始めた。ミッ◯ーの身体に電流が流れ、くすぐったさと僅かな快感が頭の頂上から足の爪先まで駆け巡る。

「ぐっ、やめろ。やめるんだ……こんなことで僕は屈しな、ああっ……!」

「はあ、ミッ◯ー。俺はもうダメな熊になってしまった。お前のハニーな部分をハントしたくて仕方ないんだ……!」

 息を荒くしたプー◯んが、ミッ◯ーの耳をこねくり回す。その度に、未経験の衝撃がミッ◯ーに襲いかかる。それは甘美な痺れを伴い、ミッ◯ーの身体から少しずつ抵抗の力を奪っていった。

 悶えるミッ◯ー。こねるプー◯ん。舐るチ◯プ。こするデ◯ル。いかんともしがたい光景だ。

「お前ら、はあっ、い、いい加減に……むぐっ!」

 ミッ◯ーの口の中に、グー◯ィのしっぽがねじ込まれた。

「グフィフィ。どうだ? 俺のレミーはおいしいレストランだろ?」

「ううー! ううー!」

 快感は確実に、ミッ◯ーの身体に蓄積されていった。心がどれだけ抗いたくても、ミッ◯ーの身体はもはやとっくにポカホンタス。

「はあ~、俺のピノキオが我慢の限界だよぉ~」チ◯プが呟く。

「ううっ、もう射精(で)ーる!」デ◯ルが叫ぶ。

 グー◯ィのしっぽが口から離れ、ようやく喋ることができた。

「僕は屈しない……ド◯ルドがきっと、助けてくれるんだ……僕の身体はド◯ルドだけのものだ……」

「そんな事言ったってミッ◯ー。お前のここはもうこんなに蒸気船ウィリーじゃないか。ほら、シュッシュッポッポと言っているぞ」

 盛大な羞恥がミッ◯ーに襲いかかる。違う。僕はそんなんじゃない。心で叫んだ。

しかし、すでにミッ◯ーを支配しているのは、意思の強さではなく、身体の正直な感情であった。快楽の方へと、勝手に身を委ねてしまうのだ。

「はっはっは、もうこんなに腰を振ってやがる。もはやネズミじゃねえ。ただの盛りのついたオス犬じゃねえか、とんだわんわん物語だな!」

 ミッ◯ーは必死に首を横に振り、否定の意思を示してみせるが、やはり身体中を貫く快感はごまかしが効かない。自分の意思に関わらず腰が勝手に動いてしまう。

 ド◯ルドというものがありながら、自分はこんなに尻の軽いネズミなのか。自分の弱さに愕然とし、ド◯ルドへの申し訳なさが頬を伝って流れるミッ◯ー。

「そうだ、オモチャを使おうぜ。大人のトイ・ストーリーだ」グー◯ィが取り出したオモチャはウィンウィンと蠢き、持ち手には小さく「アンディ」と書いてあった。

ふと、ミッ◯ーの身体を尿意が襲った。しかし、それを悟られてはならないと我慢を続けて見せたが、ミッ◯ーの見せたモジモジとした動作に、快感とは別のものがあるとグー◯ィはすぐに気づいた。

「どうした? 漏らしちまいそうなのか? いいぞ、出しても。恥ずかしいところを俺達に見せるんだ。ディ◯ニー・シーならぬディ◯ニー・しーしー、ってか! グーフィフィフィフィ!!」

 とんでもない。そんな醜態を晒してしまえば、自分はもうド◯ルドに顔向けができない。それはもう、完全に自分の身体も心も、彼らの手に堕ちることと同義なのだ。

 しかし、すでに我慢は限界に近付いていた。潔くスプラッシュ・マウンテンしてしまえば、どれだけ楽になれるだろう。

 グー◯ィは止めない。下卑た笑いを、ミッ◯ーを辱めるその手も。

 ド◯ルド、ごめん――ミッ◯ーの意思が、大きな激流に流されかけた――。

その時だった。

轟音と共にホテルの壁が崩れ、瓦礫と煙の間から一台のカボチャの馬車が姿を見せた。

「ぐわあああ!!」

 馬車に押しつぶされたグー◯ィ達は、断末魔を上げて気絶した。ミッ◯ーは突然起こったその光景を、手足を拘束されたままぼうっと眺めていた。

「大丈夫か、ミッ◯ー!」

 馬車の中から現れたのはド◯ルドだった。その姿を、その声を認めた瞬間、ミッ◯ーの瞳から大粒の涙が溢れる。

「ド◯ルド、助けに来てくれたんだね!」

「うわ、手足を縛られてるじゃないか! ……よし、これで安心だ」

 手足を拘束していたロープが外されると、ミッ◯ーはたまらずにド◯ルドに抱きついた。迫っていた尿はすでに何処かへ吹っ飛んでいた。膀胱にだが。

「すまなかった、ミッ◯ー。助けるのが遅れてしまって」

「ううん、いいんだ。あのままじゃもう二度と君に会えないと思ったから。でも、またこうしてまた一緒にいられてよかった……でも、どうしてここが?」

「実はな、どうもグー◯ィの様子がおかしいと思ってたあいつらが後を付けていったら、お前が拉致されたのを目撃したんだ」

「あいつら?」

 すると、馬車から二人の女の子が姿を見せた。

 ミッ◯ーの相方、ネズミのミ◯ーマウス。そして、ド◯ルドの相方、デイ◯ー・ダックである。

「ミッ◯ーとド◯ルドが結ばれたと聞いた時、最初に心配だったのはグー◯ィが何かしでかさないかってことだったの」ミ◯ーが話す。

「あなたが拐われたのを見たとき、私達だけじゃどうにもならないから、ド◯ルドに連絡して同行してもらったのよ」デイ◯ーが答える。

「そうなんだ……二人共ありがとう」

「いいのよ。ド◯ルドなんか本当に必死だったんだから」ミ◯ーが打ち明ける。

「そうしていると二人共、とってもお似合いのカップルよ」デイ◯ーが冷やかす。

 その言葉にミッ◯ーは耳まで真っ赤になったが、それでもド◯ルドの腕の中から離れ難かった。

「ずいぶんと予定が狂っちまったけど、デートの続きをしよう。どうせなら、ダブルデートと洒落込もうぜ」ド◯ルドが提案を持ちかけた。

「ダブルデート? どういうことだい?」

「実は……」

 ド◯ルドが視線を向けたその先では、ミ◯ーとデイ◯ーが頬をピンクに染めながら手を繋いでいた。

 

(作者ツイッターアカウントは@nnnn330