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大病院から薬剤師を近くのクリニックへ派遣、自家がんワクチンの院内調剤に協力
02
Jul
因島医師会病院~島内7クリニックとの連携に見る
地域ネットワークの成功例
大病院におけるがん治療では、保険適用が可能な方法ならば、多種多様な組み合わせで医療を行うことができます。しかし、それでも薬石効なく治療の限界を迎えてしまうのが、再発・転移がん(末期がん)に極めて頻繁に見られるパターンです。
これが大病院における「もう治療法はありません」との宣告となって現れ、半自動的に緩和ケア病棟に送り出されてしまうのが普通です。
→ http://www.cell-medicine.com/topics/2011/01/post-205.php
しかし、保険適用とはならない国家未承認の"保険外"の治療法は多数あり、これらは自由診療(全額自費)でならば、医師の裁量次第でいくらでも治療できるのが、世界では見られない本邦独自の特徴となっていて、欧米の医師からうらやましがられている程です。
ただし"保険外"の治療法とて、末期がんの最末期に使用されたのでは、有効となる確率は非常に低くなってしまいます。すなわち、藁をもつかむ状態に入ってから"保険外"の治療を行っても、もはや手遅れであることが圧倒的に多いのです。
そこで、誰しも考えるのが、がんの早期から"保険内"の治療法と"保険外"の治療法を組み合わせ、保険診療の限界を乗り越えようとすることです。
しかし、ここに巨大な壁として立ちはだかるのが、保険診療と自由診療を同時に混ぜて行ってはならないという、我が国の「混合診療禁止政策」です。
混合診療禁止政策にはそれなりの効用はあるのですが、国に登録され許可されている「先進医療」との組み合わせの場合を除き、いかなる混合診療も現在は認められていません。違反すると巨額の出費をともなう罰則が待ち構えています。
(実は、「先進医療」では、患者様から"実費"(直接経費)だけしかいただくことができません。そのため、民間企業が開発している未承認の新規医薬品を先進医療に提供すると、一切の間接経費が認められないため、必ず赤字になってしまいます。事実上「先進医療は研究のためにしか使えない」のが現状です。)
そこで良く行われるのが、2つ以上の医療機関が協力し、一方で保険診療を、他方で自由診療を行うというパターンです。
本邦の大病院は、ほとんど例外なく保険診療機関ですから混合診療を行うことができません。その点、個人医療機関(いわゆる町のお医者さん)は身軽ですので、保険診療を行わず自由診療を採用しやすいという特徴があります。
ただし、小さい診療所やクリニックであるため、院内で未承認医薬品を調剤できる薬剤師をおいているところはほとんどありません。
そこで、因島医師会病院(広島県)では、昨年末、保険診療の限界を乗り越えるため、自院の薬剤師を近隣の7つの診療所・クリニックに派遣し、未承認医薬品である自家がんワクチンの院内調剤に技術協力させる体制を構築しました。
発足後、未だ6ヶ月しかたっていませんが、すでに5名の患者様がこの体制下で自家がんワクチン療法を受診しています。受診患者様には、因島医師会病院にてがん手術を受けた方も、クリニックに直接かかりがん治療を受けた方もおられますが、因島市は人口わずか25600人にすぎない小さな島ですから、この受診頻度は非常に高いといえます。
しかも、
・大病院側からすれば入院・手術を含め保険診療に集中でき、
・クリニック側からは薬剤師の雇用不要で最先端医療にチャレンジでき、
・患者様からすれば保険診療と自由診療をそれぞれ相補う医療が受けられる
という、3者ともに大きなメリットが発生しています。
ただし、ここでキーパーソンになるのが、大病院から派遣される薬剤師です。自院外の設備不十分なクリニックで、未承認医薬品を出先の医師に協力して調剤するため、その分責任が重くなります。因島では幸いにして有能な人材を確保しています。
勉強熱心で、未承認医薬品も含めた新規治療にチャレンジしようとする気があるか否かが、今後の薬剤師への期待度の分かれ目になってきているなと、筆者は強く感じています。