ジフテリア、百日せき、破傷風、はしか、風疹など、古くからあるベーシックな小児用ワクチンを手がけるのは今も日本勢のみ。国が原則国産を望んできた歴史があり、外資が輸入品をそのまま持ち込むことは難しかった。しかも日本向けに数百億円の開発費を投じたところで古参に固められた市場で採算は見込めない。結局、手を出せずにきた。
対して、ヒブや子宮頸がんといった新規タイプのワクチンは外資一色だ。
「小児用ワクチンの種類が豊富な米国ですら、まだニーズに応え切れていない。それほどワクチン研究は奥が深い」と、医師であり、米国の食品医薬品局で勤務経験もある武下文彦・第一三共ワクチン事業企画部ワクチン・アジュバント研究ユニット長が言うように、ワクチンで予防が可能と考えられる疾患には世界で約70種類もの研究対象がある。しかし鎖国状態にあった日本勢は、世界での開発競争の土俵に立たず、世界大手のように新規ワクチンを次々開発することが難しくなっていた。
世界では、新規ワクチンと並んで、1回の注射で複数のワクチンを同時に接種できる「混合ワクチン」の開発も盛んだ。接種する小児にとって痛みの回数が減り、過密な接種スケジュールは簡素化されて接種に通う家族の労力は減る。ひいては接種率の向上につながる。海外ではベーシックな小児用ワクチンに新規のワクチンをさまざま組み合わせて、5種や6種まで混合化が進んだ。
定期接種できるワクチンが少ない日本では2種混合のMR(はしか、風疹)、3種混合のDPT(ジフテリア、百日せき、破傷風)にとどまっているが、今後接種できる種類が増えて混合化の開発余地が増す。それでも日本でベーシックなワクチンを持たない外資には手が出しにくいままだ。
内資がベーシックにとどまり、外資は新規タイプのみという双方の開発を行き詰まらせる状況を打破する一つの解が、内資と外資で開発機能と営業機能を集約するジャパンワクチンのビジネスモデルだった。
第一三共は約50品目にも上るGSKの製品および開発候補品から日本のニーズに合う新規ワクチンを開発できるようになり、GSKは第一三共が持つベーシックなワクチンを活用して混合ワクチンを開発できるチャンスを手にしたのである。