感染症を予防するワクチンの接種をめぐり、二つのニュースがかけめぐっている。まず、風疹。1万人超の大流行となり、厚生労働省は警戒と予防接種を呼びかけている。[記事全文]
法律家を育てる法科大学院が崖っぷちにある。司法制度改革の柱として創設されて10年になるが、政府の検討会議は、目標に掲げた「質・量ともに豊かな法曹」の実現がこのままでは難[記事全文]
感染症を予防するワクチンの接種をめぐり、二つのニュースがかけめぐっている。
まず、風疹。1万人超の大流行となり、厚生労働省は警戒と予防接種を呼びかけている。
もう一つは子宮頸(けい)がん。4月に定期接種の対象になったが、副作用の問題で、国は接種を勧めることを一時停止した。
予防接種は「だれのためか」「どの程度重要か」がワクチンにより違う。一定の割合で起きる副作用とてんびんにかけて接種を判断する必要がある。
だが、そうした意識と情報はまだ十分浸透していない。国はもっと説明に努めるべきだ。
結論からいえば、風疹の免疫がない人は接種を受けることが望ましい。子宮頸がんは、厚労省の副作用調査を待ってから決めても遅くない。
風疹はかかると対症療法しかない。大人は症状が重くなりやすく、妊娠まもない女性がかかると赤ちゃんに心臓病など重い障害が生じる恐れがある。
妊娠前の女性だけでなく、家族や職場の同僚など社会全体が接種を受けて免疫を高め、流行を防ぐことが大切だ。その効果はすでに実証されている。
一方、子宮頸がんは個人防衛の色が濃い。対象のウイルスは性交渉で広がる。感染しても大抵自然に治るが、感染が長引けば、がんの危険が高まる。
感染すると必ずがんになるわけではないし、感染を防げば必ずがんを防げるわけでもない。接種だけでなく、子宮頸がん検診と組み合わせることで高い予防効果が期待できる。
流行阻止が主眼で治療法がない風疹と、個人防衛が主眼で治療法がある子宮頸がんでは、意味合いが全く違うのである。
治療法のある感染症のワクチンは、より高い安全性が求められる。子宮頸がんワクチンの呼びかけ停止は当然だ。厚労省は副作用の重さと頻度を虚心に評価し、結果次第では定期接種からの除外も含め、あらゆる選択肢を検討しなくてはならない。
ワクチン行政は過去に、迷走があった。麻疹(はしか)・おたふく風邪・風疹を一つにまとめたMMRワクチンでは副作用が多発したあとも、別々に戻す方針転換が遅れた。
それで批判を浴びると逆に及び腰になり、はしかなど重要な接種を国民に広げる施策がおざなりにされ、世界から「はしか輸出国」と非難された。
厚労省は子宮頸がんワクチンの副作用調査の結果報告を手はじめに、効果と副作用の情報をわかりやすく示し、国民の判断を助けるべきだ。
法律家を育てる法科大学院が崖っぷちにある。
司法制度改革の柱として創設されて10年になるが、政府の検討会議は、目標に掲げた「質・量ともに豊かな法曹」の実現がこのままでは難しいとの最終提言をまとめた。
法科大学院は司法試験を受けるのに先立ち、考える力や人間性を養う場としてできた。旧司法試験が合格率2〜3%の狭き門で、受験技術の偏重が批判されてきたためだ。
ところが、合格者は毎年2千人程度と、目標とされた3千人を大きく下回る。合格率は2割台で、大学院に行っても法律家になれる確証はない。
それでも法曹人口は12年間で7割増えており、合格しても職がない状況もうまれている。
これでは、意欲ある人材は集まらない。実際、新制度になって以来、法科大学院志願者は減ってきている。
そこで検討会議が求めたのは、司法試験の結果が芳しくない法科大学院の再編と、合格者3千人という目標の撤回だ。
教育の質を保てない大学院が撤退するのは当然だろう。
しかし、司法試験の合格者を早く多く出すことだけが、法科大学院の使命ではない。
改革が求めた新しい法律家像は、知識はもちろん、洞察力、説得力、人権感覚、国際的視野を備えた存在だったはずだ。
現実には、法科大学院に飛び込んだ社会人、理系出身者などが司法試験で苦戦している。実務を想定した講義や外国法、法曹倫理などの科目は、司法試験に直結しないからと学生に軽視されがちだ。
旧制度に戻りつつあるのではないか。
法科大学院の数を絞れば、全体の合格率は上がるが、それだけでは改革がめざした「多様な法曹」はうまれない。
社会が求める法曹の姿はさまざまだ。法律家をめざす一人ひとりの強みを評価するには、どんな司法試験がいいのか、考え直す必要もある。
司法試験の合格者3千人という数にこだわることはない。とはいえ、社会のすみずみに法律サービスがゆきわたっているといえるだろうか。
悪質商法や詐欺など、法的な助言があれば防げたかもしれないトラブルはあとを絶たない。
兵庫県明石市は5人の弁護士を職員に採用し、お年寄りから相続などの相談を受けているが、こんな実践はまだまれだ。
必要なとき、当たり前に法律家を頼れる。そうなる工夫の余地はまだまだある。