「渡邉美樹 夢を語る経営勉強会」

経営は格闘技、死ぬまで途中経過

「今月の給料はゼロ」頭を下げても心は折らない

  • 渡邉 美樹

>>バックナンバー

2011年12月5日(月)

1/3ページ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック
  • Facebookでシェアする 0

印刷ページ

前回から読む)

渡邉美樹(筆者)

 私のビジネスモデルは、価値観や幸せ感に基づいて出来上がってきたものです。本当の経営はそうあるべきだと思っています。つまり、ビジネスモデルは、その経営者の生き様そのものと言うこともできるのです。

 お金が儲かるか儲からないかは、二の次。儲けばかり求めても逃げていくだけです。結果としてそれが正しいことで、「ありがとう」を集められれば売上はついてきます。そして、創意工夫があれば売上から利益は生まれてくる。だから一番大事だと思うのは、皆さんが何に対して幸せだと思うか、どういう価値観に基づいて企業を作り、その企業文化を立ち上げたいと思っているか、だと思います。

 ワタミグループの新卒内定者にいつも私が話すのは、この会社は誰にとっても良い会社ではないですよ、ということです。つまり最大公約数としての価値観が共通していないと、幸せではないと話しているのです。

月収が30万円下がってもやりたいこと

 20年間外食を経営し、今から7年前に介護事業を始めました。この国の高齢者の方々があまり幸せでない状況を目の当たりにして、この方々のために何かできるのではないかと考えたからです。外食で培った、おいしいお食事を良い雰囲気で良いサービスとともに、しかも安く提供するという経営の技術が、介護業界において役に立つ、ご高齢者からありがとうが集まるのではないかと思いました。

経営勉強会の様子
画像のクリックで拡大表示

 介護の経験は全くありません。普通は経営者の思いつきで新規事業を始めることは非常にリスクが大きく、当然当社の役員全員から反対されました。しかし、すべて私の責任でやるということで、93億5000万円の借金をして、神奈川を中心に介護付き有料老人ホームを運営していた会社をM&Aすることで介護事業へ参入しました。それがワタミの介護です。

 では、なぜ私は介護をどうしてもやりたかったのか。そこにいるおじいちゃん、おばあちゃんの笑顔が頭からこびりついて離れなかったからです。その思いを形にしようとしたのですが、介護業界の常識が壁になりました。それは、従来の介護が「どうやったら楽にできるか」という基準で動いていたことです。

 それを私は一つひとつ覆しました。例えば、「要介護5(最も重度)」の寝たきりのご入居者様に対して、我々は死ぬほどの努力をさせていただきます。その結果「要支援1(最も軽度)」になった方もいます。ただし、重度が軽度になると、介護保険の取り決めによって我々の収入は月間30万円以上下がるのです。

 考えてみてください。自分の収入を毎月30万円減らすために、死ぬほど努力する人がいるでしょうか。お風呂も週2回でよくて、ゆっくり気持ちよく入ってもらったからといってたくさん点数(報酬)をもらえるわけではないのです。介護する側は、いかに短時間でお風呂に入れようかと考えそうなものですよね。

あなたの幸せは何ですか

 ご入居者様の幸せが自分の幸せである。ご入居者様が笑顔でいてくれるのがうれしい。お金よりもそれが楽しい。そういう価値観の前提がないと、元気になってもらおうという発想は生まれてこない。従来の介護業界の仕組みでは、いかに楽をするかという考えが当たり前だったのです。

 けれども、私はM&Aをし、そこにいた600人の社員に「私は自分の父親や母親に対するのと同じことをしたい」と言いました。結果的に、今までの介護の常識と全然違うことになった。今まで彼らがやってきたのは、お風呂は週に2日だけで、食事にかける時間は1食当たり30分。自分たちがどうしたら楽になるかを考え、それが仕組みになってしまっていた。

 私の方針に沿った内容に改めていった結果、600人いた社員の3分の1くらいが辞めていきました。そのとき皆が残した言葉は、「私達の幸せはどこにあるのですか」でした。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

コメント

参考度
お薦め度
投票結果

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事