2013-07-01
■Togetterの社長を辞任しました
昨日付けで代表取締役社長を辞めました。
UEIではなくトゥギャッター株式会社の方ですが。
ちょうど社長辞任決議が通過した株主総会の直後にこんなエントリーが出る当たり、予定調和的ですが、僕はこのサイプロさんを良く知らないので偶然だと思います。
1人で運営していると話題の「トゥギャッター(togetter)」を支援しているのはUEIっぽい件 | サイプロ ?とあるサイトプロデューサーのブログ?
敢えて隠してはいなかったのですが、喧伝するようなことでもないので黙っていました。
もしこの話をするならば、今日にしようとずっと以前から決めていたのです。
それは私がこの会社の社長を辞した時です。それが今日でした。
まず経緯から説明しましょう。
今をさかのぼること数年前、僕たちは天下一カウボーイ大会というイベントを開催していました。
(最近だと今年も開催しています)
そのなかで、会場の人々のTwitterのつぶやきをリアルタイムに表示するシステムを水野君が開発し、会場の人たちはTwitterでツッコミを入れながらセッションを楽しむことが出来るという遊びをやっていました。
そのイベントに来ていた吉田さんという開発者が、会社にもどり、天下一カウボーイ大会の様子を報告する報告会を開きました。そのとき、Twitterのつぶやきをまとめるシステムを作ります。これが「Togetter」のもとになるシステムでした。
彼は個人としてTogetterをスタートし、その後会社を移りながらも細々とTogetterの運営を続けます。
ところがTogetterの人気が沸騰していくにつれて、個人で賄えるサーバーが次第に限界に達して行きました。
ちょうどその頃、僕は吉田さんと知り合い、Togetterの成立に天下一カウボーイ大会が関係していることを知って驚きました。そして、Togetter以前に吉田さんがつくったいくつかのHTML5コンテンツを、僕が既に知っていたということも驚きました。彼は当時非常に貴重な、HTML5エンジニアだったのです。
実は独立して会社をやってみたい、という吉田さんに、僕は資金を提供することを決めました。
とりあえず1000万円の資本金でTogetterを設立します。最初の社長は吉田さんでした。
僕がTogetterを支援することにした理由は二つあります。
一つは、優れたエンジニアの産み出したサービスを支援し、彼の成長を見守ることは、私という人間にとって非常に重要な経験になるであろうこと。
もう一つは、Togetterという仕組みそのものが、新しい社会正義の実現を達成するかもしれないと思ったことです。
「新しい社会正義」というとかなり大袈裟ですが、そもそもTogetterとは何であるか、考えてみましょう。
僕は以前から2ちゃんねるのような場所が、罵詈雑言の応酬の場である一方、不思議な正義感に溢れていることに注目していました。
そのことについて、以前少しだけ西村博之さんと話をしたことがあるのですが、彼は2ちゃんねるを場として運営することに熱心だったものの、そこで産まれている文化的な特質に関してはそれほど注意を払っていないようでした。それを良い形にして取り出せたのがニコニコ動画だったと思います。
たとえば、新聞やテレビなどが扱わないニュースでも、誰かが社会的に問題があると思えば2ちゃんねるには書かれます。そのぶん、ガセネタや誤情報も多いのですが、情報が全くないよりは、あったほうがマシだという考え方で2ちゃんねるは運営されています。
しかし一方で、匿名であることをいいことに、無責任な放言や完全な妄想など、真偽の区別がつきづらい情報が錯綜しているのは2ちゃんねるの明らかな欠陥と言えます(それが楽しい、という考え方もありますが、情報による正義の実現という観点では欠陥と言えます)。
また、ブログの場合、これは書くのに才能とエネルギーが必要です。
そしてそうした才能とエネルギーをもった個人が、本当に正しい情報を発信しているのかというと、非常に疑わしいということも解っています。ジャーナリストを名乗る人物が平気で嘘を書いたりする例は枚挙に暇がありません。
ところがTwitterでは、ブログを書くのが億劫な人々であっても、誰でも公平に世の中でおきているあらゆることについて呟いたり、疑問を提起したりすることが可能です。
しかしTwitterにも一方であきらかな欠点があります。
それは、前後の文脈を無視して発言だけが切り取られ、それによって本来しなくてもいい対応や、同じ対応を繰り返す求められるということです。
それはもちろん、従来のブログや書籍といった形態も考えられますが、Twitterという媒体は、そうした推敲を経たものとは根本的に異なる、語る人間の本性や情動までもをリアルタイムに反映するという特異な性質を持っています。
そうしたものに対して、リアルタイムな反応を客観的な視点でまとめ、編集されることは、人類にとって有益です。Twitterの発言ひとつひとつは、単に情報の洪水のなかに埋もれて行くだけですが、そうしたなかで、後から読み返すべき貴重な発言を編集し、まとめておくことは後の人類にとって必ずや役立つ情報になるはずです。
また、同時に、その編集そのものが開かれていて、両論を併記できるようになっています。
つまり例えばAという立場の編集と、Bという立場の編集、その両方がTogetterには掲載可能で、どちらの記事がより多くの支持を集めるかという市場原理に左右されることなく、両方の立場の人物がそれぞれの主張を繰り広げることができます。
メディアは本来、「両論併記」が原則で、中立な立場であることを求められていますが、しばしばそれが有名無実になってしまっていることは今やよく知られています。
従って、Togetterのようなキュレーションサービスは、「情報の編集権」という、21世紀になるまで誰にも開放されていなかった最後の権利を、広く民衆に解放する仕組みとして作用する可能性を感じました。
私自身もTogetterにまとめを作ることがありますが、その場合、できるだけ私個人への批判も含めてまとめるようにしています。
しかし同時に、私個人を攻撃するような内容のまとめであっても、それを意図的に削除したり、見せなくしたりすることはありません。それは私の考える社会正義の実現(両論併記)を阻害することになるからです。
そういうわけで、私は微力ながら、このTogetterという産まれたばかりのサービスが、きちんと自立できるよう支援することに決めたのです。
資金と、サーバー運営費、そしてデザイナー、さらに、海外展開したい、という話もあったので、海外の展示会に連れて行ってブースを出したり、いろいろとやりましたが、基本的に経営はまず吉田さんに任せてみました。
UEIは大手企業のサーバー運営の経験が豊富なので、サーバーの拡張とサービスの安定化に関してはUEIの水野と宮島がTogetterのサーバーを実用レベルまで持って行きました。
ところがこの会社は、なかなかうまく立ち上がりませんでした。
様々な原因が考えられましたが、僕は根本的に吉田さんは優れた企画者で、技術者ではあるものの、経営マインドが足りないと考えるようになりました。いくらすぐれたプログラムが書けても、経営マインドを持っていなければ会社を成立させることはできません。
できればTogetterのようなWebサービスの運営だけで食って行きたいと主張する吉田さんを前に、僕は正直困りました。ふつうの会社なら、ここで受託開発の仕事を受けたりしてなんとか糊口を凌ぐのですが、どうしても自社のWebサービスだけでやりたいという話になると、とにかく圧倒的に資金と経験が足りていませんでした。
一年目の決算が赤字となり、さらに追加融資を申し込まれた僕は、さすがに会社の金を悪戯に浪費し続ける会社に対してお金は出せない、と言いました。UEIの取締役会も、それでは納得させることができません。
事業計画を見せてくれ、と言っても、なかなかちゃんとした事業計画が出てきませんでした。
僕自身も会社をゼロから立ち上げた経験があったので、事業計画を立てるのが難しいことは理解していましたが、それにしても、最初の事業計画はあまりに非現実的でした。いくらなんでもこの計画では、銀行や保証協会からお金を借りることもできません。貸すとしたらUEIが貸すしかないのですが、それにしても、事業計画がきちんとしてなければどうにもなりません。
そこで、吉田さんが開発者としてだけでなく、経営者として一人前になるまでの間、私が社長を兼任するということで取締役会の承認を得て、追加の融資を行いました。その後、様々な媒体との連動を進め、少しずつですが知名度が上がってきました。
私が社長を引き継いだ後、ようやく売上げも上がってきて、会社として体裁の整ったところまで来ました。そこで昨年から吉田さんをCOOとして復帰させ、この一年間、私は吉田さんがきちんと経営者として成長してきたこと、事業を管理し、拡大していく実力を兼ね備えたことを確認してきました。
海外版としてスタートしたChirpstoryも、今は東南アジアで絶大な人気を誇るサービスとなっているそうです。
そしてついに今期、トゥギャッター株式会社は当初の事業計画をプラスマイナス5%以内という精度で達成させ、しかも売上高は下振れしたものの、営業利益は上振れしました。
この結果を持って、再びUEIの取締役会を納得させ、この度、僕はめでたく、トゥギャッターの代表取締役社長のポストを、吉田さんにお返しすることができたのです。いまやトゥギャッター社は無借金・黒字経営の優良企業となりました。もう赤字を垂れ流すコスト部門ではありません。
当該エントリーでは一人で運営している、と書かれていますが、実際にはUEIから二名の社員が取締役として送り込まれ、ブレーンとして働くほか、外部の協力会社さんとの取引などもあり、一名ではとても運営できない規模になっています。
私はベンチャー投資をする時、自分自身がベンチャー起業家である経験から、単にお金を投じるだけでは技術者は経営者として育つことはないことを知っていました。
技術を経験していない人が技術者になれないのと同じように、経営を経験していない人がいきなり経営者になるのは難しいのです。
特に、サラリーマンから独立して起業する場合、技術者出身だと、技術はあるものの、経営がわからないために会社を潰してしまったりすることは良くあります。
そういうときに、お金だけ渡して「あとは自分で育て」と無責任に突き放すのは、投資家としての効率が悪いことも知っていました。実際のところ、それは死屍累々のベンチャー廃墟を産み出しています。
たとえ投資家であろうと、企業を経営する経営マインドを持ち合わせている人は少数です。
僕はこのブログのなかで繰り返し「人間が扱えるお金の量にはそれぞれの限界がある」ことを説明していますが、経営マインドをまったく持たない人に、何億もの資金を提供しても、それをうまく活用することができず溶かしてしまいます。
1億を運用するには、まず1億稼げるようにならないといけません。
1000万を運用するには、まず1000万を稼ぐべきです。
そうやって経営者は少しずつレベルアップしていくべきなのですが、何も考えずに大金をベンチャー企業に投じて、なにもできずに終わって行くパターンに比べると、投資先が成長するのをただじっと待つのではなく、一緒になって問題に取り組む姿勢が大切だと思います。
Togetterというサービスは、炎上を加速する装置としてしばしば問題になることがありますが、実は炎上コンテンツはTogetterの売上げにほとんど寄与していません。基本的に炎上を見に来るような人は、広告をクリックしないので、広告のPV当たりクリック数が下がり、ひいては広告単価が下がってしまうからです。
そこでTogetterでは、炎上しそうなコンテンツはなるべく目立たないようにする、などの工夫を行っています。また、ためになるコンテンツや楽しいコンテンツがなるべく多くの人の目に触れるよう、吉田さんが日々アルゴリズムを改善しています。
サービス運営に関するノウハウは、もう一つUEIが小額投資していた株式会社カマドの川崎さん(現ミクシィ取締役)の協力も大きかったと思います。
川崎さんは、ご存知の方も多いかもしれませんが、元はてなの副社長で、はてなのビジネス面を担当していた方でした。
彼に、「お得意さんにはなるべく広告を見せない」「営業はカテゴリーごとに行う」など、非常に貴重なノウハウを提供していただいて、Togetterもなんとか収益化できたというわけです。
(※追記 川崎さんのmixi日記にもこの頃の出来事が詳しく語られています http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=38&id=1906061380)
Togetterの関連エントリー検索には、UEIのOBで、当時PFI(プリファードインフラストラクチャ)のCTOだった太田一樹くんに頼み、彼らのSedueというレコメンドエンジンを使わせてもらいました。その後、太田君は独立し、今はシリコンバレーでTreasureDataという企業を立ち上げて注目を浴びています。
カマドの方はmixiに買収されてしまったのですが、川崎さんの尽力で、我々としては投資損をしなくて済むような売却金額になり、資金運用としては悪くない結果になりました。
ベンチャー企業の投資活動というのは、このように、シナジーを意識して行うことが重要です。
今回、こうして、代表取締役の任を降り、投資先の会社の本来あるべき姿に戻せたということは、私自身も経営者として貴重な階段を登ることが出来たということを意味していて、個人的にも大変喜ばしいことでもあります。
吉田さんには、Togetterに限らず、今後も様々な新しいサービス、世の中を変えるようなサービスを産み出して行って欲しいと期待しています。
吉田さん、社長就任、おめでとう。
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