【連載:インディーゲームの新時代②】開発費捻出の苦労と、新たなビジネスモデルの出現
読了時間:約 13分27秒
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前回の記事でお伝えした「Indie Game: The Movie」が6月12日に公開されたこともあって、日本でもインディーゲームに対する注目は日増しに強くなってきている。
映画は英語だがオプションによって英語字幕をつけることができるため、多少英語の聞き取りに自身がなかった私でも十分楽しめるようになっている。何よりもインディーゲームのクリエイターたちのバックグラウンドが動画で伝わってくるのは大きい。家庭用ビデオゲームで育った一番目の世代である彼らが、任天堂などの日本のゲームから多大な影響を受けていることが分かり、日本のゲームファンにとしても非常に嬉しくなる。
さてインディーゲームについて5回の連載にわたる本コラム。第二回目では、新たに登場してきたビジネスモデルについて焦点を当てたいと思う。
まず前回のおさらいとして、インディーゲームと他のゲームの大まかな違いを振り返っておこう。
近年のインディーゲームの発展が、主に「制作」、「流通」、「予算」という3点においてインフラが整備された結果であることは間違いないだろう。中でもダウンロード販売を可能にした「オープンな流通プラットフォーム」の整備が果たした影響は大きいことは、前回のコラムで指摘したとおりだ。
個人や同人による趣味の延長か、起業のための挑戦かに関わらず、質の良いゲームさえ制作すれば、これらのプラットフォームを利用して流通・販売することが可能になったのだ。そしてユーザーからの評価を獲得すれば、ビジネス面においても成功を収めることができる。
しかしながら、ゲーム開発は、他のクリエイティブな仕事に比しても非常に骨の折れるものである。プログラムコードを書くのは当然、グラフィックを制作し、BGMや効果音を作り、さらに数え切れない回数のテストプレイとデバッグ作業…。
制作規模が個人及び小規模のインディーゲームとなると、少ない人数で膨大な作業を行うことになる。これまでインディーゲームと呼ばれてきたものの多くは他の仕事の合間に開発を行うか、仲間内の持ち寄りの資金で制作されてきた。
だが、近年になってそれとは異なった形の開発費の捻出方法の可能性がいくつか見えてきたのだ。
累計ダウンロード数が1000万に到達しつつあるインディーゲーム界のビッグタイトル、マインクラフト。その制作者、Markus Alexej Perssonこと通称Notchは、子供の頃からプログラミングを覚え、数々のゲームを制作してきた。
Notchはオンライン・ゲームの会社King.comで働いていた2009年5月からマインクラフトの制作を開始した。5月17日に最初のバージョンを早々とネット上に公開し、ユーザーの要望を受け取りながら圧倒的なスピードでアップデートを繰り返していった。Notchはすぐさま4年間働いていたKing.comをあっさり辞め、マインクラフトの開発に集中し始める。
(マインクラフトの正式版リリースまでの詳細な記事はこちらを参照
「Minecraft 正式リリースまでの道のり、その進化と成功の歴史」
http://www.game-damashi.com/articles/201111/191229/)
この段階ではマインクラフトが現在のような成功を収めることをNotch自身もまったく予想していなかっただろうし、そもそもビジネスとしてのビジョンがどの程度あったのか自体も謎である。とにかく、ゲームが未完成の段階であっても次々に公開し、課金してくれたユーザーの要望を聞くことでコミュニティが成長していったのだ。
このように未完成のバージョンから得た資金によって、Notchは2010年の9月に友人らとゲーム開発会社Mojangを起業する。その後のヒットの速度も圧倒的なものだった。現在では数多くのプラットフォームに移植され、2012年6月現在においても一日10,000人以上が購入している。
このマインクラフトの成功の事例は偶然によるところも大きいだろうが、インディーゲームの開発費の捻出のためのいくつかのポイントが読み取れるだろう。
まず、とにかく未完成であってもゲームを公開して、ユーザーを集めること。この段階で得られる資金はわずかであっても、ユーザーからのフィードバックを活かすことによってコミュニティが成長する可能性がある。
さらに無料版を公開することによって、ユーザー層を拡大することも重要である。マインクラフトにはIDを登録をすることで無料でプレイできるクラシック版が存在する。このバージョンは他のバージョンとは違い、ゲームらしい要素は少なく、ただブロックを壊したり、組み立てたりするだけである。
Top 5 Minecraft creations houses
http://www.youtube.com/watch?v=kzQQOMCxTp4
だがプレイヤーの中には、このブロック建築にハマり、巨大な建造物を築きあげる人たちがたくさん存在する。YouTubeなどで「Minecraft」と検索すると、彼らが作り上げた建造物の巨大さとクオリティに圧倒される。このような動画がきっかけとなり、新たにプレイヤーとしてID登録する人も後を絶たないのである。
一方で、実際にはマインクラフトのような成功事例はまったくの幸運であったというべきかもしれない。
映画「Indie Game: The Movie」で浮かび上がってくるインディーゲーム開発の実体は、予想以上にシビアだ。今では成功としてみなされる「Braid」、「Super Meat Boy」、「Fez」というゲームの開発の裏側にも様々な困難が潜んでいる。
「Braid」は、現在では大成功を収めたインディーゲームであると言える。しかしながら、制作者のJonathan BlowはBraidの制作のために、3年に渡る歳月と200,000ドルという大金を費やしている(3年間に渡る生活費とグラフィックのためにアーティストのDavid Hellmanを雇ったことによる)。
また「Super Meat Boy」の制作者のEdmund McMillenはフラッシュゲームの開発で注目され、マイクロソフトや任天堂からそれぞれのプラットフォームでのゲーム開発のオファーをされた。
しかしMcMillenはパブリッシャーと組むことなく、インディーデベロッパーとしてXbox LIVE アーケードからフラッシュゲームの「Meat Boy」の続編をリリースすることを選択。Tommy Refenesとコンビを組んで「Super Meat Boy」の開発を始めた。
開発自体における苦労はもとより、パブリッシャーと組まないという選択をした結果、プロモーションにおいても非常に苦労が大きかったという。映画「Indie Game: The Movie」の冒頭ではリリースされたはずのゲームがXbox LIVE アーケードのメニューに表示されないことに憤慨しているシーンが出てくる。
完成版のリリース前から数々のアワードを獲得した「Fez」は、パブリッシャーであるマイクロソフト・スタジオから資金援助を受けて開発された。その影響のためか、制作者のPhil Fishは今のところXbox LIVE アーケード以外のプラットフォームからゲームをリリースする予定はないと述べている。他のプラットフォームへの移植を要望するユーザーの声が多数上がっているが、公式サイトには「今のところノーコメント」と表示されている。
さらに映画の中のインタビューでPhil Fishはビジネスパートナーとのトラブルによって、訴訟に巻き込まれていることを告白している。
従来のゲーム開発では、販売やプロモーションを行う販売会社(パブリッシャー)が実際にプログラミングやグラフィックを制作する開発者(デベロッパー)に予算を提供してきた。
デベロッパーはパブリッシャーからの資金提供を得ると、自由なゲーム開発と販売を行えない。一方、個人で開発費を捻出するのは多大なリスクを伴う。インディペンデントなゲーム開発のビジネスの側面はまだまだ課題は多い。
だが、これらのインディーゲームの開発の厳しさを解消する方法がまったくないわけではない。前回は、オープンな流通プラットフォームの成立が、インディーゲームが活躍しやすい土壌を作っていることを述べた。
ゲーム産業における「流通」の民主化が起こったわけであるが、インターネットの普及は「制作」や「販売」といった側面にも影響を与えている。
その一つが「クラウドファンディング」と呼ばれる新たな資金調達方法だ。
クラウドファンディングとは、あるプロジェクトを実現するために、インターネットを通して多数の人々(クラウド)から直接お金を集める手段のことである。プロジェクトには災害の復興や慈善事業といったチャリティーの側面が強いものも含まれるが、アーティストのライブツアーの支援、インディペンデント映画の制作、ITベンチャーの起業、そしてゲームの制作といったクリエイティブなものも非常に多い。
クラウドファンディングのシステムはサービスによって様々であるが、基本的な部分は非常にシンプルだ。プロジェクト企画者はプロジェクトの内容をウェブサイトでプレゼンテーションし、目標金額と締め切りを設定する。
プレゼンテーションを読んでプロジェクトを支援したいと思った人は、インターネットを通して一定の金額を入金し、締め切りまでに目標金額に到達すれば、ファンドは成立したことになり、お金はプロジェクト企画者側に渡る。一方、目標金額に到達しなかった場合は、ファンドは不成立となり、お金は支援者に返金される。
支援に対する見返りは、多くの場合、プロジェクトによって制作されたコンテンツの購入権などである。まったくの見返りを求めない寄付の形のクラウドファンディングや金銭的なリターンが発生する投資型のクラウドファンディングもないわけではない。だが投資型は法的な規制があるため、一般的とは言えず、その分かりやすさからも金銭以外の見返りがあるサービスが主流である。
例えば、ゲームの開発プロジェクトの場合、15ドルでゲームそのもの、30ドルでゲーム+サウンドトラック、60ドルでゲーム+サウンドトラック+Tシャツといった具合だ。このような形のクラウドファンディングは広い意味での予約販売とみなすことができる。そのため制作されるコンテンツのクオリティさえ担保されているのならば、ユーザーは安価な金額で単にコンテンツを購入するだけではなく、プロジェクトの支援者としての立場を得ることができるのだ。
このようなクラウドファンディングサービスで、現在、もっとも普及しているのがキックスターターである。キックスターターは2008年に登場したニューヨークに拠点を持つウェブサービス。映画、音楽、コミック、ガジェット、ビデオゲームといったクリエイティブなプロジェクトを支援するクラウドファンディングだ。
キックスターターが注目を集めるきっかけになったのは、2012年の2月9日に2件のプロジェクトが、24時間以内に100万ドル以上の資金を獲得したことだ。このプロジェクトのうちの一つが、Double Fine ProductionsというデベロッパーによるDouble Fine Adventureというゲームの開発であったのだ。
Double Fine ProductionsはGrim FandangoやPsychonautsといった個性的なゲームを制作してきたTim Schaferが率いるデベロッパーだ。彼の作るコミカルなアドベンチャーゲームはカルト的な人気はあったが、現在の主流なゲームからは離れていたため、予算を提供してくれるパブリッシャーは見つからないままであった。
Double Fine Adventure! // Kickstarter Pitch Video [OFFICIAL]
http://www.youtube.com/watch?v=qs_KO4_Dvy4
そこでキックスターターを利用して、直接ファンたちから資金提供を募ったところ、予想以上の反響となり、最終的には300万ドルを超える資金を獲得したのだ。これがきっかけとなって、Wasteland 2やShadowrun Returnsといった100万ドルを超える大規模なゲーム開発プロジェクトが成立し、多くのデベロッパーたちがキックスターターでの資金獲得を狙うようになってきている。
もちろん、この成功はクリエイターとしてのTim Schaferの人気(さらにビデオから分かる彼のお茶目なキャラクター)によるところが大きい。それにWasteland 2やShadowrun Returnsにしても、それらはすでにカルト的な人気があった作品の続編なのだ。そのため、新規のデベロッパーがキックスターターでこのような規模の資金獲得を狙えるかどうかは定かではない。
さらにクラウドファンディングという資金調達の方法それ自体にも欠点はある。
第一にプロジェクトが盗作や詐欺に関わっている可能性がある。実際に2011年5月、NY大学の学生が盗作の映画で1,726ドルの資金を集めたことが報じられている。また『Mythic: The Story of Gods and Men』と題されたRPGの制作プロジェクトでは、アートワークなどが他の作品からの盗用であることが判明し、プロジェクトがキャンセルされた。
これらの事例では集められた資金は支援者に返還されている。だが、そもそもキックスターター側は提出されるプロジェクトに対して品質の保証を与えることはほとんどない。支援については自己責任に負うところが大きいのだ。
また、支援者を募るためにアイデアをプロモーションするということは、プロジェクト企画者の側にはそのアイデアが流用されるリスクがある。ゲームのアートワークや音楽は著作権法において保護されるが、ゲームのアイデアそれ自体を保護するのは非常に困難だ。
さらに言うと、上述した資金獲得において成功したプロジェクトのゲームはまだリリースされていない。これだけ派手な資金集めを行っただけに、支援者がプロジェクトに抱く期待もまた大きいものであろう。だが、ゲーム開発においては予算の規模がその品質を保証するとは言い切れない。つまり、キックスターターによるゲーム開発費の捻出という手段が定着するには、これらのプロジェクトが一定の成功を収める必要があるだろう。
以上のように見てきたとおり、 近年になって個人や小規模のデベロッパーがパブリッシャーなどに頼ることなく、開発費を捻出する様々な可能性が見えてきた。どの方法にもまだまだ課題や問題点がある。
(これらの方法の詳細と問題点については以下の記事が非常に興味深い。
「多様化するゲームの資金調達方法―コミュニティと開発者の繋がり」
http://www.game-damashi.com/articles/201204/183047/
「金を出す人、作る人」
http://farfromearth.blog104.fc2.com/blog-entry-82.html)
ここで最後に今後リリースされる予定のキックスターター発のスマートフォンゲームをいくつか紹介していこう。
Official Republique Trailer
http://www.youtube.com/watch?v=emt01IYhQ-Q
「メタルギア ソリッド」や「Halo」という大型タイトルに関わったクリエイター、Ryan Paytonが中心となって開発中のゲーム。有名クリエイターが手がけるというだけではなく、iPhone向きとは思えないほどのリッチなグラフィック、シリアスな雰囲気が話題となり、キックスターターで55万ドルの資金を集めた。リリースは来年になる予定だが、すでにiOSだけではなくPC版も制作することが決定。スマートフォンのゲームではかつてないほど大規模なプロジェクトだけに、今後の展開が気になる。
Rival Threads : Last Class Heroes
Rival Threads : Last Class Heroes
http://www.kickstarter.com/projects/kontrabida/rival-threads-last-class-heroes-the-final-push
カナダのトロントのインディーデベロッパーのStudio Kontrabidaが制作している2DRPG。以前にキックスターターで集めた資金で前作にあたる「Last Class Heroes」の開発を行ったデベロッパーによる続編の開発のようだ。ビデオやサイトにあるビジュアルから分かるとおり、学園を舞台としながら、アニメ調のキャラクターがマリオネットを駆使してバトルするという内容。ある意味で海外版「ペルソナシリーズ」のような雰囲気である。絵柄は日本のマンガやアニメに影響を受けながらも独特なタッチで非常に興味深い。
締め切りは7月10日までだが、すでに目標金額を5,000ドルに到達している。5ドルの支援でAndroidとiOS版のゲームの購入権が与えられるので、気になった方はチェックしてみよう。
George Romero in Zombie Squash Game – Kickstarter Video
http://www.youtube.com/watch?v=VJI0ZE7xhl4
昨今の、スマートフォンでゾンビゲームの人気の過熱ぶりには目を見張るものがある。そんな数多あるゾンビゲームの中に一石を投じようと、なんとゾンビ映画の巨匠、ジョージ・A・ロメロが声で出演するゾンビゲームのプロジェクトがキックスターターで開始された。
目標金額は7,500ドルで締め切りは6月22日。ビデオを見る限り、ジョージ・A・ロメロが声で出演するという他は、カジュアルなタワーディフェンスゲームのように思え、支援者は今のところあまり集まっていないようだ。
以上、見てきたとおりインディーゲームにおける資金獲得の新たな方法が出現してきている。これらの手段が今後定着するかどうかはまだ分からないが、少なくともパブリッシャーからの予算に依存しない形のゲーム開発の可能性が開けてきたことは事実だ。
さらに比較的小規模な開発が可能なスマートフォンプラットフォームでは、これらの方法を利用して、今後ますますインディーゲームの活躍が期待できる。日本でもクラウドファンディングが徐々に浸透しつつあるため、「スマートフォン発のインディーゲームが大ヒット!」といった未来が待っているかもしれない。
【連載:インディーゲームの新時代】(完結済み)
①海外で巻き起こる個人制作、小規模開発者のムーブメント
②開発費捻出の苦労と、新たなビジネスモデルの出現
③ゲーム開発の民主化とゲームエンジン
④デジタル時代の新しい「価格」のあり方
⑤日本のインディーゲームの未来
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