【連載:インディーゲームの新時代①】海外で巻き起こる個人制作、小規模開発者のムーブメント
読了時間:約 9分13秒
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現在、世界のゲーム業界でもっとも活気に満ちているのはインディーゲームの世界!
本連載では、そんなインディーゲームについて、その特徴、ビジネスモデル、スマートフォンとの関係、独特な文化などについて5回の連載にわたって紹介していきたい。
まず第一回目はインディーゲームの概要とAndroidで遊べるインディーゲームの紹介。
まだまだ日本では聞き慣れない言葉である「インディーゲーム」。だが世界のゲーム業界を今もっとも盛り上げているのは、これらの個人や小規模な開発者によって作られたゲームだと言っても過言ではないだろう。
そんなインディーゲームの盛り上がりを示すものとして、インディーゲームの制作者たちに焦点を当てたドキュメンタリー映画「Indie Game: The Movie」は格好の事例だ。映画に登場するのは「Super Meat Boy」、「Braid」、「Fez」といった海外では知名度が高いインディーゲーム。どれもほぼ個人や二人組みでの小規模なチームで開発された独創的なゲームたちだ。
この映画は、海外のインディーゲーム制作者のコミュニティからの絶大な支持を得ながら、今年開催されたサンダンス映画祭でWorld Cinema Documentary Editing Awardを獲得した。
サンダンス映画祭は毎年アメリカのユタ州で開かれる映画業界の登竜門とも呼べる映画祭。この映画祭も「インディペンデント映画」を対象としている。
一般公開は明日6月12日。9.99ドルの価格でSteamやiTunesなどの各種プラットフォームでダウンロード販売される。そのため、今週からずっとインディーゲーム業界はちょっとしたお祭り騒ぎ!
映画の公開のタイミングを見計らったように、5月24日から6月1日の間、各種プラットフォームで一斉にインディーゲームのセールが行われていた。
だが、そもそも「インディーゲーム」とは一体どんなゲームを指すのだろうか?
一般的には、ゲーム販売会社(パブリッシャー)からの資金援助なしに、個人もしくは小さなチームで制作されたゲームを指す。
日本国内には、PCのフリーソフトの形で流通する「フリーゲーム」やコミックマーケットや同人ショップで流通する「同人ゲーム」といった言葉が存在する。だが、それらとインディーゲームを完全に同一視することはできないだろう。
というのも、現在のインディーゲームは小規模な予算での開発を行いながらも、大手のゲーム会社と変わらない流通、ビジネスとして成立する売上を獲得しているからだ。
上記の図は、説明のために大幅に単純化したものである。だが、近年のインディーゲームのめざましい躍進は、ITの発展の結果、これらの「制作」、「流通」、「予算」の主に3点におけるインフラの整備の結果であると言える。
制作や予算においてもインディーゲームは他のゲームに無い特徴を持っている。それらについては後の連載で紹介していくことにして、今回は流通の側面に焦点を当ててみよう。
近年のインディーゲームの躍進の理由の1つに、「オープンな流通プラットフォーム」の整備があるのは間違いない。これまでゲームといえば、任天堂やソニーなどの大会社がハードを開発し、制作・販売会社がソフトを開発して、小売店が販売してきた。
個人が趣味の延長でゲームを制作することはあっても、それらを家庭用ゲーム機を使って遊ぶことはほぼ不可能であったのだ。
だがインターネットとモバイル機器の爆発的な普及の結果、2000年代の後半から急激にオープンな流通プラットフォームが成立した。現在ではPCも含めたほぼすべての家庭用ゲーム機に、ダウンロードコンテンツを流通させるプラットフォームが形成されつつある。
これらの流通プラットフォームはパッケージソフトを小売するのではなく、有料・無料のダウンロードコンテンツとしてゲームを配信している。そのため流通コストが圧倒的に安価。結果として、小規模なゲーム開発者の参入が非常に容易なのである。
そこで脚光を浴びてきたのがインディーゲームというわけだ。
これまで趣味でゲームを制作しても、多くの人に遊んでもらうことはできなかった。だが、現在はこれらのプラットフォームを利用することで、多くの人に遊んでもらうことが可能になった。
クオリティさえ高ければ、個人が作ったソフトでも数万人規模のユーザーを獲得できる。そして、それらのゲームを制作するための資金集めの手段も登場してきた。さらに、ビジネスとして成功するゲームが次々に登場してきたのだ。
冒頭で紹介した「Indie Game: The Movie」で取り上げられたゲームは、主にXBox360やPCで遊べるインディーゲームばかりである。しかし、実際にインディーゲームが数多くリリースされ、市場のシェアをもっとも獲得しているのはAndroidやiOS端末といったスマートフォンである。
モバイル関連のデータ解析の最大手Flurryは、iOSやAndroidで起業した独立系開発者(independent game developers)と他のハードで既に成功を収めたゲーム会社(established gaming companies)の比較を行なっている。
そのデータによれば、2010年のユーザーセッションの60%が独立系開発者のゲームであり、そもそもスマートフォンのゲームにおいては初期から小規模な開発者の活躍しているのが分かる。
2011年に独立系開発者のゲームのユーザーセッションは56%と落ち込むが、Flurryはその理由をEAやZynga、DeNAといった大手企業がChillingo、Newtoy、Ngmoco、Gameviewなどの小規模なゲーム会社を買収したことによると分析している。
Indie Game Makers Dominate iOS and Android
http://blog.flurry.com/bid/82758/Indie-Game-Makers-Dominate-iOS-and-Android
この買収によるスマートフォンゲーム市場の統合の流れは現在も続いている。だが、今年の1月と2月のデータから推定した結果、Flurryは2012年のユーザーセッションのうち68%が独立系開発者によるゲームになると予想している。
つまり、全般的に見れば、iOSやAndroidなどのスマートフォンのプラットフォームにおいては、独立系開発者が既存の大手ゲーム会社を圧倒していることになる。
もちろんここで言われる「独立系開発者」によるゲームと、冒頭で紹介したSuper Meat Boy、Braid、Fezといった「いわゆるインディーゲーム」をまったく同じものとすることはできない。スマートフォンで活躍する独立系開発者といっても制作されるゲームは多種多様である。
もともとモバイル向けゲーム企業から出発し、Angry Birdsで大成功を収めたフィンランドのRobioは21世紀の「ディズニー」になるべく、上海にテーマパークを建設予定だ。
Temple Runが大ヒットしたImangi Studiosはアメリカ人夫妻とその友人によるたった三人の会社だが、ディズニー映画とコラボレーションを予定している。これらのデベロッパーはカジュアルなゲームから出発し、総合エンターテインメント企業を目指しているようだ。
他方、ディズニーやUbisoftという大手販売会社のもとで開発を行いながらも、近年になってSuperbrothers: Sword & Sworcery EPという極めて作家性が強くアーティスティックなゲームを制作したCapybara Gamesのようなデベロッパーも存在する。
さてビジネス面の話が続いたが、ここでAndroidで遊べる代表的なインディーゲームをいくつか紹介することで、本コラム1回目を締めたいと思う。既存のゲーム会社から独立したデベロッパーのゲームという意味ならば、Androidにはあふれるほどインディーゲームが存在することになるが、ここでは現在のインディーゲームの雰囲気を強く反映したものを紹介したい。
マインクラフト – ポケットエディション
http://appget.com/appli/view/60050
累計1000万ダウンロードという驚異的なセールスに到達しつつあるマインクラフトシリーズ。制作したMarkus Perssonこと通称Notchは、企業からの買収を断りながらも現在では会社を立ち上げた実業家になった。
グラフィックはドット絵のようだが、ゲーム性は3Dで一人称視点。レトロな雰囲気と現代的なゲーム性をあわせもったそのデザインはインディーゲームの世界に多くのフォロワーを生み出した。
http://appget.com/appli/view/60439
マインクラフトとは対照的に二次元での絵画的表現を追求した独創的なパズルゲームのワールド・オブ・グー。もともとWiiのダウンロードコンテンツであるWiiウェアで発売され、大ヒットし、スマートフォンに移植された。デベロッパーの2D Boyは名前の通り、2Dのゲームを2人で制作している。
http://appget.com/appli/view/60884
スマートフォンの普及で一気にポピュラリティを得たゲームジャンルのタワーディフェンス。アノマリー ウォーゾーン アースは、そのゲーム性をそっくりそのまま逆転したなんとも独創的な戦略シュミレーションだ。デベロッパーの11 bit studiosは、90年代初期から活躍するベテランのゲーム開発者たちが立ち上げたポーランドの会社だ。
http://appget.com/appli/view/61396
マインクラフトがそうであるようにインディーゲームの中には、完成前のアルファ版をリリースしながら、ユーザーのフィードバックを受けて開発されるものも多い。このデルバーもまだ未完成ながらも、ユーザーコミュニティが成長しつつあるインディーゲームだ。ドット絵ながらも3D視点のダンジョンRPGというまさにマインクラフト直系のゲームだ。
冒頭で大規模セールを紹介したが、実はこれはBecause We Mayと題されたインディーゲームデベロッパーの合同イベント。
彼らは「自分たちの制作したゲームは、自由な値段をつけて販売することができる」というポリシーのもとに集まったデベロッパーたちなのだ。そして、そのような自由なゲーム販売の環境を作り上げたApp Store、Google Play、Steamなどの流通プラットフォームを祝して、この大規模セールを合同開催したのだ。
まさにオープンで自由なプラットフォームに芽吹いたインディーゲームを象徴するような草の根運動。GoogleやAppleが築き上げたスマートフォンのプラットフォームは、そんな彼らの活躍の場所を提供したのである。
【連載:インディーゲームの新時代】(完結済み)
①海外で巻き起こる個人制作、小規模開発者のムーブメント
②開発費捻出の苦労と、新たなビジネスモデルの出現
③ゲーム開発の民主化とゲームエンジン
④デジタル時代の新しい「価格」のあり方
⑤日本のインディーゲームの未来
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