【PC遠隔操作事件】被疑者が述べた全てを公開

江川 紹子 | ジャーナリスト

被疑者の片山祐輔氏の自筆メモ

警察や検察の録音・録画拒否が続き、被疑者片山祐輔氏の取り調べは今なお進まない。現時点で最も詳細な彼の供述は、2月26日に行われた勾留理由開示公判での意見陳述だろう。以下は彼の語った全て。検事2人も同席していたが、質問は一切行わなかった。

江ノ島の猫との接触は?

弁護人(佐藤)

ーー昨年末、雲取山に行ったことがあるか、あるとすれば写真を撮影したか、その手段は何か、その映像は今どこにあるか、犯人が送った写真と同じものがありうるかについて説明してください。

片山「まず雲取山に行ったのは、昨年末というよりも1 2月初句の頃です。登山をする前日に奥多摩湖の近くに行き、車中泊をし、当日早朝から登って 日帰りで下りてきました。雲取山の山頂まで登って、富士フィルムのコンパクトカメラで風景の写真を撮りました。そのカメラは、 1 2月半ばから下旬にかけてタイに旅行に行ってきたのですが、その時に旅行先で紛失してしまいました。そのとき撮った写真の中に、犯人が送りつけてきた写真と一致するものは絶対にないはずです。

ーー今年になって江ノ島に行ったことがあるか、それはいつか、交通手段、到着時刻、その後の行動、本件で問題になっている猫に接触したり写真を撮った可能性があるのか。あれば撮影の手段、その映像は現在どうなっているのか、犯人が送りつけたとされる映像がその媒体から復元されたという事実があり得るのか、猫に首輪を付けたことがあるのかどうか…について述べてください。

片山「今年、正月の1月3日にバイクで湘南方面に行きまして、その時に江ノ島に立ち寄りました。おそらく2時頃に江ノ島に到着したと思います。その後、島の正面入口から商店街を通り、奥の石段を通り、神社にお参りして、その後、島の頂上辺りを散歩した後、また商店街まで下りてきて、タコ煎餅とか釜揚げしらす丼とかを食べて、その後、バイクで島から去りました。野良猫が沢山いたので、途中いた猫の写真を撮りました。

事件で問題になった猫の写真を撮った可能性もありますし、私が接触した可能性もあります。しかし、首輪を付けたことは全くありません。その写真を撮ったカメラは、私が当時使っていたスマートフォンです。そのスマートフォンは、本体メモリーに保存する設定になっていたのですが、その後、鑑賞して楽しんだりしたのですが、1月半ば頃に携帯を機種変更して、古い方の携帯をショップに売ってしまったので、その画像は初期化されて消えてしまったと思います。

「真犯人」が送りつけた猫の写真
「真犯人」が送りつけた猫の写真

犯人が送りつけた猫の写真と向じ写真が残っていたとする報道が一部ではあるようですが、私が撮影したものではなく、後にニュースサイトを見て、掲載されていたものがキャッシュ、つまり一時保存されていたものでしかないと思います。もし、私が撮影したものであれば、写真を撮影したときに格納されるフォルダに、元の解像度、つまり大きさのまま格納されているはずなので、そんなことはぜったいにないと思います。

ーー猫に触れた時刻と場所、そこを離れたのは何時頃か、江ノ島を離れた時刻,問題の猫に触れたときに既に首輪を付けていたのかどうかを説明してください。

片山「頂上の辺りを散歩していたのは2時半から3時半くらいの間だったと思います。問題の猫に触れたのは、正確ではないですが、3時前後だったと思います。その猫に首輪がついていたかどうかは、あまり注意していなかったので気がつきませんでした。島を離れた時刻は5時前だったと思います」

ーーその問題の猫に触れた可能性があるということですが、どんな形で触れたのですか。

片山「触って撫でたり、座って膝の上に乗せたりしました」

ーーそのときに座布団を用意したということはあるのですか。

片山「座布団を用意したことはありません」

ーーあなたがショップで売った携帯は警察によって回収されていることを、いつ知らされましたか。

片山「逮捕後です」

ーーそういうことは予想していなかったですか。

片山「全然、していませんでした」

ーー売る時、データがどのような処理をされたか知っていましたか。

片山「ショップの人が初期化してくれました」

ーーショップの人がしたのですか。

片山「私も一度しましたが、その後ショップの人がどうしたかは分かりません」

ーーショップの人も初期化したのですか。

片山「多分、初期化したと思います」

米国サーバーの”痕跡”は「心当たりない」

ーー派遣先のPCから匿名化ソフトのトーアを介したり介しないで「2チャンネル」とか「したらば掲示板」 にアクセスしたことはあるか。あるとすれば、そこで何を閲覧したのか、書き込みをしたことはあるか。派遣先PCでDropboxにアクセスしたことがあるのか、アメリカのDropboxのサーバからあなたが使用していた派遣先のPCからアイシス・エグゼという遠隔操作プログラムの痕跡が発見されたと言われているが、思い当たることがあるか。今の問題について警察官や検察官から質問を受けたかどうか。

片山「まず「2チャンネル」や「したらば掲示板」にトーアを通じてアクセスしたこともありますし、 トーアを通じないでアクセスしたこともあります。どういうものを閲覧していたかというと、仕事に必要な情報収集や息抜きに趣味のサイトを見たりしました。書き込みについても同様で、仕事に必要な質問を書き込んだことがあります。

Dropboxについては、事件とは全く関係なく自分自身のDropboxのアカウントを持っていて、それにアクセスしたことはあります。アメリカの方からアイシスの痕跡が発見されたということについては、全く心当たりはありませんし、そのことを捜査官から言われたことも一回もありません」

ーー(アイシス・エグゼが作られた)C#についてのあなたの知識や能力は?

片山「C#については、自分でプログラミングを作って仕事の成果物を作ったことはありません。人が作ったプログラムをテストしたことがある程度です」

ーーあなたが昨年末から今年の2月にかけて会社を休んでいましたが、その原因や経過は?

片山「仕事に集中できない、仕様書やプログラムが読めない、書けないという原因不明な症状に陥ってしまい、精神科を受診したところ、医者に休んだ方が良いと言われ、上司に相談して休職させてもらうことにしました」

ーー去年の暮れから今年の1月に掛けては、プログラムは読めないし、書けない状態にあったのか。

片山「症状としては,去年の秋ぐらいからです」

ーー会社を休む前からですね。

片山「そうです」

ーーあなたの自宅のコンピューターを警察は押収しているが、そのPCからあなたが不正プログラムやウイルスとかハッカーのサイトとかに興味を持っていたという痕跡は見つかると思いますか。

片山「ないです。そういうようなものには興味がなかったですし、見たこともないです」

ーー自宅や派遣先のPCからあなたが本件の犯行に関連することを行ったということはありますか。

片山「ありません」

訴えたいことは「無実」

弁護人(竹田)

ーー今回の被疑事実が遠隔操作事件であることを最初に知ったのはいつなのか。被疑事実にある平成24年8月9日午前10時37分ころから午前10時42分ころまで、どこにいて何をしていたのか。今、警察官や検察官、裁判官に訴えたいことは何か。

片山「逮捕された時点では、コミケに殺害予告をしたとしか書かれておらず、遠隔操作事件の関連だとは分かりませんでした。それが分かったのは、逮捕された日の夕方に取調官から、それをにおわすようなことを言われた時が初めてでした。次に8月9日の午前中は派遣先の会社で仕事をしていました」

弁護人(木谷)

ーー犯人が送ってきたフィギュアの写真を知っているか、その写真を撮影したことがあるか、その人形を購入したことがあるか、あるとすれば,いつ,どのように購入したのか、現在どこにあるかを話してください。

片山「犯人が、写真にあったフィギュアを送ってきたというのですが、その犯人が送りつけたメールに、その人形が写っていたことは知っています。私も同じ形の人形を一昨年の夏の発売日にネットの通販で買いました。その写真を撮ったことはありませんし、犯人が撮ったような写真を撮ったこともありません。そのフィギュアがどこにあるかと言うと、一昨年の年末に大掃除したときに捨ててしまったと思います」

裁判官

ーー先ほど弁護人から促された、今訴えたいことは何かということを述べてください。

片山「私は遠隔操作ウイルス事件の犯人ではありません。どうか無実だと分かってください」

江川 紹子

ジャーナリスト

早稲田大学政治経済学部卒。神奈川新聞社会部記者を経てフリーランス。司法、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々。著書『人を助ける仕事』(小学館文庫)、『勇気ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)など。

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