河北春秋
「人が踏み込んだ分だけ戻されただけ 空も海も地も 人の心の中にも」。赤々と火がおこされたいろり端で、純米酒のラベルに書かれたこんな警句に目がいった▼気仙沼港にほど近い居酒屋「福よし」は港に揚がった魚の料理で全国に知られる名店だ。東日本大震災の津波で店は全壊したが、多くのファンに背中を押され、昨年8月に再建を果たした
▼ラベルの警句は店主の村上健一さん(63)が自ら筆を執り素直な心情をつづった。「人間が思い上がっていたんだよ。何にでもずかずか踏み込んで。自然にまで」と嘆く▼リアス海岸地形で山が海に迫り、平らな土地が極端に少ない気仙沼市。港町の発展は、海岸埋め立ての歴史とも重なる。藩政期から明治、大正、昭和にかけて湾を埋め立てては、土地を広げ、良港を築いてきた
▼その間何度も津波に襲われたが、埋め立ては進められた。その新開地が今回の大津波で壊滅した。本来は海と陸の、あるいは自然と人との緩衝地帯であった浅瀬を、陸に造り替えてよしとする「思い上がり」があったのでは▼海と共に生きる人々は古来、海を畏れ敬ってきたはずだ。「今まで下に見ていた海が 今は上に見えるような気がする」。店にはこんな詩もさりげなく掲げられていた。
2013年06月30日日曜日
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