一年前に書いたものなので、矛盾とか沢山あるかもしれません。
そんな感じで、この世界の雰囲気をお楽しみ下さい
第一話-猫耳生えた-
第一話 -猫耳生えた-
……むう眠い。
最近夜更かしのしすぎで起きるのが辛い……。
姉が「眠気に効く特効薬!!」といって出してくれたヤバそうな薬を服用した時は一日中トイレとお友達状態であった。
そう。姉は科学者である。
正確にいえば、「腐れマッドサイエンティスト」なんだろうが。「新しい薬が出来た!」と言っては服用させられる。
眠気覚ましの他に色んな物を開発している。
例えば「足が早くなる薬」を飲まされた時は、確かに体育祭で断トツ一位になれたは良いものの、その後激しい筋肉痛が襲ってきて病院へ一直線だった。
もういつもいつもこんな酷い目に遭ってる俺である。
まあ姉のお陰で飯を食っていけるのだから文句は言えない。
そんな訳で今日も寝不足です。
昨日はコー○ギアスをフルコンプしたからなあ……。
気付いたらもう朝の4時だった。
俺は寝癖を治すために鏡を持って来た。で、鏡を見ると……。
「おい、ちょっと待てよ……」
まさに言葉の意味そのままである。頭の上に違和感。
自分の手でも触ってみる。
「なんだよこれ……」
頭の上にあるソレを引っ張ってみる。
痛いだけで取れそうにない。
これは……
「なんで猫耳が生えてんだああああ!!!」
また姉貴か!!あの野郎!!よくも!!
・・・・・・・・・
俺は姉貴の研究部屋の前まで来ていた。
そして勢いよく扉を開けた!
「姉貴ッ!!」
「おおぅ。なんだい弟よ・・・・ぶわっはっはっはっは!!!」
俺の姿を見るなり笑出しやがった。うぜえ。
「いーっひっひっひっひっひ!!!」
「これどうするんだよッ!!外れねえぞ!!」
そこでようやく姉の笑いが静まってきて、やっと質問に答えてくれるようになった。
もう泣いてるんだか笑ってるんだか分からない状態だ。
「あーっはっはっは……。ごめんねぇ!それで弟君はどうしてこうなったんだか覚えてないのかなっ?」
昨日の出来事を思い出してみた……。
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<回想シーン>
「出来た!やっとできた!」
研究部屋から勢いよく出てきたと思ったら、真っ先に俺の居るテーブルまで来る姉。
嫌な予感しかしない。
予感は正直 ホラーハウス!
ア″ッ!!
「今度はなんだ……?」
「早速飲んでみて!」
テーブルに置かれる不気味な色の錠剤。これは何の薬だろうか?
「まてまて。まずはこの薬がどんな効果があるのか教えてもらおうか。まずはそれからだ。」
「それはねー。禁則事項です☆」
人差し指を口元に持って来てさらには「てぃへ♪」とまで言いやがる。
「朝○奈さんのモノマネしてんじゃねえよ。という事で俺は寝まーす。おやすみー」
と言って開放してくれる姉ではないという事は分かっていたので、後ずさって自分の部屋へ逃げようとしたのだが・・・。
「って?!なんで鍵かかってんだ?!」
それを見て口を三日月みたいに曲げる姉。
まるでひ○らしのしぃちゃんみたいだ。
「さっき部屋から出る時ね、ついでにあなたの部屋の鍵も閉めちゃった訳♪」
やべえ……姉が俺の事を「あなた」って言う時は怒っている時か「急進派」になっている時だ……!
「人は、やらなくて後悔するよりやって後悔した方が良いって言うじゃない?」
「あの……姉さ……!」
「あなたにこの薬を飲ませて、あなたの変化を見る♪」
まずい!目が朝倉になってる!
こうなった姉はもう誰にも止められない!!
「じゃあ飲んで♪」
目にも留まらぬ早さで襲って来た姉に対抗する術がなく、見事にコークスクリューが決まった俺は伸びてしまった。
…………これ以降俺の記憶はない。
気付いたら「これゾン」が始まる時間になっていた。
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「随分長い回想シーンだったねえ!」
「ああ。お陰様でな!!」
俺は思いっきり嫌味ったらしく言ってやったが、どう解釈をしたのか全く見当違いな返答が帰ってきた。
「褒められちゃった!てぃへ♪」
「いや、褒めてねえから!全然褒めてねえから!」
ある意味最強の姉である。
この姉だったら例え「死ね」と言われても
「まあ!私に死ねって言ってくれるだなんてっ!こんなに私を思っていてくれたのね!!分かってるわ!あなたはただ愛情表現が歪んでいるだけなのっ!私はそんなあなたの事が好きよお!!」
なんていう展開になりそうなほどポジティブ思考の持ち主である。ポジティブ王決定戦ってのがあったら絶対優勝してるぜ。
「というか、これどうすんだよ!!今日学校だぞ!!こんな格好で外歩けねえよ!!ましてや学校なんて尚更だっ!」
「むう……仕方がないわねえ……。じゃあこれ使う?」
姉が持って来たものはただの包帯であった。
ただ、姉の持ってるものだ。不安なのでこの物体はなんなのか一応訪ねてみた。
「え?普通に包帯だよ?これを猫耳のある所にぐるぐる巻きにすれば気付かれないだろうと思って」
珍しく正論を言ってる……。
今日は土砂降りの雨か?
「どうやって巻くの?」
「こうやるんだよ♪」
すると姉は上手い具合に包帯を巻いてくれた。
「こんな感じでどうだいっ?」
鏡で見せてもらった姿は見事に猫耳が隠れて「頭のてっぺんを打ち付けて怪我しましたー」風になっている。
猫耳がないだけましだ。
これは余談だが、ちょっと猫耳辺りに圧迫感がある。
これも猫耳が俺の体の一部になっているからか?
「うんっ!頭は良しっ!問題はこれなんだよなあ……」
そういって俺の後ろに回る姉。
それでなにかを鷲掴みにした!
「うひゃ?!」
「もうっ!変な声出さないのっ!」
姉が掴んでいたモノ……
それは…………
爬虫類や哺乳類の動物達にほぼ必ず付いているアレである。
付いてないのはほぼ人間だけと言って良いほどのモノである。
「問題はこのしっぽなんだよね……」
「なんでしっぽまで生えてんだよ?!」
「だってそりゃーさ、猫だもん。やっぱり耳だけじゃリアリティーないしぃー……。どうせなら……ね?」
「ね?じゃねえよ!!……仕方ない……。制服の中に隠すよ。体育は……欠席しよう」
あんな顔で言われちゃあもう責める気になんないよ……。
とりあえず制服を着て猫のしっぽを隠した。
「これで上手く隠れたと思うけど……。どうだ?変な所ある?」
「いーや!どこもないよ!ノープロブレム!!」
「だったらいいけど……」
もう時間もギリギリだったので朝食を急いで食べた後、姉に「いってきます」とだけ言って家を出た。
慌てて家を出た俺は、しっぽと猫耳を気にしながら歩いていた。
しばらく歩いた所で友達に会う。
「おはよー!あれ?頭どうしたの?」
「んー?ちょっと怪我してな。うん。ただそれだけ」
「どーせ"頭のてっぺんを打ち付けて怪我しましたー"とか言うんだろ?」
なに?!こいつなぜ分かる?!
だがこれは単なるハッタリと言う可能性がある。
だがここで下手に嘘を付いて感づかれると厄介だ!
ここは……。
「よく分かったねー。正解!」
「はっはっはー!だろ?俺の目は誤魔化せない!……所でいつ怪我したの?」
!!!こいつ!遠回しな言い方をしながらもどんどん確信に迫っている……!
ここは適当に嘘をでっち上げて上手くかわすしかないッ!!
「いやー、ちょっと姉の部屋に行こうとしたら大変な事になってねー。あははは……」
「良いよなーお前の姉さん。美人で愉快で!本当お前は恵まれてるよ!」
「ま、まあな」
上手くごまかせた!この調子で行けば!
「てかお前"夜神"かっ!考え事してるのバレバレなんだよ!」
ちっ!バレてたか・・・こうなったら・・・。
「どーせノートに名前書くんだろ。俺は死なないけどな!ははは!!」
あ~……全てお見通しかい……。
プルルルルル…………
「あ、電話だ。あー悪い!先行ってて!」
誰からだ?ん?姉?
「あ、もしもし?言い忘れてたけど、あの薬のお陰で猫さんにモテモテになっちゃうかも。……おーい?聞いてるか?」
「なあ?さっきからお前の周りに猫が寄ってたかって来てないか……?」
「ああ。本当だ。逃げるか……!」
「あちゃーもう遅かったかー。それじゃね!」
「「逃げるが勝ちィィ!!」
猫ども「にゃーーーー!!!」
この後二人で学校まで走ったのは言うまでもない。
-------------学校にて
「ねえ?その頭の包帯どうしたの?」
あ!そういえば包帯してたんだっけ・・・?
猫から逃げるのに必死で全く気が付かなかった。
ちょっと外を見てみると、体育科教師が一生懸命猫の大群を食い止めている。
まるでリアルバイオハザードだ。猫のな。
キャットハザードとでも呼ぶべきか?
とりあえず頭の包帯について質問して来る奴を適当に足らっていたら、もうHRの時間になってしまった。
「えーでは出席をとるぞー。愛橋。伊藤……」
担任の適当な出席確認をぼんやり聞いていると、何時の間にか自分の番になっていた。
間抜けな返事をしてしまったので、皆に笑われた。ほっとけ。
「所で……頭どうした?」
ようやく俺の頭の包帯に気付く担任である。
それにしても、担任も声かける程だからよほど大きな傷に見えるのだろう。
「いや、この傷はですね……」
適当な理由をでっち上げて上手く話しを繋げておいた。
「おう。そうか、分かった。その怪我じゃ今日の体育は出られんな。下手に動いて傷口が開いても良くないし。今日は安静にしていろ。いいな?」
「はい」
こんな事を言われてNOと答える奴は居るだろうか?折角クソだるい体育を休める絶好のチャンスだ!
……いや居るか。元気一杯で育ち盛りな少年少女君達は多分安静にはしてないだろう。
という事でだるい一時間目の授業が始まった。
一時間目の授業は英語。
やけに発音の良い教師が授業をしている。
俺は適当に怠けて殆どこの授業は頭に入っていかなかった。
当たり前か。
外を見ると、流石に猫の大群は退陣したようである。
やれやれ。ラク○ンシティーの危機は免れましたか。良かったよかった。
そんな感じで昼休みまで睡眠授業をしていた俺であった。
こうしているうちに、昼休みの時間になった。
「なあ、本当はその包帯の下になにかあったりするんじゃないのかー?」
「……!」
不意の質問に動揺してしまう俺。
俺にジリジリ責め寄って来る友達。
逃げようとしたが、誰かに羽交い締めされててなにも出来ない……。
圭ちゃんの気持ちがよく分かるよ……。
後ろにいるのは竜宮レ○さんですか?
って考えてる場合じゃねえ!!!
「この包帯をはずしてやるぅぅ!」
「辞めろお!!!!」
ああ……記憶が走馬灯になって駆け巡って行く……。
みんな死ぬ時こういうの見るって聞いてたけど……。
こんなタイミングで見るだなんて……。
じゃあねキョ○くん♪
涼○さんとお幸せに♪
じゃなくて!
何変な事を考えてるんだ俺えええ!!
スルスルと取られた包帯。
その下に待っていたのはヘヴン!!
じゃなくて……。
直に生えた猫耳だった……。
勿論、それを見たこいつらは黙っているはずがない。
「おい?この耳なんだ?取れないぞ?」
「いや、これはだなー。……逃げるが勝ちィィ!!」
「おいこら待てェェェ!!!逃がすなァァ!!」
まるでGTAに出てくる主人公の気分だ。
因みに手配度は★6つな。
SWATやらFBIやら挙げ句の果てに戦車まで手配されてる気分だ。
「うおるぁ!!待てぇやぁ!!」
たかが猫耳一つでここまで熱心になれるとは……。
奴ら大石さん並にしつこい!!
「あ?!しっぽまで出しやがってぇ!!何がなんでも捕まえてやらぁ!!」
まずい!隠してたはずのしっぽがっ!!
ますますやばい!!
地球に隕石が落ちて恐竜が絶滅したくらいヤヴァイ!!
「逃がすなァ!!」
-----------
ピンポンパンポーン♪
ここでお姉さんからの豆知識♪
なんでみんながこんなに熱心に弟君を追いかけているのか説明しまーす♪
実はあの薬は近寄った人にモテモテになるという効果もあります。
多分一番身近にいた、友達君一派にその影響が現れたのでしょう。今弟くんは学校中を走り回っているはずですから、そのうち皆さんが弟君を追いかける事になるでしょう。
え?「どうみても敵意丸出しじゃなかったか」だって?
愛情表現は沢山あるんですっ!
それじゃ、弟君頑張ってね!
GOODLUCK!
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ん?なんか空から姉の声がしたような・・・。
ってかもう既に追いつかれそうなんですけどー?!
「まてーやー!!」
「キャーかわいい!!」
「はぅー!かぁいいよぅ!お持ち帰りぃ!」
なんか今度は女子の声が聞こえてくるようになったよ?!
なんか感染者が増えた!!
Tウイルスにみんな感染してるんだけど?!
「いたぞー!裏口だ!」
今度は先生まで感染しやがった!!
マジでHO○Dだ!違うのは理性があるかどうかだけだ!
とりあえず体育館倉庫に隠れよう。
「あいつどこ行った?」
「さっきまで裏口にいたみたいだが?」
「よし、その近辺を探せ!」
ダッダッダ・・・
ふう・・・とりあえずやり過ごした。
俺は心臓が木っ端微塵に張り裂けそうになるくらい緊張した足取りで倉庫から出た。
「ねえ?君?君が噂の子かな?」
くぁwせdrftgyふじこlpー!!
「ビンゴのようね♪」
まずい……! このままでは俺も捕まってしまうのか……?
「心配する事ないわよ♪ その猫耳としっぽ、本当にキュートね♪ 本当に直に生えてるの?」
ジリジリと近寄って来る女の人……
俺は隙を見て出口のほうへ駆け出した!
「あ!ちょっと!……行っちゃった……。(朝倉さんみたいな事をしたからかなあ?)」
やっとの事で学校を抜け出し家までたどり着いた。
途中、猫どもにモビルスーツに全力で追われるような勢いで追いかけられたが、どうにか撒いたみたいだ。お陰でヘトヘトだ……。
そういえば俺って今日早退扱いになるのかなぁ……。
なんか……この扉を開けると何か不吉な事が起きそうなんですけど……。
バタンッ!!
「ぜえぜえ……姉貴ぃ……帰ったぞ……!」
不吉な予感を取り払うように勢いよく扉を開けたが、帰ってきた返事は意外と普通の物だった。
「おっ!早いねぇ!!」
「何故か猫と人間に追われたぞ……この猫耳ただ事じゃないぞ……」
「やっぱり?凄いね!弟君はモテモテだ!いいないいなあ!!」
「この状況でそんな事言ってられるかあ!!」
「言ってられるから姉なんだよ☆てぃへ♪」
この人脳みそにウジ虫でも湧いたか?全く会話が成立しないんですけど……?
「そんな弟君に朗報だよ!この服を着てアキバに行こう!今日は金曜日だし!きっとモテモテだよ♪」
そう言ってセーラー服を取り出す姉。
おーい……ついに姉さんの頭の中はお花畑になっちゃいましたか……。
うーん……そこらにドリル落ちてないかな?
この人の脳内を覗きたいんですけど……。
「一応聞きますが、この猫耳&しっぽの状態でさらにセーラー服まで着て更に更にアキバに行くんですか……?」
「当たり前じゃない♪ その為に用意したんだから!」
「拒否権はあるわけないですよね?」
「勿論!」
やれやれ……。
ついに俺は越しちゃいけない一線を超えた気がする……。
もしかしたら今だったら逃れられるかもしれん!
という事で玄関に向かって走ったのだが……
「あら?また会ったわね♪ 何かの運命かしら♪」
なんか居たァァ!!
さっきの人居たァァ!!
なんで?なんか怖えよ!
なんで居るのさ?!
「あ!いらっしゃい!弟君に紹介しておくね。この人は私の研究を手伝ってくれることになった……」
「桐島麻美です!さっきはいきなり話しかけちゃってごめんね!これからもよろしく!」
なんだ……
そういうことか……
「あ、どうも。こちらこそよろしくお願いします」
「これから手伝いに来てもらう事になるから、弟君も仲良くするんだよぅ!」
「うん。了解」
俺の学校にまさか姉の研究を手伝える程頭が良い人が居たとは……
「という事でぇー!お互いの自己紹介が終わったわけだしぃ!早速弟君にはこれに着替えてもらおうか♪」
頭がお花畑なのは別として!!
「麻美さん……。僕外に出たいんでどいてもらってもいいですか……?」
「麻美ちゃん、弟君を捕まえて……」
おいおいおいおい!!!
ちょっとタンマ!!いくら女子といえど二人には勝てん!!
挟み撃ちだ!!
「ふふ♪ そういう事みたいだから♪」
「不幸だああああああ!!」
この後、二人の連携プレイで拉致られたのは言うまでもない。
そして、姉の車に強制連行させられた。麻美さんは姉さんの研究部屋を整理するとか何かで俺らとは一緒に来ない様だ。
「さあ!弟君っ!アキバにれっつごー!」
「……」
結局セーラー服に着替えさせられた俺であった……。
くそっ!セーラー服に猫耳&しっぽって完全に萌えキャラじゃねえかああ!!
これ罰ゲーム?何かの罰ゲーム?
「大体なんで猫耳にさせたんだよ……。これだったら猫耳カチューシャで十分じゃないか!」
「分かってないねぇ弟君っ!そんなものじゃ本物の猫さんの気持ちは分からないっ!でも直に生えていたらどうだろうっ!猫さんの気持ちも自然とわかる様になるっ!そういう訳だ!」
まるでイン(ryさんの様な事を言う姉。
「俺は全く分からんが……。というか猫とアキバは関係ないだろ!それにこの首輪はなんだ!」
「大有りだよっ!弟君の晴れ舞台をみんなに見てもらうんだからっ!それに首輪があってこそ猫ちゃんじゃない♪」
晴れ舞台ねえ……。
俺にとってみれば年中黒い雲に覆われ、雷がゴロゴロ鳴っている魔界にいるようにしか思えないのだが……
飽き飽きだぜ……逃げろ!!
しかし、回り込まれた!
「さあ!着いたよ!アキバをぐるっと回ろう!」
ついに地獄に到着したか……。良し、まずドアを開けたら一直線に駅のほうに向かって逃げるっ!
逃げるが勝ちだ!
「はいどーぞ♪」
ドアが開けられたッ!
今のうちだ!
「うおおおお!!!」
「あ!弟君!待ってぇぇぇ!!」
すまんが帰らせてもらうぜ!
run away!!
と思ったら・・・。
?「はう?!猫耳さん?!しっぽぉ!お持ち帰りぃぃぃ!!」
「うわああ!!」
誰だか分からんが後ろからものすごいスピードで誰かに追いかけられている!!
誰だ?!
「はう!!逃げ回る猫さんかぁいいよぅ!!お持ち帰りぃぃ!!」
「あ!ちょっと待ってよ!レナ!」
ん?レナ?!あのレナ?!かぁいいものは全て持ち帰っちゃうというあの?!
やべえ!!逃げろ!!これは洒落んならん!!
「うおんもちかえりぃぃぃぃ!!!」
「ぎええええ!!!」
呆気なくレナに捕まってしまった俺であった……。
誰か合掌して……?
「はあ……はあ……なんでお姉ちゃんから逃げるのさ……疲れちゃったよ……」
「いや……その……こんな事になるとは思ってなくって……ごめん」
「ちょっと!レナ!勝手にお持ち帰りしちゃダメって言ったでしょ!」
「こんなにかぁいいのに……だめ?」
「「「ダメダメだーめ!」」」
三人でレナを諭す。
「弟君は私のものなんだからねっ!」
この人はこの人で爆弾発言をしている。
「ごめんなさい……。この子、可愛い物を見るとすぐに持って帰ろうとする癖があるんです……。ほら!レナ!謝って!」
「はぅ……ごめんなさいぃぃ……」
ウルウルとした瞳で俺を見つめるレナ。そんなガラスの様に透き通った瞳で俺を見ないでぇ!
良心が痛むぅ!
「あ……あの大丈夫です。俺が走ったのがいけなかったんで……」
「え?おれ?あなた、男性ですか?てっきり猫耳としっぽと首輪があったから女性のコスプレだと思いました……」
うっ!そうだった……!
レナに追われてたから服装の事忘れてた……!
「因みにこの猫耳としっぽね、直に生えてるんだよ!」
「へえ!凄いですね!触っても良いですか?」
「レナも!」
「うんっ!良いよ!!」
いやいや許可を下すのは俺ですから。姉さんじゃないですから!
「うわぁ!すごい!カチューシャじゃない!柔かーい♪」
ふにふにされる俺。
「はぅー……かぁいいよぅ……」
なんかくすぐったい……。
みんなに撫でられてると……なんだか眠くなってくる……ふにゃーん……。
「はぅー……眠たそうな猫さんかぁいいよぅ……」
「本当だねえ……」
本当に眠くなってきた……。
っは!!ここは?!そういえば道の真ん中だったような……!
周りを見渡すと……。
なんか色んな人が見てるんですけど?!
まるで俺らのいるここが異空間と化している!
まずい!逃げないと!
「あのー撫でてくれるのは嬉しいのですが……皆さんの視線が痛いのでこの場から離れません?」
「んー?あっ!ホントだ!みんな見てる!私たち人気者だあ!」
「はう!」
「え……ちょちょちょちょっと!全然気づかなかった!行くよ!」
そう言って俺たちを誘導してくれるロングヘアの女の人。
レナと言ってる事はこの人は……
「あ!言い忘れてたけど私園崎魅音です!この子は竜宮レナ!」
「竜宮さんに園崎さんね!弟君も覚えたっ?」
「お……おう」
まさか伝説の部活メンバーのうちの二人に会えるとはなぁ……。
という事は他のメンバーにも会える?
「おーい!圭ちゃんに沙都子に梨花ちゃん!」
まさかのビンゴ……。
あのカナカナのアニメだけかと思ってたけど……。
まさかこんな事になるなんて……。
姉貴のお陰?
「よう!今からメイド喫茶に行こうと思ってたんだ!みんなで行こうぜ!」
メイド喫茶ですか……。
それじゃあ俺達は帰らせてもらうとしてー……
「おっ!いいねそれ!キミ名案!弟君っ!れっつごー!」
やっぱりそうなる!!
もうやだ・・・この姿俺の学校の誰かに見られてたらお終いだ……。
「なあ魅音とレナ、そちらのお二人は誰だ?」
「あ、そういえば……お名前は?」
「よくぞ聞いて下さいましたっ!弟君の名前は工藤暁で、私の名前は工藤紗希ですっ!実は科学者だったりしまーす!」
そういえば俺らの名前が出たのって今が始めてのような……。
まあいいや。
それと姉よ、あなたは「腐れマッドサイエンティスト」な。
決して科学者ではない。
「……所でそこの猫耳さんって男だったの?てっきりセーラー服着てるから女かと……」
圭ちゃんと呼ばれる人が冷静にそう言う。
「姉貴がこんな格好させたんだよっ!もう恥ずかしいったらありゃしねえ!」
「でも弟君人気者だよ♪」
「別の意味でな!」
「「二人で漫才できそう……」」
即座に皆同じ事を考えるのだから、絆が深いといえよう。
勿論、工藤姉弟には聞こえてない。
「じゃあ私たちのメンバーも紹介するね!」
「前原圭一です!よろしく!」
「北条沙都子ですわ!よろしくですわ!」
「古手梨花なのですよ。みぃ~」
すげえ……。
ここまで見事にトレース出来るとは……
まるでひぐらしワールドに巻きこまれたみたいだ。
アキバ恐るべし!!
「みんなが揃った所でぇ……」
「「「メイド喫茶へれっつごー!」」」なのです!」ですわー!」
見事に部活メンバーの中に溶け込んだ姉。
ある意味最強だ。
みんなに引きずられてズルズルと連れていかれる俺。
あのお方のお言葉を借りたい限りです。
「不幸だああああああああ!!」
そんな叫びが奴らに届くはずもない
ずるずると引きずられながら、メイド喫茶に到着した俺たち一行。勿論、メイドさんがいるわけであるが……
「「おかえりなさいませ!お嬢様とご主人様♪」
よしちょっと待ってもらおうか。
今明らかに俺のほう向いて「お嬢様♪」って言ったよな?
俺の耳がおかしくなければ、はっきりとそう聞こえた。
「あの……」
「なんですか?お嬢様♪」
「なんでもないです……」
はぁ……やっぱりね。
この際心の中で言わせて貰おう。
二回目だけど。
不幸だああああああ!!!
「……猫耳……しっぽ……」
「へ?」
「みなさんっ!今日はこの方に免じて全品目タダにしますっ!!ハアハア……」
このメイドさん……鼻息荒いんですけど……嫌な予感しかしない……
「さあ!思いっきり食べちゃおうぜ!!」
「「「おーう!!」」」
部活メンバーに俺たち姉弟……。
すっげー変わったコンビだな。
死神の世界に天使が一人紛れ込んでいるみたいな?
というか俺の格好の方が重大な問題かもしれない……。
「ご注文は……ってお姉?!なんでここに?!」
「し……詩音?!なんであんたがここに居るのよ?!」
一見見ると見分けがつかない二人だが、お姉!とか詩音!って言っているという事は……。
こいつら姉妹だ。
「よう!詩音!お前ここで働いてたんだな!」
「け……圭ちゃん?それにみんなまで!」
ようやくお気づきになられましたか。
気付くの遅いですよ。
「……で、この女性お二方は?」
女性お二方?さあ誰の事を言ってるんでしょうねー
「あー詩音?実はね、この猫耳さん男の子らしいんだよ……」
魅音が補足する。
詩音がその言葉に対して魅音に疑いの眼差しを向ける。
数秒姉妹で睨めっこをした後、今度はその疑いの眼差しを俺に向けた。俺は無実だって!
「うーん……お姉の表情が珍しく真剣そうな顔つきですし、この方も嘘ついてる様には見えませんねぇ……」
ええそれは男ですから。
「ちょっとぉ!!珍しく真剣そうってどういう事よー!いつもは真剣じゃないってのー?!」
あなたが実際どうかは分かりませんが、少なくとも俺の知ってる魅音って人はいつも「あるぇー(・3・)」って言ってるイメージしかありませんが。
「そんな偏見持たないでよねー!ぶーぶー」
「まあまあ。とにかく、あなたは男性。そういう事にしておきましょう」
なんか気に障る言い方だな……と思った矢先、詩音と呼ばれる女性から悪魔の言葉が飛び出す。
「それはいいとして、その格好ウケ狙いだったりします?」
にやにやしながら話す詩音。
その目が明らかに俺をとらえていた。
俺がこの件について説明しようとした所に慌てて魅音のフォローが入る。
「あー!!これは罰ゲームでねぇ!!この子うちらの部活で何度も敗北しちゃってさー!」
「え、そんなこと……」
魅音が目配せ。私に任せて!という意味だろう。
その意思が他の部活メンバーにも伝わったみたいだ。
「そうですわ!まったくアキラさんと来たら、あんな勝負に負けてしまうだなんて……!」
「みぃー。アキラかわいそかわいそなのですよ☆」
みんな!ありがとう!それに魅音さんもいざとなったら頼れる良いお人です!
「あーら。お姉達と対決して負けちゃったんですかー。それは残念でしたね。それでこんな格好に……それなら納得出来ますね」
そのあと、みんながそれぞれ食べたい物を注文し、詩音はその伝票をもって厨房の奥へと消えていった。
みんなナイス!流石部活メンバー!!
…………と思った俺がバカだった!
「さぁ~て、詩音から守ったわけだしぃ!」
「「「うふふふ……」」」
「お……おいなんだよみんな……?」
姉も含め、周りのメイドさんまで手をわきわきさせながら近づいて来る……。
「や……やめろーーー!!!」
叫んだ所で何も起きない。
「きゃー!!可愛い!!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」
俺は今、あのメイドさんたちに猫耳とかしっぽで遊ばれているのだ。
あ!ちょっとそこはダメぇ……。
「しっぽ可愛い///本当お持ち帰りしたいわねぇ!」
「や……やめてぇ……」
俺は相変わらず遊ばれているのである。
うん。大勢の人に触られる猫の気持ちがわかる気がする。
早く抜け出したいのに抜け出せないこの状況、本物の猫なら既に抜け出しているのだろうが、俺は生憎人間なのでそう簡単には抜け出す事ができない。
「えいっ!この耳を甘噛みしてやるっ!」
「うひゃ?!」
「きゃー!!可愛い!!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」
そしてまた人が集まる始末。
頼む!姉貴!助けに来てよ!
詩音!くけけけとか意味不明な笑いするなよ!
レナ!どさくさに紛れてお持ち帰りしようとするなあ!!
うわ、ちょっとみんな何するものやめ……
(ここから先は文字が滲んでいて読めない)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……って!俺を勝手に殺すなァァァ!!」
「まっ!気にすんな!今日は飲もう!」
いや、意味わかんないし……。
「それじゃっ!あたし達は別の方向へ行くから!んじゃねー」
「「さよならー」」
あの一騒動が終わり、メイド喫茶を出た所で、部活メンバーに紛れて帰ろうと試みたが……
「こらこら弟くん。離れたくない気持ちは分かるけど、出会いは別れなんだ。ということで行くよー」
よく分からない名言(迷言)を言った後、何処にも目をくれず俺をズルズル引きずって行く姉。
通行人の視線が痛い……
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「……所で姉さん……。どこへ行くおつもりで?」
「んーAKB劇場ってどう?」
「やです」
「レッツゴー!」
とまあ、自分にとって都合の悪い単語は音速でスルーし、代わりに今までとは全く歯車が噛み合わない言葉を発言する、ある意味この世で「最強」(最凶?)の姉なのである。
---------
「という事で着いたよっ!!AKB劇場!!」
本当に来てしまった……。
ドンキホーテの8階のAKB劇場、始めてやって来たが、結構中は広い。
ここでライブが行われるのだろうか?
以外とお客さんは多い。
「あの、俺さ、場違いじゃない……?」
「丁度いいくらいに調和してると思うよ~!」
これのどこが!?
「名付けて"美と奏~奇跡の調和~"だね!」
全然調和してないし、世間から見たら東京タワーから地上を見下ろすくらい浮いているぞ。
……って自分で首締めてるようだから言いたくなかったんだけどなぁ……はぁ……
「今日はみんな来てくれてありがとう!!」
ついにライブが始まった。
この人達は研究生かな?頑張りがすごい伝わってくる。
~~~~
「会いたかった~Yes!!」
曲の終了と共に観客からの歓声があがる。
歓声に負けぬくらいの大きな声で、アイドル達もまた、「ありがとう!」と言う。
うん。ただこうして見ている分には凄く迫力のある劇で申し分無かったんだけど……。
そっと後頭部を触ってみる。
頭に生えたソレは消えていなかった。
「……ぜんっぜんダメねっ!」
隣の席に座っていた女性が急に口を開く。
驚いてそちらを向いてしまった。
「確かに萌えを追求するのは良い事よ!それが秋葉原という所だからね!でも、この子達は歌う事とダンスをする事に囚われすぎているわ!もっと心からの笑顔が欲しいわね!」
隣でアイドルについて熱弁されている女性がいらっしゃる……
おいおい……そんな事言っちゃって良いのかよ……
それはさておき、自ら蟻地獄の巣に一直線するようなアホではないので、颯爽とこの場を去ろうと……したが……
「んー、萌え要素よねー……ん?あ!ねえちょっと!」
誰を呼んでるんでしょうねー
ささ、姉さんとっとと帰りましょ!
「あなたこそ萌えに相応しいわ!!ついて来なさいっ!」
「なんでこうなるのさあああ!!」
首輪をがっしり掴まれどこかへ連れて行かれる俺。
抵抗しようとするも、姉と同様、させてくれない。
「ふふーん♪ いいのが手に入ったわ~♪」
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「ふぇぇ……涼宮さん遅いですぅ……」
「まーたあいつは……何かやらかしてなければいいんですが……」
ドッカーーン!!
「ひぅ?!」
すごい音で開かれる扉。
そのうち必ず壊れるであろう。
だが、今はそれは問題ではない。
問題は、あいつが持ってきた、いや、正確に言うと「手に持っている人」だ。
「おっまたせ~!!いやーちょっと運ぶのに戸惑っちゃって!」
「こらハルヒ。朝比奈さんも驚いているだろうが……。それに……どっから拉致ってきたんだ」
ハ……ハルヒ?!俺ハルヒに連れてこられたの?!
……なんで今日はこんなにアニメの偉人が現れるんだ……?
「拉致なんて言い方失礼よね!任意同行よ!ね?」
絶対に「イエス」としか言わせんぞ!というような見えない圧力が俺に襲いかかる。
くっ!う……うなずく事しか出来ないのか……!
「ねー!ほら!この娘も認めたじゃない!」
「それはお前が無理やり頷かせたんだろうが!」
まさにその通りなんですよ!!
助けて!!
ガチャリ。
後ろを振り向くと、ハルヒ様がドアの鍵を掛けた。
「な……なんで鍵をかけるんですかぁ!!!」
「うるさい」
一瞬で場が静まる。
……と、この海底の光も音も届かない所にいる様な静寂を一人の男性がぶち壊す。
「お前はここへ連れて来る際、しっかり許可をとったのか? というか何故連れてきた」
すると、多分ハルヒさんであろうお方が、よくぞ聞いてくれた!とばかりに得意げな顔になって語り出した。
「だって可愛いじゃない!こんな猫耳生やしちゃって~はむっ」
「うへぇ?!」
耳を甘噛みされて力が抜けてしまう俺。
耳はやめてくださぁい……
「それに何としてもこの尻尾よ!」
俺のしっぽを鷲掴みにして
「とってもキュートじゃない!うんうん!」
耳と尻尾のダブルパンチでその場にへたり込んでしまう俺。
「おい!この人が嫌がってるじゃないか!」
「なによー全くぅー……じゃああんたも触ってみるといいわ!」
そういって俺の尻尾を鷲掴みにして、男性の方へ向けるハルヒさん。
ちょ……尻尾は弱いんですって……
「遠慮しておく。それよりハルヒ、離してやれ」
「っもう。仕方がないわね!」
駄々っ子がお母さんに言われておもちゃを仕方なく返すように、ハルヒさんは俺の尻尾から手を離してくれた。
この人の言うことは聞いてくれるんだな。
「悪いなお嬢さん。こいつは後先考えずに物事を進めちまう悪い癖があるんだ。気を毒してしまったようであったら申し訳ない。もう帰ってもいいぞ」
まるで正義のヒーローが悪い魔物から救ってくれた時のような感動を覚える。抱きしめたい!!……っていかんいかん。
何変な事考えてるんだろうね俺は。
と、そこに、ドアをノックする音が。
「涼宮さん。お客様がお見えですよ。ここを開けてください」
ドアの向こうからハルヒさんを呼ぶ声。
みんな一斉にドアの方を向く。
ハルヒさんがズカズカと不機嫌そうな様子で鍵を開ける。
「鍵開けたわよ。誰? お客さんって?」
ハルヒさんの声に呼応したかのようにして、ドアが開く。
そこには、笑顔が眩しい好青年と、隣には……
「弟くんっ!!」
ドアが開かれたのと同時に、俊足で俺に抱きついて来たのは、我が家の最強のマッドサイエンティスト、姉である。
「いやはや、先ほど事務所の前を歩いていましたら、この女性が何やらここに御用がおありのようでしたので、ここへご案内した次第です」
こう言っている間にも笑顔を絶やさない彼。ずっとスマイルを絶やさないのは大変ではないのだろうか?
「弟くんっ?! 怪我はなかった?! 大丈夫!!?」
「お、俺なら大丈夫だけど……み、みんな見てるからさ……」
ぽかーんと口を開けて見ている四人を指差し、姉の目をそちらに持っていく。しかし、一向にハグをやめようとはしない。
「あはは……仲がお宜しいようで……」
常時爽やかスマイルの彼の額に汗マークが浮かぶ。流石に表情を隠す事はできないようだ。
「お前……なぁ……だから拉致るなって言っただろうが」
俺を魔の手から助け出してくれた彼がそう言う。
「だってしょうがないじゃない! こんなに可愛い娘をスカウトしないだなんて、頭がおかしいわ!」
彼女も、負けじと大きな声を張り上げて反論する。
……『こんなにかわいいこ』の『こ』という漢字が『娘』に聞こえた事は、心の中にしまっておこう。
「ふぇぇ……二人ともぉ~やめてくださ~い……」
バニーガールな女性が喧嘩(?)の仲裁に入る。が、ハルヒさんに弾かれてしまう。
「きゃうっ……」
その瞬間、その女性がこちらに向かって倒れかかってくる。
あ、あぶない!!
「おっと、大丈夫かな?」
さっきまで俺を捕まえていた腕が、彼女の方へ伸び、見事にキャッチ。
さすが、運動神経が良いだけあるわな。
一人で感心した。
「あの……ありがとうございます……」
煌びやかなバニーガール姿の女性の感謝の言葉が。
くぅ~なんだかいいねぇ~
「ま、いいって事よ!」
姉が、笑いながら彼女の背中をバンバン叩きながらそう言う。
おい、ちょっと痛そうだぞ。
この間にも、まだまだ二人の言い争いは続いている。
「お前の任意同行は拉致となんら変わんないといくら言えば…………」
「可愛いかったから仕方ないでしょ!」
「それは理由になっとらん! ハルヒ!」
収まる気配のない二人の喧嘩に、もう一人のスマイル好青年もお困りの表情。
バニーガール姿の方に限っては、涙まで流している。
あぁ……可哀想に……俺が慰めてやりたいです!
バシッ!
「いてっ……」
はい。ごめんなさいお姉様。もうそんな事言いませんから
「それにしてもハルヒ…………?」
姉が何かに気付いたようだ。
腕組みをして何か考え事をしている。
やがてぶつぶつ何か独り言を言った後、手を叩き
「あぁ!! わかった!!」
この部屋全体に響き渡るような大きな声で言うほど、何か重要な事に気が付いたようだ。
「涼宮さん! あたしの顔覚えてる?」
いきなり何を言い出すかと思えば……覚えてるはずないだろ……
だって初対面なのだから
「えぇ?! なに?! ……」
え?なに? この数秒の沈黙は....
「あなた……何処かで……あっ!! 工藤さん?!」
「やっぱり! こんな所で事務所やってたんだー!」
え? え? 二人はお知り合い??
「ええ。そうよ。大学時代に学科が一緒だったのよ!」
と、ハルヒさん
「そうそう! それでね、一緒に同好会作って、盛り上がったんだよ~!」
と、姉さん。
……え?
「同好会? ってなんだハルヒ?」
「あぁ、あんた達と出会う前に大学でね、同好会立ち上げたのよ。萌えに関する色んな事を語ったわ」
あぁ……どうりで一時期うちの中にフィギュア達が押し寄せて来た訳だ。納得。
「それは初耳でした。それでお二人はそれぞれの道を歩み……」
「私はアイドルの事務所、工藤さんは科学者になったわ! それぞれの萌えを突き詰めるために!」
なんだか盛大な物語になって来たぞ……
「あの……他にもいらっしゃったのですか……?」
ハルヒさんの後ろから可愛らしいバニーさん。
「ええ。他にも何人か居たわ。みんなそれぞれ萌えに関する別の道を辿って行ったわね~。それにしても、世界は狭いものね~! こうしてまた会えるんですもの!」
そうか。姉さんにはこんな過去が。
ちょっと意外。
「そういえば涼宮さん、我々、まだ自己紹介を済ませてませんでしたよね?」
「あ! そうだったわ! この際だからしちゃいましょう!」
ハルヒさんを中心に皆が立つ。
なんだか合コンのような気分だ。
「私がこの事務所のリーダー、涼宮ハルヒ!」
これって本名なのかなぁ……
「あ、これネームだから!」
ありゃりゃ……
「んで、このボサーッてしてて口うるさいのはキョンよ!」
「何が口うるさいだ! 大体だな……」
「ここでは全てニックネームで通すのが決まりでしょ!」
へ~そうなんだ~あはは……はぁ……
「で、このにこやかスマイルの好青年は、古泉くん!」
「どうも始めまして。古泉一樹です。以後お見知りおきを」
誰もが高評価するであろうにこやかスマイルを振りまく好青年。
もう一人の男性は、どこか不機嫌そうだ。
「んでんで~!! このロリで巨乳のバニーちゃんはぁ~! 朝比奈みくるちゃんよ!!」
いやいや……俺の目の前にわざわざ朝比奈さんを持ってこなくっても……
怯えてらっしゃいますよ。
「ふぇぇ……よろしくですぅ……」
ふぇぇこちらこそですぅ
「実はあともう一人居るんだけどねぇ……」
と、語りかけた途端……
ガチャッ
「長門有希……」
バタン
「「………………」」
それだけを言ってまたドアを閉めた人……
長門さん……? 分かりました。
「……とまあ、こんな感じでうちの事務所を経営しているわ! よかったらこの名刺を!」
ハルヒさんから名刺を受け取る姉。ちょっと中身を見せてもらうと、やはりSOS団の文字が見える。
「ありがとっ! 涼宮さん!」
「また遊びに来てね!」
ふうやっと帰れるのか……
と安堵したのも束の間……
「さっきから我慢していたけれど……その耳がひっじょーにキュートなのよねぇ……」
ちょ、ちょっと待ってよ……
手をうねうねさせながら近付いて来るハルヒさんから逃げるべく、後ろにある扉に手を掛けた……が!!
「逃がさない……」
気付いた時には、扉の向こう側にいた少女に手首を掴まれてしまう。
気付けば首輪のロープも姉に掴まれた状態で、逃げ場はもうない。
「ユキ……こっちに連れて来て……」
「承知」
いたた!! ちょ! 力強いですって!
「帰る前に猫耳触ってもいいわよねぇ……いいに決まってるわよねぇ……!」
「うん。いいよ」
ちょ……!
「それじゃ遠慮なく……頂きまーす!!!」
「うわーちょっとまってぇ!!」
他のメンバーに救いを求めるが……
「ずるいですっ! あたしにも触らせてくださいっ!」
と、朝比奈さん。
「僕も少々、興味があります」
と、古泉くん
「ねこ……ねこかぁ……」
と、にじり寄って来るキョンくん
「ねこの論理について」
キリッとした顔で言う長門さん
「や、やめてぇぇぇ!!」
「ねこちゃんねこにゃんぎゅーーっ!!!」
この後、この人たちに次の日の朝までいじり倒されたのは言うまでもない。
耳を甘噛みされたり、しっぽを掴まれたり、なでなでされたり……
ちょっと猫の気持ちが分かった気がします。
今回の教訓
『むやみに猫ちゃんを触らない!』
以上!!
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