「誰が悪かったか」でなく、「どうすれば防げたか」を解き明かす。消費者安全調査委員会(消費者事故調)の初仕事は、その意義を十分物語った。調査の対象は、東京でおきたエスカレ[記事全文]
株価が大きく上下するなかで迎えた今年の3月期決算企業の株主総会では、株主の関心が例年になく企業の成長戦略に集まった。米国ではファンドなどの「もの言う株主」が復活している[記事全文]
「誰が悪かったか」でなく、「どうすれば防げたか」を解き明かす。消費者安全調査委員会(消費者事故調)の初仕事は、その意義を十分物語った。
調査の対象は、東京でおきたエスカレーターからの転落死亡事故だ。下りエスカレーターを背にしていた男性の体がベルトに接触し、体を持ち上げられて階下に落ちた。エスカレーターは吹き抜けに面しており、両脇が素通しになっていた。
国土交通省の調査や民事裁判の一審判決では、「ふつうの使い方をしていれば起きなかった事故で、製品そのものに問題はなかった」と判断された。
事故調が今回まとめた中間報告はこれとまったく違う視点を示した。乗り口の手前にベルトへの接触を防ぐ設備があれば、そして両脇に転落防止柵があれば、事故の発生や大きな被害は防げたかもしれない、と。
これは製品じたいに問題があるかどうか、つまりメーカーの責任の有無にかかわらず、再発を防ぐのに役立つ視点だ。
ユーザーには幼児らもいる。ふつうの使い方だけ想定して、ものを作り、動かしていては事故は完全には防げない。安全な社会を築く上で、こうした注意喚起のはたす役割は大きい。
発足から8カ月たち、事故調の課題も見えてきた。
事故調はこれからこの事故の最終報告に向け、再現実験をするなどの本格調査に入る。
報告書は裁判の証拠に使われることがありうる。裁判が同時進行するなか、いかにメーカーや管理者の協力を得るか。裁判と並行している案件はほかにもあり、同じ問題をはらむ。
責任追及と再発防止はどちらが優先か、あるいはどうすれば両立できるかは、議論の割れている難題だ。走りながらよりよい着地点を探るしかない。
また、事故調は年間100件の調査を目標に始動したが、着手できたのはまだ5件だ。
調査を求めた人たちの中には「経過説明がなく、今どうなっているのかわからない」「話を聞いてもらえず、紙1枚で断られた」と不満をもつ人もいる。
風評被害を避けるため、言えないことも多いのだろう。しかし「被害者の納得」を看板に掲げる組織なのだから、もう少していねいに説明すべきだ。
遅さや説明不足は、人手の少なさも一因だ。航空や鉄道、船の事故を調べる運輸安全委と比べると半分以下。適正な規模を見きわめるのも課題だろう。
被害者のためにも社会のためにも、新たに生まれた安全追求の発想を大きく育てたい。
株価が大きく上下するなかで迎えた今年の3月期決算企業の株主総会では、株主の関心が例年になく企業の成長戦略に集まった。
米国ではファンドなどの「もの言う株主」が復活している。日本企業にも、リストラで業績と株価を高めるよう突きつける動きが目についた。経営側との応酬もあった。
人件費などのコスト削減頼みではなく、再編を含む事業変革や技術・人材への投資をどう進めるか。膨らんだ内部留保をどう生かすか。株主が投げかけた問いかけを、新たな成長モデルへの脱皮につなげたい。
ソニーでは、筆頭株主の米ファンドが映画・音楽部門を分離して上場し、得られた資金でテレビなどエレクトロニクス部門をリストラするよう求めた。約1万人が出席した総会でも議論になり、今後、経営陣が本腰を入れて検討する。
ファンドが投げたウォール街ならではの際どいボールに、経営側が応じるにせよ、説得力ある対案を示すにせよ、株主との緊張関係が日本企業に変革を促すなら歓迎したい。
かたや対立がこじれたのは、株式上場を目指す西武ホールディングスだ。
大株主の米ファンドがライオンズ球団の売却や赤字路線の廃止に言及。株式買い増しで優位に立とうとしたが失敗し、総会に取締役を入れ替える提案を出しても否決された。
公共交通機関、ファンが支えるプロ野球ビジネスを擁する西武は利害関係者の幅が広い。ウォール街の流儀はなじみにくいだろう。ただ、それで経営側が大株主の譲歩を引き出す成長シナリオを示す責任から逃れられるわけではない。
多様な利害関係者に目を配って、それぞれのパワーを結集するのが日本的経営の本来の強みだった。しかし、伝統ある大企業では利害を調整しきれず、変革が滞る懸念がある。
これが極端な形で表れたのが川崎重工業の社長解任劇だろう。総会でも事情説明が不十分で、株主の不満が募った。
濃淡はあれ、複雑な利害の調整は、多角化で成功してきた大企業の多くが抱える問題だ。
克服の近道は、単なる株主の代弁者ではなく、会社の内外で絡み合う利害を仲裁できる独立性の高い社外取締役を増やすことではないか。
今年はトヨタ自動車も初めて社外取締役を起用した。適格な人材を増やし、新たな日本的経営への脱皮を加速する切り札としていくべきだ。