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生活保護のリアル みわよしこ
【第1回】 2012年6月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
みわよしこ [フリーランス・ライター]

【新連載】
生活保護費削減なら国民全員が貧困化する可能性も!?
急増する生活保護にまつわる「よくある誤解」

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性急な制度改革の前に、まず「リアル」を知ろう

「生活に困窮した」という理由で杉並区の福祉事務所を相談に訪れ、「生活保護受給の必要性がある」と判断されると、このようなパンフレットを手渡され、生活保護制度についての説明を受けることができる。
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 以上、生活保護に関する「よくある誤解」について、駆け足ながら解説を加えた。ご感想はいかがだろうか。

 筆者は、現状の生活保護制度を「非常に良くできた制度」と考えている。運用が適切に行われれば、本当に困窮した時の最後のセーフティネットとして機能するだけでなく、経済的自立を支援・助長し、日本に住むすべての人の生活を豊かにする可能性がある。

 ただし、現在の生活保護法の施行が開始されたのは昭和25年。今年はもう62年目だ。今日ではさまざまな矛盾を抱えており、制度疲労を起こしている。より良く運用するために、何らかの改善が必要なのは間違いないところであろう。そして、必要な改善はおそらく、「一律減額」「現在よりも利用しにくくする」といったことではない。

杉並区が用意している、生活保護についての解説パンフレットの内容。非常にコンパクトだが、生活保護制度に関する重要なポイントが分かりやすく解説されている。
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 もちろん、冒頭で述べたとおり、日本の社会保障費増大は深刻な問題である。日本という国・日本に住むすべての人々が長期的に生存するためには、何らかの抜本的な改革が必要なのは明らかだ。でも、その改革は、今月や来月、今年や来年に性急に行わなくてはならないのだろうか? 事態はまだ、そこまでは煮詰まっていない。少なくとも、筆者はそう思う。

 性急に制度改革を考える前に、まず、生活保護という制度の「リアル」、生活保護受給者たち・生活保護という制度を支える人たちを始めとする多様な人々の「リアル」を知ることから始めるべきではないだろうか?

 制度改革についての議論を始めるのは、

 「身近なそのこと・身近なその人達について、私は良く知っている」

 と言えるようになってからでも、決して遅くはないと思うのだ。

 「ゆっくり歩けば、遠くに行ける」

 ということわざがある。

 本連載が、日本の「遠くに行ける」ための道を考えるための一助となれば、筆者として、これに勝る喜びはない。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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