性急な制度改革の前に、まず「リアル」を知ろう
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以上、生活保護に関する「よくある誤解」について、駆け足ながら解説を加えた。ご感想はいかがだろうか。
筆者は、現状の生活保護制度を「非常に良くできた制度」と考えている。運用が適切に行われれば、本当に困窮した時の最後のセーフティネットとして機能するだけでなく、経済的自立を支援・助長し、日本に住むすべての人の生活を豊かにする可能性がある。
ただし、現在の生活保護法の施行が開始されたのは昭和25年。今年はもう62年目だ。今日ではさまざまな矛盾を抱えており、制度疲労を起こしている。より良く運用するために、何らかの改善が必要なのは間違いないところであろう。そして、必要な改善はおそらく、「一律減額」「現在よりも利用しにくくする」といったことではない。
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もちろん、冒頭で述べたとおり、日本の社会保障費増大は深刻な問題である。日本という国・日本に住むすべての人々が長期的に生存するためには、何らかの抜本的な改革が必要なのは明らかだ。でも、その改革は、今月や来月、今年や来年に性急に行わなくてはならないのだろうか? 事態はまだ、そこまでは煮詰まっていない。少なくとも、筆者はそう思う。
性急に制度改革を考える前に、まず、生活保護という制度の「リアル」、生活保護受給者たち・生活保護という制度を支える人たちを始めとする多様な人々の「リアル」を知ることから始めるべきではないだろうか?
制度改革についての議論を始めるのは、
「身近なそのこと・身近なその人達について、私は良く知っている」
と言えるようになってからでも、決して遅くはないと思うのだ。
「ゆっくり歩けば、遠くに行ける」
ということわざがある。
本連載が、日本の「遠くに行ける」ための道を考えるための一助となれば、筆者として、これに勝る喜びはない。